アヤメ紀行 
櫛形山(くしがたやま)

(2,052m、山梨)  142座

アヤメ平のアヤメ。この株しかなく、全くの期待はずれだった。

池の茶屋登山口〜櫛形山〜裸山〜アヤメ平〜櫛形山〜池の茶屋登山口

2006年7月15日(土)

〔車、日帰り〕
自宅420−500相模湖IC−甲府南IC−R140−平林青柳線−丸山林道−池の茶屋林道−643池の茶屋登山口650〜735櫛形山〜807裸山〜823アヤメ平〜930櫛形山1005〜1050池の茶屋登山口

 櫛形山はアヤメの群生地として知られ、その数は日本一とも東洋一とも言われている。その櫛形山へ急遽行くことにした。
 というのは、6月の末から山形の以東岳へ行く予定だったが2週連続雨のため取り止め、今週は秋田駒と姫神山へ行く予定だったが、それも雨で取り止めた。今年の梅雨は週末になると天気が崩れるので始末が悪い。折角の3連休だというのに関東甲信越も天気がいいのは土曜日だけだという。そこで日帰りで行ける山ということで、櫛形山にした次第である。

 櫛形山のアヤメは咲いているだろうか。少し遅いかも知れないがギリギリで間に合うかも知れない、という期待を込めて出かけることにした。

 アヤメのシーズンは登山口の駐車場が満杯になると聞き、朝4時20分に家を出た。空は夜明けとともに青空が広がって来た。まさに夏の空だ。こんな青空を見ると秋田駒をキャンセルしたことが悔しくなる。

 相模湖ICから高速に乗って甲府南ICで降りた。R140を走っていると、右手前方に櫛の形をした山が見えた。普段なら気にも留めない平凡な山だが、多分あれが櫛形山だろうと思った。

(写真左は増穂町から見た櫛形山)

 増穂町から県道平林青柳線へ入ると、道路の真ん中にサルの群れがいて驚いた。

 丸山林道や池の茶屋林道は道幅が狭く、対向車が来たらどうしょう、と心配だった。こんな時間に下って来る人もいないだろうが、帰りが心配になった。前にも後にも人影はない。薄暗い林道に熊出没の標識があった。つい「熊なんて出ないでくれよ」、と祈ってしまう。

 途中に工事現場があり、そこに「池の茶屋林道ゲートから早川へは崖崩れのため通行止め」と書いてあった。池の茶登山口まで行けるかどうか分からないが、とにかく行ける所まで行ってみることにした。途中、右手に閉じたゲードがあった。それが早川へ行く道だろう。

 舗装からガタガタ道になると前に車が一台、後ろから4WDが追い付いて来た。結局、3台並んで駐車場へ着いた。すでに10数台が止まっていた。

 隣に駐車した御夫婦と挨拶を交わす。「アヤメはまだ間に合いますかねぇ・・」と聞くと、奥さんが「昨日、テレビでアヤメが咲き出したと言ってましたよ」との返事。ちょうどいい時に来たようだ。
    

 駐車場の奥に立派な小屋があった(写真左)。側壁に書かれた案内版を確認し、参考までに小屋の中を覗いて見たが、中はイマイチだった。せいぜい風雨を避けたい時に利用する程度だろう。

 ここから山頂を目指して登って行く。しばらく森林の中を行くが、すぐに視界が開けて来た。急登ではあるが、周りにキバナノヤマオダマキとグンナイフウロがいっぱい咲いていた。

 しばらくして振り返ると、南アルプスの赤石岳が見えた。右手前に三角錐の山があったが何だか分からなかった。さらに、白峰三山が見えるポイントがあった。右手から北岳、間ノ岳、農鳥岳がバッチリと見えた。

 (左の写真:右から北岳、間ノ岳、農鳥岳)

 稜線へ出て(写真右)、なだらかな気持よい道を進んで行くと、ボッテリとした高台のような所があり、そこに三角点があった。実はこれが櫛形山の最高点なのだが標識さえもなかった。

 道端には時々アヤメが咲いていた。たしかにアヤメが多いことは間違いないが、アヤメ平へ行けばもっと凄い群落が見られだろうと思うと、一輪や二輪咲いていても気にも留まらない。

 ここからしばらく原生林の中を行くと、ボッテリとした鬱蒼とした所に、まるで墓標のように山頂の標識が立っていた。(写真右下)

