グリーン・アベンチュリン・クォーツの勾玉


ジャンとアスが小さくなってすぐの頃。
小さな子供は今日も行く。
ガンマ団本部上層階。
殆ど音を立てず小さなアスが一人で廊下を歩く。
本日のお遊びはかくれんぼ。鬼が隠したぬいぐるみを捜す遊びだ。
三回目の鬼のアスは、子犬ほどの大きさのクマのぬいぐるみを隠す場所を探して、うろうろしていた。
早く隠し場所を見つけなければ百を数えたジャンが来る。
アスは総帥室の扉を開けると身体を滑り込ませた。


「どうかしたのか」
主のいない部屋をきょろきょろと見回し、アスは訊ねるキンタローに一度首を振った。
それからシンタローの執務机に近づくと一番下の引き出しを開けクマのぬいぐるみを詰め込んだ。
「なにをしているんだ?」
「かくれんぼ」
短く答えドアに向かい歩くアスを見ながらキンタローは聞いた。
「かくれんぼというのは、鬼が隠れた子供を見つける遊びなのではなかったか?」
アスは立ち止まり小さく首を傾げる。
「これいがいのかくれんぼはしらない。それにジャンがどこかにかくれたとしても、すぐにみつけられる。あいつのいばしょはすぐにわかる」
「そうなのか」
「ああ。おれもあいつも、おなじひせきのばんにんだから」
「秘石か」
キンタローは研究者の顔で考え込み、そして口を開いた。
「秘石とはおまえにとってどういった存在だ?」
「どう?」
「好きや嫌いといった感情だ」
「……ひせきはぜったいだ」
眉間に小さく皺を寄せアスは言った。
「すべてだ」
「全て?」
「ああ。そうなのだとおもう」
ガチャリと扉が開いた。
柔らかな気配が部屋に飛びこんでくる。
「あすぅ。くまさんどこー?」
とことこ近付くジャンにアスは答える。
「それをみつけるのがおまえのやくめだろう」
「むー。きんちゃんしらない?」
キンタローは小さなジャンに小さく首を振って答えた。
「教えたら遊びにならないのではないのか?」
「むぅ。くまさんどこですかー?」
きょろきょろ部屋を見回し、ゴミ箱を覗き込み書類棚を開ける。
「なーい」
「もうすこし」
「うん」
アスの励ましににっこり答えて捜索再開。
「ねー。なんのおはなししてたのー?」
「ひせき」
「ひせきー? あのね、ぼくねー、ひせきだいすきよー」
本棚を下から覗き込みぬいぐるみを捜す。
「ひせきはぼくたちをつくってくれたの。あすとずっといっしょなんだよ」
「そうなのか」
「うん」
ガラッとシンタローの執務机を開けた。
「あったー! こんどはぼくがおにぃ」
「ああ」
「ひゃくかぞえたらさがしにきてね!」
パタパタと駆けてジャンは部屋を出て行った。
アスはゆっくりと小さな声で数を数え始める。
淀みなく数え終わり、アスは部屋の扉に向かった。
「一ついいか」
「なんだ」
ドアノブに手を掛けた格好で、アスはキンタローに顔を向けた。
「もしも、もしもだ。もしも秘石がおまえの大切な者を殺せと言ったらどうするんだ」
「……ジャンか?」
キンタローは頷いた。
アスは目を伏せ、扉を開いた。
「ころすしかない」
パタンと扉が閉じる。

キンタローは、一瞬前の自分を呪った。



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月日の誕生石は「グリーン・アベンチュリン・クォーツの勾玉」
石言葉は「機会をつかむ」
明日は明るいので。……まだパプワ島行かないよ〜