イエローサルタン


「なにやってんだ?」
 シンタローの私室。
 床に何かを広げ、フンフンと楽しそうに鼻歌を歌うジャンを、シンタローは背後から覗きこんだ。
「写真の整理。ついでに昔のアルバム引っ張ってきた。」
 にこにこと、先日の戦場での写真をアルバムに貼り付けていく恋人に、シンタローは呆れたような顔をした。
 先日戦場へ付いて来たジャンは、ここぞとばかりにシンタローの写真を取り捲っていた。
「お前、楽しいか?」
「スッゲー幸せ。」
「あっそ。」
 言い切られてしまえば頷くしかない。
 シンタローは軽く首を振り、昼食の準備に取り掛かろうと、キッチンへ向かった。
「なあ、昼飯、アサリとシメジのスパゲッティーでいいか?」
「ああーー。」
 生返事。
 聞いてないな、とシンタローは頭を掻いた。

 大鍋に水を張り、塩を投入、火を点ける。
「なにがそんなに面白いんだか。」
「なにがってなにがだよ。」
「……もう終わったのか?」
「うん。大体終了したぜ。あとは思い出に浸るだけさ。」
 自分と似ているような、似ていないような顔をした男の笑顔にシンタローの心臓は、ほんの少し鼓動を速めた。
「で、なにがってなんだよ。」
「ああ。写真。なんだかんだ言ってお前、ことあるごとに撮ってんだろ?」
「え?面白いぜ、写真。ほら、ずっと一緒にいるとわかんねえじゃん、自分の成長とか相手の成長とか、老化とか。」
 眉を顰めた。
「なんだそりゃ。」
「心配しなくてもいいぜ。おまえ、ちゃんと年取ってるよ。あれだな、オレのお陰だな。ほらおまえの体って元々オレのじゃん。だから赤と青の力が相殺しあって、年取ってるみたいだな。」
 嬉しそうにうんうんと一人頷くジャン。
「お前は、どうなんだよ。」
 低くシンタローは問った。
「オレ?オレは、ほら、曲がりなりにも元赤の番人ですから。」
 にっとジャンは笑う。
 シンタローはハアと息を吐いた。
「ま、いーけどよ。ふんだんに予算与えてんだから、とっとと老化を止める薬、叔父さんに作ってやれよ。」
「んーー。結構難しいんだよなあ。」
 暢気に笑うジャン。
 シンタローはもう一つ息を吐いた。
「言っとっけど、俺は、騙されないからな。」
 じっとジャンを睨む。
 ジャンの手がピクリと動いた。
「なんの話しだよ?」
 ジャンはにっこり笑った。
「別に。」
 シンタローははぐらかし、大鍋にパスタを投げ込んだ。
 ジャンは唇を噛んだ。
「置いてかれんのは恐いよな。」
 ソースを作りながらシンタローは背後の人に話し掛けた。
 ジャンは、ハッと、シンタローの背中を見上げた。
「俺は、お前の事を、置いていったりはしねーよ。」
「……どうやって。」
「どうやってもさ。青の番人舐めんなよ。」
 ジャンは視線を下にずらし、顔だけでもと笑みを作った。
 胸が苦しい。
「何が番人だよ。影だろー影。」
「うるへー。」
 シンタローは、パスタを揚げ、ソースと絡める。
 白い皿を二枚、棚から出す。
「おまえは、シンタローだよ。番人とかじゃないだろ。」
 ジャンはシンタローのシャツをちょんと摘んだ。
「……ありがと。」
「フン。」
 少し、シンタローの頬が赤い。
 皿に盛られたスパゲッティーが、美味しそうな湯気を立てていた。



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5月23日の誕生花「イエローサルタン」
花言葉は「強い意思」