カキオドシ


 真夜中。新総帥の寝室。
 濃密な空気の残る、明かりの消えた部屋。
 カチリと音を立て、ジッポーのライターが火を発てた。
 じりじりと音がして、煙草に炎が移る。
 ジャンは大きく息を吸い、煙を吐いた。
「……ケムイ。」
 横から腕が伸び、ジャンの持つ煙草を奪った。
 灰皿を引き寄せ、火を揉み消す。
「……まだ一口しか吸ってないのに……。」
「ウッセェ。」
 恨みがましい目を向けるジャンを、シンタローは鋭く一瞥した。
 ジャンは誤魔化すように横を向く。
 いつも、終わった後のシンタローは態度がキツイ。
 それが照れ隠しだとジャンが気付いたのは随分前のことだ。
 知る前は、つれな過ぎる冷たい態度に、度々枕を濡らしたものだった。
 夜目の利くジャンは、気付かれぬようにシンタローを伺い、その頬が少し赤いのを見ると忍び笑った。
 シンタローがジャンを見る。
「なに笑ってんだよ。」
「なんでもない。」
 抑え切れずジャンは笑顔を向けた。
 その可愛い笑みに、はぁと息を吐き、シンタローは腕を伸ばした。
 ガシガシとジャンの髪を掻き回す。
「うわぁっなんだよー!」
「な・ん・で・も・な・い。」
 一文字一文字区切るように言うシンタローに、ちぇっとジャンは唇を尖らせた。
 シンタローは可愛いジャンの態度に構わず、ベッドの下から脱ぎ捨てられた服を引き上げた。
「それオレのー。」
 白いシャツをジャンに渡す。
 シンタローはもう一枚落ちているシャツを拾い、自分のズボンに足を通した。
「シャワー浴びてくる。」
「ん〜。」
 ベッドを抜け、振り向くとジャンは既に幸せそうにうとうとしていた。
 可愛いって得だな、と。
 シンタローは床に落ちたジャンのズボンをベッドに放り投げた。
「そーかぁ?」
 ジャンの声に、シャワールームへ向おうとしたシンタローは足を止めた。
「なにが?」
「シンタローの方が可愛いじゃん。」
「ああ?殴られたいか?」
 ベッドまで戻るのが面倒で、履いていたスリッパを投げつけた。
 ジャンは器用にそれを避ける。
「だってオレにとってはシンタローのほうが可愛いし。んーーー。やっぱりオレより可愛いよ。」
「キショ。」
「ヒッデェーー。つーかオレは可愛くないって。」
「いや可愛いって。」
「シンタローのほうが可愛い。」
 強情なジャンにシンタローはむっとして語調を強めた。
「お前だ。」
「いーや、シンタローだ!」
「お前だって言ってんだろ!」
「シンタローだってっ!!」
 二人は睨み合い。
 ハッと我に返った。
「やめよ。馬鹿馬鹿しい。」
「そーだな。」

 ポスンとベッドに戻るジャンを見て、今度こそシンタローはシャワーを浴びに行った。

「……しんたろーのほうがかわいいのに。」
「お前だって言ってるだろーがっ!!」



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5月28日の誕生花は「カキオドシ」
花言葉は「素敵な時間をすごしたい」
……あほけんか。