「おれがシンタローだ!!」
「ちがうっ! おれがシンタローだ!!」
睨みあう二人に、どうしたものかとマジックは息を吐いた。



ありえたかもしれない一つの可能性としての物語
――または
一つの転換期


ジギタリス




「ねえたかまつ。なんでシンちゃんが二人いるの?」
「……分裂したんだよ、グンちゃん♪」
両腕を片方ずつ小さな息子と小さな甥に取られたままにっこりマジックは嘘をついた。
「ぶんれつ? シンちゃんって、スライムだったの?」
「グンマ! 人をモンスターみたいに言うなよ!!」
「ぶんれつ?」
「そうそう。今の二人の状況がそれだよ」
「パパ、頭大丈夫か?」
「シンちゃん酷い!! パパがシンちゃんに嘘つくなんて思ってるの!?」
「うー……ん」
こくりと幼いシンタローに頷かれ、マジックは涙を流した。
その様子を見ながら、キンタローがマジックの腕を引いた。
「……パパ」
「ん? なんだい?」
「おれはシンタローではないのか?」
見上げる青い瞳。
マジックは困った顔をした。
「……シンちゃんと、同じ人間かという意味なら、違うよ。君はシンタローじゃない。でも、君がそうだと思うなら、私は君の父親だ。君もシンちゃんと同じ私の息子だよ?」
「……むすこ、なのか」
「そうだよ、キンちゃん」
「『キンちゃん』?」
マジックはしゃがみ、キンタローと視線を合わせた。
「キンタロー。それが君の本当の名前だよ」
「きんたろー」
確かめるようにキンタローは同じ言葉をなぞる。
「そうだよ。君はキンタローだ」
立ち上がりマジックはキンタローの頭を撫ぜた。
キンタローは頭の上の手のひらに不思議な顔をして、マジックを見上げた。
そんなキンタローの様子にマジックはにっこり笑い。
「パパはおれんだっっ!!」
シンタローがキンタローを突き飛ばした。
「シンちゃんっ」
「ふぇ」
尻餅をついたキンタローは呆気にとられた顔をして、それからワンワンと声を上げて泣き出した。
「なんだよ。弱っちいやつ」
「ダメでしょうシンちゃん! こんなことしちゃ!」
「ほら、泣くなよ。男の子だろ」
倒れたキンタローにコタローが駆け寄った。
マジックはシンタローをメッと叱る。
シンタローはマジックの叱咤にビクリと身体を震わせ、それから扉に向かって走り出した。
「コラッシンちゃん!」
「パパのばーか!!」
両目に涙をため、シンタローは廊下へ飛び出した。
「……シンちゃんにバカって言われた……」
ガーンとショックを受けるマジックはガックリ肩を落とした。
小さなシンタローにバカといわれたのがよほど堪えたようだ。
しかしその衝撃も、グンマの一言に吹っ飛ぶ。
「マジック伯父さま。シンちゃん泣いてたよ」
「え? 本当かいグンちゃん!」
「うん。だってぼく見たもん」
「……シンちゃんが泣くなんて……」
泣き顔の記憶なら、あまり会う事のなかったグンマのものの方がある。
シンタローはあまり泣かない子供だった。
その子供が泣くなんて、よっぽどの事だ。
ふと、ジャンの気配を感じた。
マジックは首をかしげ辺りを見回す。
ジャンの気配は一瞬で、もう感じることは出来なかった。
マジックは小さく溜息をつき、そしてごしごしと目を擦るキンタローに目を留めた。
金色の髪に青い瞳。
青の一族の証を持った、大切な弟の息子。
「パパ?」
マジックは安心させるように笑いかけ、それからコタローに視線を向けた。
「コタローちゃん。パパちょっとシンちゃんを捜してくるから、ちょっとお願いするね」
「うん。任せておいてよ!」
コタローとキンタローとグンマの頭を優しく撫で廊下へ出る。
(ジャンに怒られてしまうな)
ジャンはシンタローをねこ可愛がりしているところがある。
証を持たずに生まれた子供は、不安がって泣いたのだ。



−−−−−
6月21日の花言葉は「胸の思い」
あ、そうそう。赤いキャンディーだったのはメルモちゃんからですよ!
ちっさくなるのは赤いキャンディーらしいですよ!