モクセイソウ


「弟と、仲良くしてくれているようだね。」
 掛けられた言葉の意味を、一瞬理解することができなかった。
 単数の弟。
 一体サービスと、ハーレムのどちらを指しているのかと考えた。
 どちらとも仲は良い。
 学校では、高松も含め4人で行動する事が殆どだ。
 時々サボるハーレムに付いて悪さもするし、高松に遊ばれることもあった。
 サービスもジャンをよく構っていたし、ジャンも楽しく構われていた。
「昨日ハーレムが、珍しく上機嫌でね。あの子は笑っているとかわいいよね。」
「は、はあ。」
「ハーレムは君のことを気に入っているようだね。」
 青い瞳に見据えられ、背中に汗が流れた。
「君はハーレムのことをどう思っているんだい。」
「はい。とても大切な友人だと考えています。」
「へぇ……。」
 ルーザーの目が細められる。
 青い青い瞳。
 ジャンは身構え、反射的に笑顔を作った。
「強いし、情が深いし。最高の友だと思います。」
「そう。」
 無意識に笑う方法は、島から出てすぐに覚えた。
 最近は習い性のようになっていた作り笑顔が出る事も少なくなっていたが、やはりガンマ団総帥や、目の前にいるその弟の前では仮面を外せない。
 いつか、ハーレムやサービスに対しても仮面を外さない日が来るんだろうかと、視線に晒されながらぼんやりジャンは考えた。
「ハーレムは君のことを、恋愛対象として好きなようだけどね。」
「え?あの、いまなんと……。」
「ああ、独り言だから気にしなくていい。うん。いいよ、これで面談は終わり。」
「はい。ありがとうございました。」
 挨拶をし、ジャンは席を立ち、部屋を出た。
 廊下に出、部屋の扉を閉め、ふうと深く息を吐く。
「よ。」
「ハーレム……。そっちも終わったのか?」
「終わったもなにもオレは受けてねえよ。面談なんてまだるっこしいものやってられっか。」
 ケッと悪態をつくハーレムに、ジャンは安心して笑った。
 珍しい、桜のような笑みに、ハーレムは眉を顰めた。
「なんかあったか?面接官、ルーザー兄貴だろ?」
「んーーー。言われたって言うか。」
 廊下を並んで歩く。
 二人を避けるように廊下の壁にへばり付く学生たちに、ハーレムの機嫌が悪くなるのをジャンは感じた。
 団に関わるものが持つ、青の一族へ対する畏怖の念。
 長男のようにそれを当然と思えなくて、次男のように他者を気にしないこともできず、末の子に対するよりもあからさまに向けられる恐怖の感情に、ハーレムが快い印象を持っていない事をジャンは知っていた。
「なんか探り入れられた。」
「ああ?何にだよ。」
 知っていたからといって、どうするわけでもなく。
 初めは近づくために、心持ち歯に衣着せぬ物言いをしていたが、最近では自分の発言に、番人としての意識なんてなかった。
「あーー、ハーレムがオレのこと好きとか、オレはどうなんだろうとか。」
「……マジかよ。」
「マジマジ。」
 ハーレムはぽりぽりと頭を掻いた。
「参ったな……。」
「ほんとだよ。オレがルーザー様に目をつけられたらどうすんだよ。」
「それは一蓮托生だろ。」
「うわ。ハーレムが四字熟語使ってる。」
「テメェ。」
「じょーだんじょーだん。」
 けらけら笑うジャンに、ハーレムは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ま、バレたらそん時はそん時。だろ?」
「まーな。」
「おーい。機嫌直せよ、ハーレム。」
「はん。」
 二人の足は屋上に向っていた。
 意見を合わせる必要もなく、当然と同じ場所へ向う関係が、ジャンは好きだった。
「暑いかな。」
「かもな。」
「ジュースぐらい買ってかない?」
「先行ってっぞ。」
 渡される小銭。
 了解!とジャンは笑って、タバコとジュースを買いに走り出した。



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6月12日の誕生花は「モクセイソウ」
花言葉は「器量より気立て」
お誕生日おめでとうございます、ルーザー様。