デイジー


 士官学校の一年生は、全員四人一組に分けられ、同室に押し込められる。
 生徒達に軍の基本である団体行動を叩き込むためだ。
 入学者数の関係で一人足りないが、この部屋もサービス、高松、ジャンの三人で生活していた。
「つまんないなー。」
 ベッドの上でクッションを抱え文庫本を読んでいたジャンが声を上げた。
 本を横に置き、ぎゅうとクッションを抱き締める。
 今日は日曜日。雨。
 天気が良ければジャンは二人を、無理矢理にでも外へ連れ出すのだが、朝から降る雨に、今日は二人とも梃子でも動かなかったのだ。
 サービスは朝から本を読んでいるし、高松は趣味の実験のデータを纏めていた。
 特にしたいこともないジャンは、サービスに本を借り読んでいたのだが、どうやら飽きてしまった様だった。
「なーどっか行こうぜ!二人ともさ!!」
「イヤですよ。行きたいなら一人で行きなさい。」
 机に向かったまま、振り返ることなく高松は答えた。
「1人で街まで行ったら、オレ帰ってこれねえよ。」
「アンタ、方向感覚は確りしてるくせに、どうして迷子になるんですかね。」
「だって真っ直ぐ歩いてっと行き止まりだったりすんだぜ。」
「知りませんよそんなこと。」
「ひっでー。聞いてきたの高松じゃん。なあサービス。」
 サービスは本から顔を上げない。
「サービス?おーい、サービス!」
「ウルサイ。」
 カーーンッといい音を立て、ジャンの額に缶が当たった。
「イッテェー。」
「ジャン、静かにしナ。」
 サービスが投げたのはドロップの缶だった。
 ジャンはパタンと倒れ込み『飴をあげるから静かに、なんて子供扱いかよ』と思いつつ、素直に飴を一粒口に放り込んだ。
「んーーーーーーーっっ!!!」
 目を真ん丸にしてジャンが飛び起きた。
「今度はなんですか。」
 くるりと椅子ごと回転し、高松がジャンを見た。
「かあい。」
「辛い?ああ、アンタハッカ駄目でしたっけ?ちゃんと確認しないで食べるからですよ。」
「あー、ごーしよ。」
「どうって、捨ててしまえばいいでしょ。」
「んあ、もっかいないここげきっかお。」
「なに言ってんだかさっぱりですよアンタ。」
「あーーー。」
 バン。とサービスが本を机に押し付けた。
 つかつかと歩き、ジャンの前まで来ると胸倉を掴んだ。
「はーびふ?」
 サービスは鋭くジャンを睨むと、ジャンの唇に己のそれを重ねた。
「……。ありがと、サービス。」
 口の中からハッカ飴が消えたジャンは、にっこりサービスに微笑んだ。
「もうすぐ読み終わるから、それまで静かにしててくれル?」
「はーい。」
 髪を撫でながら『マテ』と言い含めるサービスに、犬扱いかよと思いながらジャンは返事をした。
 ベッドに倒れ込み直し、伸びをすると、枕元に置いた携帯電話がメールの受信を知らせた。
「お。……サービス!マジック総帥がケイタイの電源入れるように言ってくれって。」
 ジャンの声にサービスは顔を上げ、机の上に置いてあった携帯電話に手を伸ばした。
 サービスが電源を入れると同時に電話が鳴る。
「はい。どうしたんですか、兄さん。」
 サービスに頭を向け、ベッドにうつ伏せになり、会話を気にする様にサービスを見るジャンに、高松は付き合ってられないとばかりに机に戻った。
 ピッと通話を切り、サービスがジャンと高松の方を見た。
「兄さんが、夕方には帰って来れるってサ。高松とジャンも一緒に夕飯を食べないかって言ってたヨ。」
「マジで!?やった!!」
 クッションを身体の下で抱き締め、足をバタバタとさせ、全身で喜びを表すジャンに、高松は息を吐いた。
「よかったですね、ジャン。」
「ああ!!」
 にこにこと、上機嫌で答えるジャンに、彼らしいと高松は少し笑って息を吐いた。



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5月27日の誕生花「デイジー」
花言葉は「無邪気」
うちのマジジャン+サービスの基本形