鳳凰山

@御座石鉱泉〜地蔵岳〜観音岳〜薬師岳〜夜叉神峠縦走

観音岳の手前から見た地蔵岳。尖った岩峰がオベリスク。

1995年5月

八王子駅−(JR)−穴山駅−御座石鉱泉〜鳳凰小屋(泊)〜地蔵岳〜観音岳〜薬師岳〜夜叉神峠−甲府

 5月の連休に鳳凰三山へ行くことにした。
 朝早く家を出て、JR中央線の穴山駅で降りた。ここは無人駅で、しかも降りたのは私1人だけだった。家もなく誰もいない駅前で、昨日電話で予約をしていた御座石鉱泉のマイクロバスを待った。

 5分もするとマイクロバスがやって来た。乗客は私1人だけである。私一人のためにわざわざ迎えに来てもらい申し訳けないと思った。
 御座石鉱泉までの林道には、ヤマブキがいっぱい咲いていた。

 ガイドブックには、「御座石鉱泉が送迎してくれる」と書いてあったので、てっきり無料かと思ったが3,000円請求された。1人の場合は3,000円、2人の場合は2,500円、それ以上なら2,000円ということらしい。でも、御座石鉱泉と鳳凰小屋は同じ経営らしく鳳凰小屋で領収書を見せるとその分を差し引いてくれた。

 御座石鉱泉は私のイメージとは全く違い、旅館のような立派な建物だった。こんな山奥に客が来るのだろうかと思ったが、近くにあった大きな駐車場は満杯だった。この中にはきっと登山者の車もあるに違いないと思い、私も車で来れば良かったと思った。

 御座石鉱泉のすぐ後ろから一気の登りになった。森林地帯の急斜面を一歩一歩登って行く。所々に薄紫色のミツバツツジが咲いていた。一本でいいから家に持って帰りたいと思った。

 途中から残雪になった。途中で会った人に聞くと、今年は例年に比べるとはるかに雪が少ないという。私は初めてなので例年がどれほどのものか分からないが、所々に雪を踏み抜いた跡があったのも雪が少ないせいかも知れないと思った。


(途中で見えた甲斐駒)

(地蔵岳が見えて来た)

 鳳凰小屋へ着くと、宿泊手続きを済ませてから地蔵岳を往復して来る人が多いらしく、デポしたザックがいっぱいあった。毎年ここへ来ているという途中で会ったオジさんも、これから往復して来ると言う。今日中に地蔵岳を登ってしまえば、明日は観音岳と薬師岳を登って引き返すのが楽になるというが、私はもう行く気はなかった。

(写真左は鳳凰小屋から見た地蔵岳)

 私が小屋の中でくつろいでいると、
「明日、三山を登って夜叉神峠まで一緒に行きましょう」
 と声をかけてくれた人がいた。私より5、6歳若い単独行だった。

 私は夜叉神峠からバスがないので御座石鉱泉へ引き返すつもりでいたが、この連休中だけバスが走っているという。せっかくここまで来たのだから夜叉神峠を廻って帰ることにした。

 翌朝、小屋から一気に地蔵岳を目指して登って行った。高度差は余りないが、まだ半分寝ぼけている身体に急登はこたえる。この辺は日当たりが良いせいか、残雪はほとんどなかった。


   (地蔵岳の登りから見たオベリスク)

 地蔵岳の山頂には、石柱のようなオベリスクがあった。オベリスクとは、古代エジプトで神殿の門前の左右に建っている白い石柱のことらしいが、まさにそれにぴったりの石柱だった。

 高さが30メートルもあるこんな円柱が、なぜ山のてっぺんにあるのか不思議でならなかった。それにこの円柱は、遠くから見ると普通の石か岩に見えるので簡単に登れそうに思えたが、近づいてみると表面がザラザラした砂状で、全く手がかりがなく、とても登れるものではなかった。

 これをウエストンは登ったというが、どうやって登ったのだろうか。良く見ると上部に岩の割れ目があった。ロープの先に石でもくくりつけて、あの割れ目にうまく挟まれば登れるかも知れないと思ったが、うまく挟まるかどうか、それにうまく挟まったとしても足がかりが全くないコンクリートの壁のような所をロープ一本で登れたのだろうか。ウエストンさんというのは本当に凄いクライマーだと思った。

 そのオベリスクをバックに、昨夜「夜叉神まで行きましょう」と声をかけてくれた彼と、交互に写真を撮り合った。(この時撮ってもらった写真がピンボケだったのが残念でならない)

 ここから観音岳、薬師岳を通って夜叉神峠をめざして行った。


(観音岳からの地蔵岳、左後方は甲斐駒)

(観音岳)

(薬師岳からの北岳)

 南御室小屋(写真左)まで行くと、庭先のベンチで昼寝をしている人がいた。よく見ると昨夜小屋で一緒に山談義をした大学生だった。「あ〜あ、私も昼寝がしたいなあ〜」。
 それが昼寝どころではなかった。ここで湯を沸かしてラーメンでも食べようかと思ったが、彼から「終バスに乗り遅れてしまう。とてもそんなことをしている時間はない」と言われ、非常食に持ってきた堅くなったフランスパンをかじって我慢した。

 夜叉神峠小屋までは遠かった。全体的には下っているが、それでも登り下りがあってしんどい。それに日陰にはまだ残雪がたっぷりあった。せめて逆コースでなくて良かったと思った。

 夜叉神峠の小屋へ着くと、彼が「ビールを飲みませんか」と言うのですぐに同意した。私は山の途中ではアルコールは飲まない主義だったが、こういう場合は仕方がない。それに喉もカラカラだったので冷たい缶ビールを一気に飲み干した。

 ここからは白峰三山が見事に見えた。真っ白に雪を被った山は、鳳凰山とは全く別世界のようだった。いつの日かこの小屋へ泊まって、のんびりと白峰三山でも眺めていたいと思った。

 ここからは駆け足で下った。夜叉神峠のバス停までコースタイムで45分かかるが、終バスまであと40分しかない。バスに乗り遅れないように、転がるようにして下った。
        (平成7年)