ジギタリス


 髪を梳く指の動き。
 飽きもせず、同じ動きを繰り返す指に、ジャンはゆっくり瞳を開けた。
「マジック総帥……?」
 身体を縦にし、ベッドに右肘を突き、手で頭を支え、マジックはジャンを見詰めていた。
 左手で、ジャンの頭を撫で続ける。
「総帥……?」
 ジャンの呼び掛けに、マジックはなんでもないよと首を振った。
 指はさあぁさあぁと髪を梳く。
 身の置き所に困り、身体を捩るが、名を呼ばれ、止められた。
「好きだよ。」
 マジックの言葉に、一瞬、ジャンの身体が硬くなった。
「好きだよ、ジャン。」
 曖昧な表情をして、ジャンはマジックを見上げた。
 それは笑っているようにも、困っているようにも、泣いているようにも見えたが、どれが本心かは判別できなかった。
 ジャンは口を開き、マジックはその口に指を当てた。
「応えなくていい。愛しているよ、ジャン。」
 ジャンはそっと息を吐き、目を閉じた。
 マジックは何度も何度も同じ言葉と動作を繰り返した。
 何度も。
 最後の日まで。







 昔と同じ場所で、同じように、ジャンはマジックに髪を梳かれていた。
「愛しているよ、ジャン。」
「ああもう分かりましたからいい加減勘弁してください!!」
 顔を真っ赤にしてジャンは置き上がる。
 目の淵を赤くして、ジャンはマジックを睨むが、効果はない。
 マジックは深く笑むと、ジャンの腕を引いてベッドに戻した。
「うわぁっ。」
「愛しているよ、ジャン。」
「人の話を聞いてくださいよ、マジック様!!」
「愛して、いるんだ。」
 抱き締められ、髪を梳かれ、ジャンは根負けしたとマジックの胸に頭を押し当てた。
 トクントクンと流れる血の音を聞きながら、ジャンは口を開いた。
「朝から晩まで、愛を囁かれるこっちの身にもなってくださいよ。」
「諦めてくれないかな。言いたくて堪らないんだから。」
 額に落とされるキスに、目を瞑った。
「愛しているよ、ジャン。ずっとずっと。」
「……オレもです。ずっと。」
「私もさ。ああ、君が応えてくれるから、嬉し過ぎて、私は何度も君を愛していると言わなければならなくなるんだよ。」
「オレのせいですか?」
「私の我が侭だね。だから、愛しているよ、ジャン。」
 深く、合わせられる口付け。
 ジャンは目を閉じ、同じように、マジックの髪を綯い交ぜた。



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6月13日の誕生花は「ジギタリス」
花言葉は「胸の思い・夢多く」
全31回。これにて終了です。お付き合いありがとうございました。