ミヤマカタバミ |
「……やっぱり化粧するのか?」 控え室に入ったジャンは、式場捜しから付き合ってくれていた二人の日系女性のかわいい顔を見て、それからサービスの顔を見て引きつった笑みを浮かべた。 「当然ダロ。映画俳優だってするぞ」 「オレ、映画俳優じゃないし」 「そうも言ってられないさ。テレビ局の取材も来ているみたいだしナ」 「……なんでテレビなんて遠い存在が……」 「ガンマ団元トップが男性と再婚だぞ。ワイドショーのいいカモダヨ。式が終わったらコメントも求められるだろうネ」 「……めんどくさい……」 「覚悟はついたんじゃなかったのかい?」 優しさのかけらも無いサービスの言葉にガックリと肩を落とし、ジャンは二人の女性に身を任せた。 服を黒の礼服に着替えさせられ、顔を整えられていく。 「あーーー、式とインタビューと今後の生活が不安だ」 「民事婚ダロ? おまえが嫌いな堅っ苦しさも幾分かましさ。インタビューは、まあ、おまえにコメントを求めてくるような馬鹿はいないサ」 「そうかなあーーー」 「そりゃそうですよ。視聴者は名前も知らないアンタの言葉よりも元総帥のものを望んでいますし、大体、見るからに馬鹿そうなアンタにコメント求めてとちられたら、ガンマ団敵に回しかねませんからねえ」 知った声の失礼な言葉に入り口を見ると、礼服に身を包んだ高松がいた。 「高松! 来てくれたのか?」 「なんで疑問形なんですかアンタ」 「いや、来ないかと思ってたからさあ」 「アンタの似合わない恰好を見に来てやったんですよ」 「なんだよそれ。カッコイイだろ?オレ」 高松は上から下までまじまじとジャンを見ると口を開いた。 「……馬子にも衣装の体現みたいなものですねえ」 「おまえな!」 「高松。グンマたちのところへ行かなくていいのか」 高松はサービスを睨んだ。 「わ、た、し、はっ! お二人が謝ってくるまで絶対に許しませんっ」 ジャンは苦笑。サービスは呆れた顔をした。 「でも来てくれたんだな」 「……あの人と結婚だなんて思い切ったことをした馬鹿を見に来てやったんですよ」 「あっ、なんか普通の反応だ!」 はしゃぐジャンに高松は眉をひそめた。 「なに言ってんですかアンタ」 「いやさ、結婚しますって報告した人みんな「へー」とか「おめでとう」とかっていう反応しかしてくれなかったんだぜ。ひどいよなー」 「そりゃ、相手が相手ですから、反対しようにも出来ませんし、それに私たちは知っていますからねえ。グンマ様やシンタロー様が何を思って許したかは分かりませんが、サービスやハーレムのなら分からなくもありませんよ」 「知ってるってなにを?」 高松は肩をすくめて答えなかった。 あの頃は毎日が明るかった。 25年は後悔だった。 そして彼は帰ってきた。とんでもない幸運と、騒ぎを引き連れて。 反対しようという気は起こらない。 「大体、どういう反応を望んでいたんですか」 「えーーー? なんで!?とかこんなやつが相手だなんて認めねえ!!とか?」 「アンタほんとーに馬鹿ですね。いや、アンタを馬鹿といったら馬鹿に失礼ですよ」 「ひっでー!」 「ああ、そろそろ時間ですね」 高松は壁に掛かった時計を見上げた。 「ではまた後で」 「楽しみにしているヨ」 控え室から出て行く二人の友人に手を振り、ジャンは、微かに緊張してきた身体に酸素を吸い込んだ。 −−−−− 5月20日の花言葉は「喜び、歓喜」 |