フクシア |
「なあ、ほんとに行くのか?」 研究室の荷物をダンボールに詰めながらジャンは問った。 「当たり前ですよ。あそこまで言われたらお二人が謝って来るまで許しません!」 「あっそ……。」 高松がグンマとキンタローと喧嘩をしたらしい。 そして今から高松は家出をするらしい。 「……どこに行くか、当てとかあんの?」 「そうですね……。」 衣服をトランクに積み込む。 「まあ、落ち着いたら連絡しますよ。」 「あっそ。」 考えてなかったんだな、とジャンは高松の机の物を詰めていった。 それにしても荷物が多い。 「なぁ。これ、全部持ってくのか?」 「ええ。いけませんか。」 「いや、いけなくはないけどさぁ。」 どれもこれも微妙だ。 「大体これなに?」 ジャンが見せたのは、古い歯ブラシ。 毛が開いている以前に、もう使われている形跡がない。 「それはルーザー様が使っていたものですよ。」 「は?」 「ルーザー様が、もう捨てると言っていたのを貰ったんですよ。」 「………………あぁ、そう。」 「あとあれとこれとそれもルーザー様の私物を貰い受けたものですねぇ。」 壊れたシャープペンシルと、うんともすんとも言わない小型テレビと、入り口の壊れた鳥籠。 「……おまえ、ほんっと、ルーザー様のこと好きだよな。」 「そうですか?」 (自覚なしかよっ) ジャンは疲れたように肩を落とした。 「それにしても、おまえまでどっか行っちまうと、寂しくなるよなぁ。」 「サービスは今バリですって?」 「ああ。優雅にバカンスしてるみたいだぜ。」 「へえ。」 「オレも付いてけば良かったよ。」 「じゃあ、来ますか?」 「へ?」 「私と一緒に行きますか?」 ジャンは、じっと高松を見て。笑った。 「やめとくよ。こき使われそうだし。」 「残念。荷物持ちにちょうど良いと思ったんですがねぇ。」 机の上の写真立てを入れ、段ボールを閉じる。 小鳥のレリーフとルーザーの写真。 「ルーザー様だらけ。」 ポツリと聞こえないようにジャンは呟く。 「ちょっと色々ゴメンかな。」 「なんか言いました?」 「なんにも。それより、あとどれを持ってくんだよ。」 「あとはその棚の……」 ジャンの呟きは、彼の望み通り高松の耳には入らない。 ジャンは、目を伏せて笑った。 ‐‐‐‐‐ 5月22日の誕生花「フクシア」 花言葉は「趣味のよさ」 |