ニッコウキスゲ紀行


2004花紀行 第3弾
〔車、1泊2日〕
相模原−川越IC−沼田IC−戸倉−(バス)−鳩待峠〜山の鼻〜下田代十字路(泊)〜尾瀬沼〜三平峠〜大清水−(バス)−戸倉

2004年7月18日(日)

 ニッコウキスゲを見るため、先月行ったばかりの尾瀬へまた行って来た。
 6月の尾瀬は、ミズバショウとわずかな花が咲いている程度だったが、7月ともなれば尾瀬ケ原一帯は花で埋め尽くされているに違いない。そんな思いで出かけて行ったのだが・・・。

 まずは戸倉の並木駐車場から乗ったマイクロバスの運転手の話から紹介しよう。
 たまたま補助席に座った私に、
「今日はどこまで行くんかね・・」
 と話しかけて来た。私が、
「下田代十字路の小屋です」
 と答えると、
「下田代! 行けるかなあ? 今朝の集中豪雨で、牛首から竜宮間の木道が冠水して膝ぐらいあるそうですよ。ヨッピ橋まで流されちゃったらしいからねぇ・・・」

 と、まずは一発目のパンチを喰らい、さらに私の最大の関心事であるニッコウキスゲについて聞いて見ると、
「ニッコウキスゲ? そりゃあ今年は全然ダメだよ・・・。6月に台風が来て、その後、霜が降りたんで枯れちゃってねぇ・・・。数えるくらいしか咲いてないんじゃないかなあ・・・」
 と2発目のパンチを喰らって戦意喪失。何しに来たのか分からない、という状況に陥る。

 そんな訳で、今回は滅多に体験できない「冠水した尾瀬」と、「ニッコウキスゲが全くない尾瀬」、さらには雨に濡れた木道で2回もコケるというオマケ付きのとんでもない花紀行になってしまった。

 朝5時ジャストに家を出た。出かける直前に降って来た雨も、すぐに止み、北の空が大分明るくなって来た。

 6時前に川越ICから関越道に乗り、高坂SAへ6時11分に着いた。空には少しずつ青空が広がって来た。

 前回は、おしゃべりに夢中になって沼田ICを通り越し、湯沢ICまで行ってしまうというヘマをやっているので、今日は話し相手もいないが、細い目をカッと見開いて出口をしっかり確認して降りた。

 戸倉の並木駐車場へ8時20分到着。ほぼ満車に近かったが何とか駐車することが出来た。その時は、やはり6月より人が少ないのだろうと思ったが、運転手さんの話によると、朝方に一旦満車になったが集中豪雨のため帰ってしまった人がいたため駐車できたと言う。

 鳩待峠に着くと、スピーカーで注意を呼びかけていた。
「竜宮小屋の手前で、木道が10センチから20センチ冠水しています。流されたり浮いたりしている所もありますので、無理されませんように」
 と、さかんに呼びかけていた。
 しかし私としては、ここまで来て帰る訳には行かない。

 9時15分、鳩待峠発。
 雨に濡れた木道が滑るので一歩一歩慎重に下って行った。注意を呼びかけている割にはハイカーが多かった。山の鼻まで行って引き返しているのだろうか。
 今日は、夕張へ行った時に痛めた左足を確認する意味もあった。8月に北アルプスへ行けるかどうか、しっかりチェックしなくてはいけない。

 6月に来た時は、木道の脇にムラサキヤシオやシラネアオイなどが咲いていたが、今日は見る花もない。濡れた木道とぬかるんだ道を下って行った。

 9時55分、山の鼻へ到着。
 ビジターセンターの公衆電話に行列が出来ていた。家族へ連絡するために並んでいるのかと思ったが、ほとんどの人が山小屋へキャンセルの電話を入れていた。
 私も、どうせニッコウキスゲが見られないなら無理して行くこともない。ここで引き返そうか、という思いもあった。しかし、ここで引き返しては山男の名がすたる。それに、木道が冠水した尾瀬ケ原なんてそう見られるものではない。ここはやはり強行突破しかあるまい、と決意する。

