(2,290m、 北海道/大雪山系)
夫婦池付近から見た旭岳。
1997年7月25日(金)
羽田−旭川−旭岳温泉−ロープウェイ〜旭岳避難小屋(石室)(泊) |
大雪山は北海道のほぼ中央にあり、北海道の屋根と言われている。大雪山とは北アルプスや八ケ岳などと同じように、表大雪、北大雪、東大雪、十勝連峰の総称で、大雪山という単独の山は存在しない。しかし、一般的には、広い範囲を指す場合は「大雪山系」と呼び、単に「大雪山」という場合は、北海道の最高峰である旭岳がある表大雪を指すことが多いようだ。
北海道には日本百名山が9座あるが、まずは最初に、北海道の最高峰である旭岳から登ることにした。
羽田から旭川へ出て、旭川駅前から旭岳ロープウェイ行きのバスに乗った。このバスは無料である。バスの本数が少ないので混雑するかと思ったが、乗客は3、40人位だった。
その乗客の大半は、ロープウェイ駅の手前にある旭岳温泉で降りた。これからロープウェイに乗ろうという人は、避難小屋泊まりか、よほど時間がない人ぐらいだろう。
(バスの車窓から見えた旭岳)
ロープウェイ山頂の姿見駅の売店で水を満タンに詰め、缶ビールを買い込んだ。姿見駅からはチングルマなどが咲く高原状になっており、その奥に旭岳がそびえていた。
遊歩道にはハイカーがまだ大勢いた。夫婦池付近の展望台では、若い娘が大きな声を張り上げながら写真を撮っていた。
我々は夫婦池を通って姿見ノ池へと急ぐ。
姿見ノ池からは旭岳が目の前に見えた(写真左)。正面は火山で半分が吹き飛んでしまった絶壁で、今も噴煙を上げていた。左右の斜面は火山独特の砂礫のようだが、ハイマツや高山植物らしい緑も見えた。今、その緑の斜面を大勢の人達が降りてくる。層雲峡から縦走して来た人達らしい。
姿見ノ池は文字通り旭岳の姿を写すことから姿見ノ池と呼ばれている。すぐ裏手には避難小屋が建っているが、ここをトイレと間違う人がいるとみえて、入り口には「トイレではありません。避難小屋です」と書いたものがぶらさがっていた。
小屋は2階建てになっており、ムリすれば20人位は泊まれそうだが、今日の宿泊者は10人位だった。さっそく荷物を降ろし、池の周りにある残雪を掘って缶ビールを冷やす。
池畔には木製のテーブルとイスがあったが、座る場所がないほどの混雑だった。遊歩道を散策しているハイカーも、旭岳から下って来た登山者も決まってここで休憩するからだ。
5時を過ぎると、ハイカーも登山者もいなくなり、宿泊者だけが取り残された。今までのにぎわいがウソのように、一帯を静寂が包み込んだ。さっきまでギラギラしていた太陽も、いつの間にか旭岳の陰に隠れてしまい、山頂部だけがまだ青く澄んだ空に輝いていた。夕暮れがせまる池畔のベンチに座り、今回同行のSさんと缶ビールで乾杯し、ゆっくりと夕食の準備にとりかかった。
我々の隣で、40歳ぐらいの男性が1人でおにぎりを食べていた。話しを聞くと、横浜から来たという。彼は、「今日は旭岳温泉にでも泊まるつもりで来たのだが、予約をしていなかったのでどこも泊めてくれず、仕方がないのでロープウェイの山頂駅でオニギリを2食分作ってもらい、この避難小屋へ泊まることにした」 という。今夜はシュラフ(寝袋)もないので着の身着のまま寝るという。
かなり旅慣れしているのか、それとも計画性がないのか分からないが、少し不憫に思えて来た。そんなキノドクな彼に、みそ汁とコーヒーをご馳走してやった。
我々が食事をしていると、キタキツネが近づいて来たので驚いた。野生のキタキツネが2メートル位の所まで来てエサをねだっている。
キツネは大分やせているようで、ついエサをやりたくなったが、野生の動物にエサをやってはいけないと自分をいましめた。
