桜草


部屋に戻らずぶらぶらと。
ちょうど3時のおやつの時間だったのをいいことに、ジャンはグンマの研究室にお邪魔していた。
「なんかよー、拍子抜けって言うかさ」
「じゃあジャンさんは、もし僕たちが反対したらやめるの?」
困惑したような色の声に、向かいに座ったグンマは、紅茶の入ったカップを持って尋ねた。
ジャンは言葉を詰まらせた。
「……説得する」
「なら良いじゃない。なんの問題もないでしょ?」
「んー、まーなーー」
グンマは蜂蜜入りの紅茶を一口飲むとクスクスと笑った。
「シンちゃんの言う通り、マリッジブルーだよ」
「マリッジブルーなぁ」
深く腰掛けたソファーに背を預け、ジャンは天井を見上げた。
「……不安なのは、その先の生活、なんだよなぁ」
「案外変わらないものかもよ?」
「そっかー?」
「そうだよ。それに変わったとしても慣れるでしょ?」
「そっかなー」
ジャンは軽く肩を竦めてテーブルの上のカップに手を伸ばした。
「そうだよ、僕もシンちゃんもキンちゃんも慣れたし。だからジャンさんがお父様の奥さんになってもきっと慣れると思うよ?」
「……奥さんに、なるつもりはないんだけどな」
ジャンは気の緩んだ笑みを浮かべて答えた。
「ねえ、ジャンさん」
じっとグンマはジャンを見据えた。
「もしも、コタローちゃんが目覚めた時、反対したらどうするの?」
ジャンは一瞬息を呑み、真剣な顔でグンマの顔を見返した。
「納得してもらえるよう、努力するよ」
「もしも納得してもらえなかったら?」
ジャンはフッと肩の力を抜いて優しく笑んだ。
「コタローが笑顔で入られる方法を選ぶよ」
当たり前のように答えるジャンにグンマはにっこりと笑った。
「なら本当に、僕たちから言うことは何もないよ。ジャンさん、僕はね。お父様とジャンさんの幸せも、高松に思うのと同じように願ってるんだ」
「……ありがとう。幸せになるよ」
ジャンはゆっくりと、心から言った。
「挙式、楽しみにしてるね」
「ああ」
穏やかに笑い合って。
二人は小さなお茶会を再開した。



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5月18日の花言葉は「初恋・長続きする愛情」