 ちょうど尾瀬ケ原の方から大学のワンゲル部らしいパーティーが来たので、彼らから情報を収集した。冠水は20センチぐらい。そこをジャブジャブ歩いて来たという。
「それにしてはズボンも靴下も汚れていないのでは?」  と尋ねると、
「ズボンをまくって、靴と靴下を脱ぎ、素足で歩いて来たんです」
 とのことだった。

 そうと分かれば、少しでも時間をつぶして水が引くのを待てばいい。

 早速、缶ビールを買って来て飲み、昼食を摂り、コーヒーを飲んで時間を潰す。

尾瀬ケ原を歩きながら、やっぱりニッコウキスゲが少ないと思った。7月の尾瀬は始めてなので例年と比較はできないが、インターネットなどで見る光景とは余りにも違い過ぎると思った。咲いているのはアザミとタチギボウシぐらいだった。
 (池塘の水かさが多くなってきた)

 木道が冠水していたのは、竜宮小屋の手前、ミズバショウが咲くビューポイントの所だった。木道が5、6本水に浸かっていた。「な−んだ、これだけのこと・・」、正直そう思った。

 かつて白馬鑓温泉からの下りで大雨に遭い、窪んだ登山道が沢のようになって流れ、膝まで浸かりながら、道をまさぐるようにして下ったことがあった。また、2、3日前に新潟県と福島県を襲った集中豪雨で民家が流される映像を何回も見せられたせいか、尾瀬ケ原一帯がドロ水で冠水し木道さえ見えない状況を想像していたが、今、目の前にあるのは、いつもの澄んだ水に木道が10センチぐらい沈んだり浮いたりしているだけのことで、そんなに大げさなことではなかった。

 しかも、関係者(小屋のアルバイトかも?)が沼に入って、浮いた木道を抑えたり、渡る人に手を貸したりしている。
 私は、彼らに「ご苦労様!」と声をかけて渡ったが、若い女性はキャッキャッ言いながら渡っていた。

 ツアーの団体さんがほとんど引き返したので、人が極端に人が少なくなった(写真右)。さびしいほど静寂な尾瀬をのんびりと歩いて行った。
 燧ヶ岳がボンヤリと見えるようになって来た。

 尾瀬ケ原一帯は、湿原が緑に覆われて草原のようだった。6月とは全く趣が違うが、花が少ないのが残念でならない。シラネニンジンのような白い花はいたるところに咲いていたが、私が見たいのはニッコウキスゲである。そのニッコウキスゲは竜宮小屋を過ぎても少なかった。

 下田代の小屋近くまで来た時、パラパラと雨が降ってきた。傘を差して小屋へ到着。12時50分。
 小屋は6月に来た時と同じ小屋である。実は、昨日来る予定で某小屋を予約していたのだが、天気が悪いのでキャンセルして一日遅らせて来たのである。たまたま予約がとれたのがこの小屋だった。

 小屋へ早く着き過ぎてしまい、「まだ部屋割りをしていないので、しばらく待って下さい」と言われ、ロビーでビールを飲みながら待った。
 雨が本降りになって来た。一足早く着いてラッキーだった。

 尾瀬ケ原のニッコウキスゲは全く期待ハズレだったが、明日行く大江湿原はどうだろうか。「どうせ期待は出来ないだろう」などと考えながら、雨の尾瀬ケ原をボンヤリと眺めていた。

 気になる情報として、尾瀬沼の北側、つまり燧ヶ岳の裾を巻いて行く方の橋が流されてしまい、皆んな南側を回っているとのことだった。もともと南側の道はあまり整備されていないので、今日は怪我人まで出たという。
 明日、大江湿原へ行くためには南回りでは遠回りになってしまう。いっそのこと大江湿原へは寄らずに帰ってしまおうか、などと考えてしまう。

