勿忘草


「でもさ、オマエから話し掛けてくれるなんて思ってなかったよ。」
 ガンマ団基地の屋上の柵にもたれ掛かり、ジャンはにっこりとハーレムを見上げた。
「あ?」
 ハーレムは眉間にしわを寄せ、半眼にした。
「んー、だってさ、嫌われてんじゃん、オレ?」
「別に嫌ってねーよ。」
「そうかぁ?」
 ハーレムは横を向いた。
ジャンは首を傾げた。
「そうだよ。別に嫌ってる訳じゃねぇ。」
「ふーん。そっか、なら良かった。」
 笑顔を向け、それ以上追求してこようとしないジャンに、ハーレムは小さく舌打ちをした。
「ハーレム?」
「なんでもねぇーよ。」
「なんだよー。言いたいことがあるなら言えよー。」
「はん。気になるなら心読めよ。」
「えーー。」
「出来んだろ?やりゃあいいじゃねぇか。」
「だってやだよ。戦いでもないのに力使うなんて。それに……。」
「……それに?」
「それで心の中見てみて、やっぱり嫌われてたらスゲーショックじゃん。立ち直れねえよ。」
「ああっ?テメー、オレのこと信用しねぇっていうかよ。」
「えーと、そうじゃなくてー。」
 要領を得ないジャンの話しに、ハーレムは付き合ってられるかとばかりにジャンに背を向けた。
「そうじゃなくて……。」
 ジャンは呟く。
「そうじゃなくて、好きだって思われてないだけで辛いからさ。」
「はぁ?」
 ハーレムは首だけをジャンに向けた。
「好きだから、ハーレムのこと。」
 淡く笑うジャンの顔を見て、ハーレムは彼が自分に向ける感情に気が付いた。
 そして押し黙る。
 ジャンは、そんなハーレムの態度に頭を掻いた。
 そしてハーレムの方へ歩きだした。
「んな顔すんなよ、ハーレム。」
 ハーレムの横を通り抜け、そのまま基地内へと続く扉へ向かう。
「言ってみただけなんだ。」
 そして扉に手を掛け、振り返って笑った。
「だから、忘れてくれ。」

 パタン、と扉が閉まる。

「バカか、アイツ。」
 にやけそうになる頬を叱咤し、ハーレムは扉を見詰め続けた。


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5月15日の誕生花「勿忘草」
花言葉は「私を忘れないで」
一方通行両想い。