北海道にはこのキタキツネがいるため、生水が飲めないのである。キタキツネにはエキノコックス症の寄生虫がいて、雪や水がフンで汚染されているため、水は煮沸しなければ飲めない。寄生虫が人体に入ると10数年の潜伏期間の後、肝臓や脳がやられるという。
これからの縦走期間中、冷たい水が飲めないということが、どれほどつらいことかを思い知らされることになる。
7月26日(土)
旭岳避難小屋(石室)515〜旭岳〜間宮岳〜北海岳〜白雲岳〜白雲避難小屋(泊) |
3時30分起床。外はすでに薄明るかった。北海道は日本で一番早く日の出を迎える。
小屋5時15分発。旭岳の登りはきつい。小屋から一気の登りである。アプローチは全くなく、半分寝ぼけている身体には、重い荷物と一気の登りは本当にこたえる。
ひと汗かいた頃、背後にトムラウシが見えた。うれしい。感激だ。この目であの王冠のような山を見ることができてうれしい。トムラウシの右手には十勝岳も見える。その十勝岳の左側(トムラウシとの間)に見える三角錐の山はなんだろう。(下ホロカメックだった)
この登りはしんどい。火山礫の急斜面をひたすら登って行く。時々後ろを振り向いてトムラウシを眺めて元気を出すが、いつもより重い荷物と昨夜の寝不足がこたえる。約2時間、あえぎあえぎやっと山頂に着いた。
山頂は360度の展望だった。しかし、目はどうしてもトムラウシの方に向いてしまう。ここからはかなり遠いが、王冠のような山はどこからでも判別できた。そのトムラウシへ続く忠別岳や化雲岳などの稜線が長々とつながっている。トムラウシまではあと2泊しなければたどり着かない。
(火口越しに夫婦池が見える) |
(後旭岳方面) |
(左が忠別、中央が化雲、右がトムラウシ) |
私は北海道の最高峰に立っているという嬉しさよりも、むしろ、あのトムラウシへ登れるという嬉しさでいっぱいだった。
旭岳の下りは「雪渓があるので注意」とガイドブックには書いてあったが、テント場の一角にわずかに残っているだけで、縦走路には全くなかった。今年の夏は10数年ぶりの日照り続きというので解けてしまったのだろう。
間宮岳からはお鉢めぐりになる。左側は北鎮岳や凌雲岳を眺めながらお花畑を行くコースであるが、我々は右側の北海岳を目指して行った。
お鉢からの景観はテレビなどで見たことがあるが、その時と比べると残雪はやはり少ないようだ。せっかく北海道の山へ来ながら残雪が少ないというのはちょっと寂しい気がする。
右手奥に見える白雲岳がすばらしかった。
北海岳の山頂から右手に折れて、いよいよ白雲岳をめざして行った。
(白雲岳がだいぶ近づいて来た) 白雲岳への分岐の手前に水場があった。雪解け水が音をたてて流れていた。のどがカラカラでやっと着いた水場である。しかし、エキノコックスが怖いので、手と顔を洗い、ぬるくなったポリタンの水を飲んで我慢した。 白雲岳との分岐へ荷物を置いて、空身で白雲岳を往復した。 白雲岳の山頂からは後旭岳が正面に見え、その後ろに旭岳が見えた。あの山頂へ立ったのだと思うと嬉しかった。 |
(左から後旭岳、旭岳、熊ケ岳) |
(お花畑) |
(エゾツツジ) |
白雲避難小屋はこぎれいな小屋だった。ここは水場もトイレもあった。管理人もいて有料(700円)だった。小屋へ着いても、のんびりは出来ない。沢の水を煮沸させて、明日1日分の飲み水を作らなくてはならないからだ。
夕食はトムラウシが良く見える外のベンチで食べた。エゾリスがテーブルの下まできてエサを食べている。
「この小屋は、夜中にネズミが出るので食料はザックの中へしまうように」、とインターネットに載っていたので、食料はすべてザックに入れておいた。夜中にガサガサしていたので、「やっぱりネズミが出たな」と思っていたが、ネズミではなくキタキツネだったそうだ。この小屋は冬山用に二階にも出入り口があり、梯子がかかっているが、窓が開いていたためそこからキタキツネが出入りしていたらしい。要注意です。