 夕張で痛めた左足は全く問題なかった。これで8月の北アルプスは安心して出かけられる。
 雨もいつしか止み、わずかに青空が見えてきた。

 2時ごろになって部屋へ案内された。なんと6月に泊まった時と同じ部屋だった。
 部屋でウトウトしていると、オジさん、いやオジイさんが一人案内されて来た。このオジイさんは77歳で、福井県から来たという。普段は友達と近くの山を登っているが、尾瀬だけは一人で来ているという。
 そのオジイさんと山の話や福井県の話などをしながら、私もこのオジイさんのように77歳まで現役で山登りがしたいものだと思った。

 今日は宿泊者が少なかった。キャンセルした人が多かったようで8畳間に5人だった。


7月19日(月)

 4時になるのを待って、カメラだけを持って外へ出た。今日は曇っているせいか、尾瀬ケ原に朝靄がかからず、幻想的な光景は見られなかった。

 5時45分、小雨が降る中を出発する。
 登山者が少ないので早いペースで歩いて行った。しかし、途中に団体さんがいるとペースが乱れてしまう。最初に20人程のパーティーを追い越した。一人ずつ「済みませ−ん、道を空けて下さーい」と声を掛けて追い越して行くと、また団体さんがいた。30人ぐらいのパーティーを一人ずつ追い越し、やっと先頭に立った時は、こっちがヘトヘトになってしまった。

 途中で雨が本降りになった。雨具を着て傘を差しているが、雨足が強すぎて傘も役に立たないほどだった。
 白砂峠へ6時50分着。雨の中では休む気もしない。そのまま素通りする。

 沼尻休憩所の手前に、なぐさめ程度にニッコウキスゲが咲いていた。せっかくなので写真を撮ったが、大雨の中で写真を撮るのは大変だった。
 休憩所でコーヒーを飲んでいると、雨がだいぶ小降りになって来た。
 ここで北回りの橋について確認すると、「仮橋を掛けたので通れます」とのことだった。

 北回りで大江湿原へ行った。しかし、と言うか、やっぱりニッコウキスゲは少なかった(写真上)。写真で見たあの黄色いジュウタンを敷いたような光景とは全くかけ離れた光景がそこにあった。昨夜同室だった青年が、「写真で見たのと較べると1/5か1/10ぐらい」と言っていたが、まさにその通りで、ポツン、ポツンと咲いている程度だった。昨日から覚悟は出来ていたものの、何ともやるせない思いだった。
 しかし、これも自然だから仕方がない、と諦めるしかなかった。

 長蔵小屋の売店で缶コーヒーを飲み、10分ほど休憩して9時ジャストに出発した。
 長蔵小屋の前庭にヒメサユリが咲いていた(写真左)。こんな花が尾瀬ケ原一帯に咲いていたら最高なんだがなあ、と思わずにはいられなかった。昔は至る所に咲いていたのかも知れない。

 三平峠で、雨に濡れた木道で滑って2回も転んでしまった。腕と足に幾つも青タンをつくってしまったが、こんな所で大怪我などしてはたまらない。

 途中で、東京の日野から来たという中学生100人ぐらいが登って来た。すでにバテている子供もいた。
 私の後ろの方にいたオバさんが、
「まだまだ遠いデ〜。元気だして頑張らんかいナァ〜」
 と声をかけた。励ましているのか、カツを入れているのか分からない。周りから笑い声が聞こえて来た。

 一の瀬休憩所へ着くと、完全に雨は上がり薄日が差して来た。まったく普段のオコナイが悪いとしか言いようがない。
 ここで食事をして大休止。

 今年の「花紀行」を振り返ってみると、6月の尾瀬はミズバショウが見られたので○、夕張岳は期待ハズレで×、暑寒別岳はマシケゲンゲが見られ、期待以上のお花畑だったので○、今回はニッコウキスゲが少なかったので×。つまり2勝2敗ということになる。
 8月に白馬岳・雪倉岳・朝日岳を縦走する予定であるが、花はこの縦走に期待しよう。