前編


「ひせきーーーっっ!!」
「ジャーーーンっ!!」
親子の感動的な対面は見ている者の涙を誘った……わけでもなく。
小さなジャンと赤い秘石は楽しそうにきゃっきゃと戯れていた。そこだけ空間が眩い。
「ああもうっ! こんなに可愛い姿になって!! もうどうしましょうか青い秘石っ!!」
「好きにしろ好きに」
投げやりに青い秘石は応える。
アスはとことこと青い秘石に近づき、その傍に座り込んだ。
パプワ島の赤と青の秘石の住まう祠。
小さなジャンと小さなアスを連れ、シンタローとキンタローそしてコタロー、マジック、高松はパプワ島にやってきた。
コタローとキンタローは、島に着いた途端にパプワの元へ。残りの者が秘石のところへ。
「本題に入ってもよろしいですか」
高松の言葉に青い秘石が意識を向けた。
《コレの戻し方か》
「ええ。なにか知っていることがありましたら教えてもらえますか」
《……戻し方、なあ》
《えー! 戻してしまうんですか!? いいじゃないですかこのままで! こんなに可愛いんですからっ! ねー》
「ねーっ!」
小さなジャンは赤い秘石と見つめ合い理解していない笑顔でにっこり笑った。
その笑顔はきらめくように可愛いが、このままにしておくわけにもいかない。
高松はまだ話が通じそうな青い秘石に話しを向けた。
「戻す方法はありますか」
《方法なあ……》
青の秘石の態度は煮え切らない。
「あるのなら教えてください」
お願いの形を取る高松の語尻も、だんだんと強いものになっていた。
ふわりと青い秘石の気配が座り込むアスの頭を撫でた。
アスが青い秘石を見上げる。澄んだ青い瞳。
《……本当に戻す必要があるのか?》
静かに青い秘石は問うた。
「何を言っているんですか。当たり前でしょう」
《貴様等は、本当に、戻すべきだと思っているのか?》
冷たく、青い秘石は訊ねた。








「何を、言っているんですか」
高松は精一杯訝しげな声を出した。
マジックはにこにことした表情を崩さない。
ジャンは一人楽しそうに走りまわり、シンタローの足に跳び付いた。
《フン……。言葉通りの意味だ。本当に貴様らは頭が悪い》
見下す青い秘石に高松の周囲の温度が下がる。
「ネジが飛んでんのはどちらだってんでしょうね。私たちが彼に戻って欲しくないと思っているとでも言うってんですか?」
《ああ。言うまでもないことだがな》
「根拠を提示してもらえませんか」
《フン》
青い秘石の気配が高松を射る。
二人に挟まれたアスは立ち上がり、壁伝いに人の視線の集まらない出入り口のほうへと歩き出した。
《ならば聞いてやろう。貴様らアスはどうするつもりだ?》
ジャンはシンタローと両手を繋ぎダンス、ダンス。中腰になるシンタローを振り回しながらタンタンと廻る。
「そんな事はアナタには関係ないでしょう」
《そうはいかんな。貴様等はアスを恨んでいる。今の状況でアレを元に戻したら、大切な駒を殺されかねない》
「なら大切な番人だけアナタが大切に隠していればいいんじゃありませんか? 兎に角ジャンを戻す方法を教えなさい」
《何故?》
「なぜ? そんなの決まってます。ジャンがそれを望んでいるからですよ」
《ほぉう》
青玉が嘲笑した。
ジャンはマジックに体当たりをし、にっこり抱っこをせがむ。アスの姿が祠から消えていた。
《何故そう言い切れる?》
「研究も中途半端、サービスと離ればなれ。それになにより、彼は自分の意思で小さい姿になったわけではありません。事故が起こってしまった以上、戻せるならば元の状態に戻すことが優先されます」
《どうしてアレの意思でないと言える。自ら進んで薬を飲んだのかも知れないとは考えなかったのか?》
高松が青い秘石を睨む。
赤い秘石はにこにこと、小さなジャンの行動をメモリーしていた。
「ハッ。どうしてジャンがそんな真似しなきゃいけないってんですか? 話にもならない」
《例えば、そうだな日常からの逃避》
「くだらない」
《過去への回帰》
「ありえませんね」
《突然現れた目の前の人物への執着》
「っ。ぞっとしない冗談ですね。もう少しまともな事が言えるようにプライマリースクールからやり直してきたらどうですか」
すっとシンタローが地面に座り込んでマジックと二人であやとりを始めたジャンの側から立ち上がった。
「青玉」
青い秘石に向き直る。
「それでも二人は元に戻すべきだろ」
《ホウ? どうしてそう思う》
「どんな今でも過去の積み重ねだ。それから逃げてちゃなにも変わんねえ。それを教えてくれたのはこの島だっただろ」
《フン。影風情が知ったような口を利く》
「んだとこの玉っ!!」
《影らしい大口だな》
「テンメェ。俺にはシンタローっつー名前があんだよ。影影言うんじゃねえ」
《フン。影は影だ。……だが、そうなのだろうな》
「ああ?」
《……番人は、そいつらは私たちに逆らえん。そういう風に造った。だがお前は違う。私の言うことを一つも聞きはしないだろう。お前は、例え私が命じたとしてもパプワに手を掛けることはしないだろう》
「ああん? なに当たり前のこと言ってやがるんだテメェ。んな戯言、テメェが口に出した瞬間にぶっ壊してやる」
《お前にはそれができる。だが番人は……アレは、例え赤の一族の子だとしても、赤い秘石が命じれば殺すだろう》
「は?」
《そう、造った。『殺さない』という選択肢を思い付くことすらできない》
青い秘石は息を吐いた。空間が小さく揺れる。
《例え殺せと命じた相手が己にとって大切な者だろうとそいつらは殺す。お互いの命だとしても奪い合う。そういう生き物だ、そこにいるモノは》
青い秘石の動きに釣られ、シンタローがジャンを見る。
ジャンは手を止め首を傾げた。
「なーに?」
《今のままの方が幸せだとは思わんか》
青い秘石の問いが祠に響いた。



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