「え、ここが山頂? もう着いちゃったの!」と驚いていると、先客のご夫人から、「えー、ここが山頂ですよ」と言われる。それにしてもこんなに早く、あっけなく着くとは思わなかった。

 標識には「櫛形山、山梨百名山」と書かれていたが、どうせなら「花の百名山」か「日本200名山」も書き添えてほしいと思った。
 鬱蒼として展望もないので、写真を一枚撮ってそのまま進んで行った。

 山頂から原生林の中を下って行くと、分岐点でオジさんが立ち止まっていた。コースは直接アヤメ平へ行く道と、裸山経由でアヤメ平へ行くコースに分かれていた。

 オジさんから「両方にアヤメ平と書いてあるが、どっちですかねぇ」と聞かれ、「私は裸山へ登ってからアヤメ平へ行き、帰りは真っ直ぐここへ来るつもりです」と言うと、安心したように後から付いて来た。

 裸山の取っ付きに、アヤメが咲いていた。早速写真に収める。そこには『この美しさをいつまでも』と書かれた標識があった。アヤメの群落は小規模だが、これはまだ前奏曲で本番はこれからだと思うと胸が高鳴った。


「この美しさをいつまでも」

(拡大できます)

(拡大できます)

   裸山は周遊コースになっており、先ほどのオジさんは右周り、私は左周りで登って行った。周りにはポツン・ポツンとアヤメが咲いていた。山頂でオジさんと合流。しかし、ここは樹木が多く、南アルプスがわずかに垣間見えるだけだった。

 ここからがいよいよ本番のアヤメ平である。下り道のせいもあるが、自然と足が速まってしまう。アヤメ平がどれほど広いのかは知らないが、一面に咲いた花畑を思い浮かべるだけで胸がときめいた。

 急斜面を下って行くと、右手に簡易トイレがあり、左手に立派な小屋(休憩用)が現れ、いよいよアヤメ平のようである。平らになった柵の手前に5、6人が休んでいた。柵の中にわずかばかりのアヤメが咲いていた。
 先客に、「ここがアヤメ平ですか?」と訊くと、「そうです」と言われ、思わず「ウソー!」と絶句。

 ここがアヤメの群落日本一とも東洋一ともいわれるアヤメ平だなんてとても信じられない。今、目の前に咲いているのは数株、いや数十株しかない。

 周りの人が、「前はもっと多かったんですがねぇ・・」とか、「盗掘にやられたんですかねぇ・・」とか、「自然界の生態系が変わっちゃったんですねぇ・・・」などと言っていたが、初めて来た私には何の慰めにもならなかった。

(写真を拡大してご覧下さい)

期待したアヤメ平。アヤメの株は極端に少ない

花はこれだけ。あまり期待しない方がよい。

   これ位のアヤメなら、私の住む市の公園の方がはるかに多い。テレビで報じるほどのことでもあるまい。すっかり気落ちしてしまったが、せっかく来たのでアヤメの写真を撮った。しかし、この写真に惑わされてはいけない。一面に咲いているような錯覚を起こすが、あくまでも「これだけ」しか咲いていない。

 反対側から続々と人が登って来たので、引き上げることにした。周遊コース(写真右)を通って来たが、そこにもアヤメがあることはあった。しかし、雑草に負けていた。アヤメの株が年々少なくなっているというのは、私は盗掘などではなく雑草かも知れないと思った。いくら自然、天然といっても多少人間が手を入れないと益々株が減ってしまうのではないかと思った。

 今回は余りにも期待はずれでガッカリしてしまい、帰りは足取りが重かった。山頂の標識があるところで昼食にしたが、食事をしている間にもアヤメの花を期待するハイカーが続々と登って来た。彼らはあのアヤメ平へ行ってどんな顔をするのだろうか。

 山頂から駐車場へ下る間にも60〜70人のハイカーとすれ違った。こんなに人が多いとは思わなかった。ここはアヤメだけではなく、季節ごとに色々な花が咲くことでも有名らしい。今回はキバナノヤマオダマキとグンナイフウロがいっぱい咲いていた。それがせめてもの慰めだった。

(帰りに山頂付近から撮った富士山)

【最後に、地元の名誉とこれから登る方のために】
 今年はアヤメが不作だったのかも知れません。シャクナゲやニッコウキスゲなども、1年毎に豊作(花つきの良い年)と不作(花つきの悪い年)を繰り返しているようです。今年は不作でも来年は豊作になるかも知れません。それを祈っています。