デゴチア



 今日からしばらく留守にするのでよろしく!
 ばーい みんなの優しいお父さん ぢゃん


「って誰が父親だーーーーっっ!!」


ジャンさんがお父さまとケンカをして家出をしました。


「しかし困ったな。よろしくと言われても、俺たちも明日、ここを発つんだが」
「とりあえず、電話かけてみようよ」
「あいつケータイ持ってたのか?」
はぁーとため息をついてシンちゃんが電話を掛ける。
≪ジャン、早く出な。ジャン、早く出な。≫
サービス叔父さんの声の着信音が廊下から聞こえた。
それと慌てるような誰かの気配。
「これって……」
シンちゃんがキンちゃんに目配せをした。
キンちゃんは頷くと気配と足音を消して総帥室の扉まで近づき、一気に開けた。
「ジャン」
「うわああっっ」
ジャンさん、家出三時間にして捕獲完了。



「んで、ケンカの原因は?」
「……べつに」
「別にじゃねぇーだろ」
睨むシンちゃんと拗ねるジャンさん。
僕はソファーに座ってキンちゃんにいれてもらったココアを飲んだ。
「あのなあ。俺らはお前と違って話してもらわねぇーとなに考えてんだかわかんねぇんだよ」
「……んなこと言われても」
「ジャンさんがお父さまの行いに家出までするのって珍しいじゃない。心配してるんだよ僕たち」
「別に、くだらないことだし」
「マジック伯父貴とオマエの喧嘩でくだらなくないものなんてあったか?」
「……そこまで言われると情けなくなるって言うか……」
ジャンさんは観念したように肩を落とすと、捕獲の原因、携帯電話を取り出した。
「ケータイがどうしたんだよ」
「着信音、替えろって。で、『貴方にそんなこと指図される謂れはありません』って大喧嘩」
「……くだらねぇー」
「だから言うのやだったんだって!」
シンちゃんとキンちゃんはため息。
ジャンさんは居た堪れなさそうに身体を縮こませた。
「そういえば、サービス叔父さまの声だよね。どうしたの?」
「このあいだ、遊びに行ったときに頼み込んで吹き込んでもらったんだ」
「お前っなに一人でいい思いしてんだよっ!」
「いいだろー。やらないからな!」
「てっめえ」
こっちはこっちでケンカを始めそうだ。
「しかし、どうしてマジック伯父貴は着信音ごときでそんなに怒るんだ」
キンちゃんがわからないといった顔をして首を傾げる。
「だよな! 別にやましい何があるわけじゃないのにさ!」
「独占欲強いからな、親父」
う〜ん。
「でも僕、お父さまの気持ち、わからなくないよ」
ジャンさんが僕を見る。
「ジャンさん、さっきサービス叔父さまの話しをしてるとき、すごく嬉しそうだったもん。きっとその着信音がなる度におんなじ顔してるんじゃないかな。だとしたら、お父さまも嫉妬しちゃうよ」
「……んなこと言われても。せっかく吹き込んでもらったのに」
「だが、自分にも非があることはわかっているんだろう?」
「…………あー、そういやシンタロー、明日からここ空けるんだっけ?」
「とっとと仲直りしろよ」
「……オレが悪いと思うか?」
「少しはね。ジャンさんだって、お父さまがケータイの着信音にシンちゃんの声を登録してたら嫌でしょう?」
「きしょくわりぃこと言うなよグンマっ」
叫んで腕を擦るシンちゃんを見て、ジャンさんは苦笑した。
「まーなー。オレは半分諦めてるからまたかぁって思うだろうけど、やっぱり少しは嫉妬するかな」
「そういうものなのか」
「そういうものだよ」
「そう、かもなあ。しょうがないなあ、シンタローが安心して本部を空けられるように御機嫌とってきてやるよ」
ジャンさんはそう言って携帯電話をポケットに仕舞うと総帥室を出て行った。
「……ジャンさんの声を着信音にするのもいいかもしれないなあ」
僕の呟きにキンちゃんは首を傾げ、シンちゃんは肩を落とした。
「いま連絡とってねーんだろ? 無意味なんじゃねえのか?」
「でもサービス叔父さまはときどき会ってるみたいだし、ジャンさんもときどき連絡取ってるみたいだし」
「疑心暗鬼にさせてどーすんだよ。帰ってきてからにすれば?」
「僕としては早く自覚して欲しいんだよね。もうそろそろ僕限界」
「なんの話だ?」
話に入って来れないキンちゃんが説明しろと声を挟んだ。
「うーん。長年の片思いとそれを成就させるための駆け引きの話しかな」
「恋愛なら、駆け引きなどせずに『好きだと』一言伝えればいい」
まっすぐなキンちゃんが僕は好きだ。
「そうだね。いつかちゃんと伝えられたらいいなって思うよ」
「ああ、そうだな」
こくんと頷くキンちゃんはとても可愛い。
キンちゃんはまっすぐで、きちんと人の話しを聞いてくれる。
シンちゃんも、キンちゃんのこんなところが好きなのかなあと思う。
羨ましいし、お父さまには悪いけど、シンちゃんの恋が成就すればいいなって僕は思う。
高松もいつか、僕の言葉をきちんと受け止めてくれるかなって思ったら、前途多難さに、ちょっと目眩がした。



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5月23日の花言葉は「変わらぬ熱愛」
新パプワ直前かな。