(2,145m、 新潟県、長野県)
相模原−川越IC−湯沢IC−苗場スキー場〜ゲート〜駐車場〜苗場山往復 |
日本百名山を目指していると、どうしても登りたい山と、あまり気乗りしない山があるものだ。この苗場山は後者の方で、あまりにもスキー場として有名になり過ぎたせいか登高意欲が湧いてこない。しかし、それが日本百名山とあらば、やはり一度は登らねばなるまい。
前回は屋久島へ行って、3日3晩雨に降られて来たので、今回は天気の良さそうな日を見計らって、日帰りで行って来ることにした。
家を4時40分に出発し、八王子から川越へ出て関越道に乗った。今日は天気が良く、榛名山や谷川岳などがクッキリと見えた。
湯沢インターで降りて17号線を左折する。一つ目のトンネルを出ると、いかにもスキー場らしく、お土産屋さんやペンション風の建物が並んだ矢木沢へ出た。ここを右折して林道へ入って行く。林道といっても舗装されているので快適なドライブという感じである。分岐点には標識が出ているので迷うこともなかった。
しばらく行くとゲートがあり、人の良さそうなオジさんが立っていた。ここで入山書に記入するとゲートを開けてくれる。すでに入山書が15、6枚もあって驚いた。苗場山がそんなに人気があるとは思わなかったからだ。
舗装された道が、やがて未舗装のガタガタ道になると終点は近い。左手に3、40台も置けそうな広い駐車場が現れ、10台ほど止めてあったが、前の車が林道を進んで行くので私も付いて行った。するとすぐに鎖がぶら下がったゲートがあり、前の車から、「ここからは工事関係者の車両しか通れませんよ」と言われ、バックして広い駐車場へ止めた。
すでに到着した人達が身支度をしていたが、実は、ほとんどの人達が登山ではなく山菜採りだった。
ここからスキー場のゲレンデのような所を登って行った。一緒に登り出した5、6人の中高年のグループから、「一緒に山菜を採りませんか」と声をかけられた。私は「山菜は全く分からないんですよ。それに今日は山を登りに来たもんですから……」と言葉を返したが、こんなに大勢の人が入っては、山菜もアッという間になくなってしまうだろうと思った。
駐車場から約20分ほどで和田小屋へ着いた。和田小屋は森林の中に建っているものと思い込んでいたが、ゲレンデの真ん中に建っていた。
ここから100メートルほど木道を行くとブナ林の登りになった。ブナの合間には、ダケカンバやミツバツツジなどがあり、比較的明るい森林だった。前回は屋久島へ行って、とてつもない巨木がうっそうと茂った森林に驚かされたが、今日はいつもの見慣れた森林なのでホッとした。
ブナ林がツガに変わると、わずかばかりの湿地帯である下の芝に着いた。ここは休憩するにはいい場所だが、特に見るものはなかった。
中の芝まで来ると、露岩が点在した草地になっており、チングルマやイワカガミが咲いていた。
さらに灌木帯を登っていくと、上の芝という湿地帯へ出た。特に花が咲いているわけでもないので素通りする。この辺からは、クマザサに変わって視界も開けて来た。左手には、わずかに残雪がある仙ノ倉山や平標山などの山が見え、後方には、雪をたっぷり被った越後三山らしい山が見えた。やはり山はこうでなくてはいけない。久しぶりに見る越後の山々に、心が洗われるような思いだった。
神楽ガ峰へ出て少し下った時、正面に立ちはだかるように苗場の本峰が見えた。あまりにも立派な山容に思わず歓声を上げた。まるで北アルプスの五竜小屋から見上げた五竜岳のように、どっしりとした重量感のある山だった。苗場山がこんなにいい山だとは知らなかった。
苗場といえば今まで草原のような写真しか見たことがなかったので、余り魅力を感じなかったが、もし、ここからの写真を一度でも見ていたら、苗場のイメージも一変していただろうと思った。こんないい山ならもっと早く来ればよかったと思いながら、情報不足を悔やんだ。とにかく苗場山がこんなに格好いい山だとは知らなかった。感激しながら写真を撮った。
ここから下り出してすぐ、右手に雷清水という湧き水があった。今休憩したばかりだったが、ここでも冷たい水を飲みながら写真を撮った。
ここからは鞍部まで200メートルほど下らされる。その道々には初めて見るピンク色の大きな花が咲いていた。途中で花の写真を撮っていた60代のご夫婦から、この花が「シラネアオイですよ。」と教えられる(写真右)。
さらに、「この花はこの時期にしか咲かないので、なかなか見られないんですよ」と言った。私もこの時期に山へ登るのは珍しいので、今まで見る機会がなかったようだ。
私は苗場山の予想もしなかった立派な山容と、初めて見たシラネアオイに大満足だった。あとは山頂に立つことだけである。
本峰の登りはかなり急登だったが、水場から50分ほどで着いた。木道に導かれて進んで行くと、まるで尾瀬ケ原のような広い湿地帯が広がっていた。
所々に池塘があり、その周りを黄金色の芝生のような枯れ草が覆っていた。その湿原を二分するように、左右に木道が延々と延びていた。その木道を登山者が大勢歩いていた。きっと反対側(秋山郷)から登ってきた人達だろう。
(広い頂上部) | (右の小屋の後ろに三角点がある) |
ここはあまりにも広いので、どこが山頂か分からなかった。分岐の所で休憩していた人に山頂を尋ねると、右手にある山小屋(山頂ヒュッテ)の裏にあるという。
たしかに小屋の周りは小高くなった森のようになっていた。急いで小屋まで行き、小屋を半周するように回り込むと、ただの平地に棒を立てたような簡素な標識があった(写真右)。ここが山頂? 「ウソー」とでも言いたくなるような貧弱な山頂だった。ここは一等三角点らしいが、単なる山小屋の裏庭に杭を一本立てたような感じだった。
再び木道を引き返し、5、6人が休憩していた展望台のような所で昼食にした。まるで野球場が5,6個も出来そうな広い湿地帯を眺めながら、あと1ケ月もすればこの湿地帯にも初夏が訪れて、名のごとく草花が生い茂って苗場のようになるのだろうと思った。
(平成10年)