ありえたかもしれない一つの可能性としての物語
――または
一つの転換期


タチアオイ




「たかまつー」
澄んだ青い瞳が高松を見上げた。
「どうしました、グンマ様」
「シンちゃん大丈夫かなぁ?」
「ああっなんとお優しいっ。心配ありません、グンマ様! マジック様が迎えに行かれましたから、グンマ様が心配なさるようなことは、なに一つございません!」
「そうだよね。シンちゃん、マジックおじさまのこと大好きだもんね」
安心したようににっこり笑うグンマの笑みに、高松は頬を弛ませる。
「なんて本当にお優しい……」
「ね、たかまつー」
ツーっと鼻血を垂らす高松の手を気にせずグンマは引っ張っていく。
グンマはキンタローの側まで高松を引っ張っていくと手を繋いだまま身を乗り出し、コタローの後ろに隠れるキンタローを覗いた。
「ねえ」
キンタローはコタローの足にぎゅっとしがみつく。
グンマは高松の手を引っ張ってさらにキンタローを覗き込んだ。
「ねえ。はじめましてだよね。ぼくグンマ。よろしくキンちゃん」
「……知ってる」
「え?」
「ずっと見ていた。泣き虫のグンマだろう」
「むー。泣き虫じゃないもん! シンちゃんがいじめるのが悪いんだよ!」
「そうなのか」
「そうなの! ねえねえ。キンちゃんは、ずっとシンちゃんと分裂したの?」
「ああ。そうなのだと思う」
「そっかー。分裂する前はひとりぼっちだったの?」
「ああ」
「寂しくなかった?」
「……よくわからない」
コロコロ表情の変わるグンマとあまり表情の変わらないキンタロー。
二人はいつの間にか保護者の側を離れていた。
取り残された高松にコタローは近づいた。
「大丈夫?」
「なにが……でしょうか」
気遣う眼差しを向けるコタローに高松は首を傾げた。
「もう! 避けてたじゃないか!!」
プンとコタローは拗ねた。
高松はその言葉にやっと何の事か思い当たったのか「ああ」と呟いた。
「グンマ様のことですか。ええ、なにも問題ありません」
告白されてからあんなに避けていたのが嘘のように、高松は昔のようにグンマの傍にいられた。
「ヘンなの」
「……そうですね」
何が理由かは高松にもわからなかった。
「たかまつー」
にっこりと笑ったグンマが高松を見上げた。
昔と同じ笑顔。
チクリ。
一瞬寄りそうになった眉に、高松は気付かない振りをした。



−−−−−
6月23日の花言葉は「単純な愛」
短いなあ……。