ペチュニア


カリカリとペンの滑る音が部屋に響く。
珍しく真面目に仕事に向かうシンタローに、部屋に入り込んだグンマは声を掛けた。
「ねえシンちゃん!」
「んだよ」
「明日お休みなんでしょう?」
「あ? 買い物付き合えってんなら断るぜ」
「違うよ。僕じゃなくてキンちゃん! キンちゃんも明日お休みでしょ」
「へー」
「『へー』って!知ってるくせに!」
「だったらなんだよ」
「これあげるから二人で行ってきなよ!」
にこにこ笑顔のグンマが差し出したのは映画の招待券。恋愛モノ、二枚。
「貰い物なんだけど、期限が明日までなんだ。本当は高松と行く積りだったんだけど予定が合わなくって」
シンタローは眉間に皺を寄せ、券を凝視していた。
グンマはそれに頓着せず話を続ける。
「それでね、その映画を上映してる映画館の近くに、美味しいケーキ屋さんがあるんだ。シンちゃん!お願いだからお土産に買ってきてね!僕と、高松と、コタローちゃんとジャンさんとお父様の分!」
「……んでチンのヤローと親父の分が入ってんだよ」
「だってそれくれたのジャンさんだもん。雑誌の懸賞で当てたんだって。でも二人とも行けそうにないからって、僕が貰ったんだ」
「……俺はアクションモノの方が好きなんだよ」
「恋愛モノを見て良い雰囲気になったときに告白だよシンちゃん!」
「んなっ」
「じれったいんだよ二人とも両思いのくせに!」
「そ、んなことわかんねーだろーが」
シンタローは顔を赤くして目を泳がせた。
「わかるよ。もうみんな知ってるよ」
「なっ」
シンタローは口を開いて固まった。
そして黙って机の上の券に視線を戻す。
「グンマ……」
続いた言葉に、グンマは少し残念そうに頷いた。





「あーあ、高松は抜けられない会議があるって言ってたし、ジャンさんと行こうかなあ」
本気ではない口調で手元に戻ってきた映画券を見ながら廊下を歩く。
グンマは「んー」と一つ伸びをして先程のことをぼんやり思い出した。

『俺たちは俺たちなりのペースで進んでいきてぇんだ』

告げられた言葉は納得するもの。
グンマにはそれ以上無理強いは出来なかった。
「まあ、あんまり外野がどうこう言ってもしょうがないもんねー。上手く言って欲しいだけなんだけどね」
「なにがだい、グンちゃん」
「おとーさま」
マジックに気付かなかったグンマは、一瞬驚いた顔をして、それからにっこりと微笑んだ。
「はい、おとーさま! これプレゼント!」
「なんだい? 映画の招待券かい?」
「うん。ジャンさんに貰ったんだ。期限は明日までだから、二人でどーぞ」
ジャンの名と映画の内容に気がついたマジックは困った様に笑ってわざとらしく息を吐いた。
「行きたくないからといって押しつけたな」
「ジャンさんも恋愛モノ苦手だって言ってたもんね」
「彼のアレは苦手というより、一緒に恋愛映画を見に行くというシチュエーションに羞恥を覚えているだけさ。……グンちゃん、貰ってもいいのかい?」
「うん。元々ジャンさんの物だし。それに僕、明日は一日中仕事をしてる高松の側にいる積りなんだ」
にっこりと笑ってグンマは、明日は「ジャンさんからの報復に合わないように守ってよ」と高松の側にいる権利を勝ち取ろうとひとり決意した。



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5月14日の花言葉は「心の安らぎ」
キン→←シンなのです。
グン→高なのです。
そしてマジジャンなのです。
花言葉関係なくなった……。