アンモナイト


シュンと音を立て扉が開く。
「入ります」
部屋の中の三人が、入室した高松に顔を向けた。
「やあドクター。どうかしたのかい?」
机に両肘を突き手を組み、にこにこと顔を向けるマジックに、白衣姿の高松はポケットからオレンジ色の液体の入った小瓶を取り出した。
「お話しがあります」
「なにかね」
高松は部屋に視線を走らせると、つかつかとチョコレートロマンスに近づいた。
「飲んでください」
「ええっっ!? ちょ、なんなんですかこれ!!」
「安全性は保障します。ただ小さくなるだけです。更に言えば解毒剤もここに」
反対側のポケットに手を突っ込み、薄いピンク色の液体の入った小瓶を出した。
「……ジャンかい?」
「ええ、彼らが飲んでしまったものと同じものと思われます」
「それでなんでおれが飲まなきゃいけないんですか〜」
「いいから飲んでください。その方が話が早い」
「チョコレートロマンス」
高松に頷き、マジックがチョコレートロマンスの名を呼んだ。
涙目のチョコレートロマンスは、その声に体を震わせ、追い詰められた小動物のように、瓶の蓋を開けると一気に飲み干した。
「うわっ」
ポンッ と音を立てチョコレートロマンスが縮む。
「……大丈夫ですか?」
「ああ〜ドクターー、なんでおれが実験台にならなきゃなんないんですか〜」
小さな子供は大きな目に涙を溜めて高松を見上げた。
「こういうことです」
高松はマジックに向き直ると疲れたように息を吐いた。
「こうってなんなんですか〜〜」
「なるほど。困ったね」
先を言わない高松の言いたいことが理解できるのか、マジックは同じように息を吐き椅子から立ち上がった。
悠然と小さなチョコレートロマンスに近づくとその体を持ち上げる。
「さてチョコレートロマンス。私が誰か分かるかね」
「……マジック様でしょう……?」
何を言わせたいのかと首を傾げる。
その様子に苦笑して、同じように首を傾げているティラミスを見せた。
「ならば彼は?」
「ティラミスです」
「きみとティラミスが出会ったのはいつだい?」
その質問に言わんとすることが理解できたのかティラミスが「あっ」と声を上げた。
「なんだよ。どういうことだティラミス」
「馬鹿かおまえは。俺とおまえが出会ったのは10歳の時だろう」
「だからそれがなんなんだよ?」
「おまえの今の姿はとてもじゃないがそれより幼いだろう。それなのにおまえは俺のことを覚えている。あの小さな子供たちは何も覚えていないって言うのに」
「え? あ、そうか!」
マジックはチョコレートロマンスを床に下ろすと高松に尋ねた。
「彼らが飲んだものと違うという可能性は」
「ほとんどゼロです」
「そうか……困ったね」
「ええ。解毒剤もできたにはできましたが、これを飲ませるわけにもいかないでしょう」
高松は解毒剤の入った瓶をチョコレートロマンスに渡した。
「ああ。彼らの記憶後退の理由がわからなければ使うことはできんな。……どうするんだい?」
「パプワ島に、行ってみようと思います」
「そうか……」
マジックは微かに眉を寄せた。
「あの島か」
「あいつらを造った本人なら、この理由も或いは戻す事もできるのではないかと思いまして。……あまり気乗りしないようですね」
「あの島はともかく秘石はね……。うん。そうだね。でも、それしかないのなら、そうするしかないのだろうね」
マジックは気を紛らわすかのように片膝を突き小さなチョコレートロマンスの頭を撫でた。
「……戻した後の彼の処遇をどうするのか、考えておいてください」
「なあ、ドクター? 果たして彼は、大きな彼は、彼のことをどう思っているのかな」
高松は目を伏せて一言「わかりません」と答えた。



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月日の誕生石は「アンモナイト」
石言葉は「フレキシブルな思考」
そろそろ時間軸で並び替えるべきかもしれん……