むらさきつめ草


 南国の島の島の外れ。
 祠から一番遠い木の根元にジャンは座っていた。
 幹に背を預け、腕を組み下を向く姿に、寝ているのかとアスはゆっくり近づいた。
 ぱちりとジャンの目が開く。
「……アス?」
 途惑う様に目を瞬きさせるジャンに、寝ぼけているのかとアスは足を振り上げた。
「いっっっっっってぇーーーーっ!!!なにすんだよっ!!」
「目は覚めましたか。良かったじゃないですか。」
「いいわけないだろ。」
 ジャンは立ち上がり、パンパンと服を払った。
「こんな所で何をしていたのですか。あなたが好んで祠から出てきたとは思えないのですが?」
「……たまには御日様にあたってこいって、秘石に言われた。」
「なるほど。ですがこんな所で寝ていたら意味がないんじゃないんですか?少しも日に焼けていないあなたを見たら、赤い秘石はなんと思うでしょうね。」
「ちょ、ちょっとは焼けたぞ?」
 ほら、と腕を捲くりアスへ見せる。
 その差は、微かに感じられる程度だった。
「もやしっ子ですか。」
「どこでそんな言葉覚えんだよ。」
「人間の子供たちが言っていましたよ。赤い秘石の番人はもやしっ子だと。」
 ぐっさりとダメージを受けたジャンは、思わず地面に膝をついた。
「オレのイメージって……。」
「祠に引きこもっているんだから当然なんではありませんか?」
 上から見下ろすアスに、更にダメージを受ける。
「秘石を守ってるだけなのに……。」
 スンスンと泣きまねをするが、アスは冷たい視線を送るだけだ。
 ジャンは口を尖らす。
「……おまえ、もうちょっとオレに優しくしてみろよ。」
「どうして私があなたに優しくしなければならないのか、理解できませんね。」
「……子どもとか、島のみんなとか、怯えないか?」
「さあ、私の知ったことではありませんから。」
 涼しい顔でアスは流す。
 ジャンの役目が秘石を守ることなら、アスの役目は島を守ることだ。
 ジャンは、アスがこうは言っているが、よくやっていることは、秘石に聞いて知っていた。
 素直じゃないな、と笑う。
「なんですか、気持ちの悪い笑い方をして。頭でも打ちましたか?」
「さっきおまえに蹴られたじゃん。」
 アスは、反撃され、思い出したのか、嫌そうに顔を背けた。
 ジャンは、仕方がないな、と笑う。
 そして立ち上がりアスの顔を覗きこんだ。
「まあ、いいよ。オレがおまえのこと、すぐに認識できなかったから拗ねたんだろ?」
「そんな理由ではありませんが。」
「まーまー、そういうことにしといてやるよ。……悪かったな。おまえの夢見てたから、夢の続きかと思ったんだよ。」
「……ですから、そんな理由ではないと言っているんですよ。頭の悪い。」
「素直じゃねーの。」
 ジャンは肩を竦め、アスの髪に手を通した。
「なにをしているんですか。」
「んーー。愛情表現?」
「まだ寝ているのではありませんか。」
 目を鋭くするアスに、ちぇっ、とジャンは手を離した。
「ホント素直じゃないんだからさ。」
 グッと伸びをしてジャンはアスに笑いかけた。
「そろそろ戻るよ。またな。」
 アスに背を向け、祠へ戻るジャンを、アスは見送った。
「あなたが……素直すぎるだけです。」
 髪に残るジャンの気配に、アスは、髪を撫でた。



‐‐‐‐‐
5月29日の誕生花は「むらさきつめ草」
花言葉は「快活」
パラレルor未来設定。