斜里岳(しゃりだけ)    66座目

(1,545m、北海道/知床)


熊見峠から見た斜里岳(左から2番目)。


清岳荘〜旧道〜斜里岳〜新道〜清岳荘

1998年7月30日(木)

 羽田−女満別−網走−清里町−清岳荘(泊)

 昨年の夏にSさんと大雪山(旭岳)、トムラウシ、十勝岳を登った帰りに、「来年は羅臼と斜里、阿寒をやろう!」と気勢をあげた。それから丸一年。その夢をかなえるために2人で女満別空港へやって来た。

 空港から、斜里岳へ行くためバスで網走へ向った。
 車窓から網走湖を見ながら20分ほどでJR網走駅へ着いた。ここで昼食を摂ってからJRで知床斜里へ出た。ここで約1時間の待ち合わせ。駅前のスーパーで買い出しをしたり、ポリタンへ水を満タンに詰め込んだ。小屋の水は沢水を使っているので、エキノコックスが怖いからだ。

 清里町駅は信州の清里と間違いやすいが、ここは町が付く。無人駅でキオスクも自販機もなかった。駅前の通りにもお店らしいものは1軒もなく、斜里駅で買い出しをしてきて大正解だった。駅前から電話でタクシーを呼ぶと、2、3分で来てくれた。

 清岳(せいがく)荘までは、ジャガイモとピートというホウレンソウのような葉をした畑の中を走って行く。道は2、3キロ先まで見通せる真っ直ぐな道だった。
 晴れていればこの辺から富士山のような姿をした斜里岳が見えるらしいが、山裾だけがわずかに見えるだけで上部はガスって見えない。

 林道に入ると、運転手さんが「ここは時々クマが出るんですよ……。今日はいませんかね……」と言ってスピードを落とす。そう言われると、腐った切り株などが全部クマに見えてきた。そして、「ついにクマの巣といわれる知床へやって来た」という実感が湧いてきた。

 ログハウス風の小屋へ着いて玄関を潜ると、管理人から「予約をしていますか」と聞かれて驚いた。ここは避難小屋だと思っていたからだ。管理人から「満杯の時は予約をしていない人には断ることもあるが、今日は大丈夫だ!」と言われてホッとした。

 この小屋は、ガイドブックには「定員70人で新館と旧館がある」と書いてあったが、旧館は取り壊されたらしく見当たらなかった。新館は小さくてかわいい小屋で定員30名と書いてあった。

 ここは小屋の裏側で炊事をするが、テーブルの数より椅子が極端に少ないため、立ったまま炊事をしている人が大勢いた。

 我々の隣には、札幌から車で来たという30代の女性2人がいた。彼女達も明日は斜里岳を往復してから、羅臼岳の登山基地である岩尾別温泉へ行くという。彼女達は「ホテル地の涯(はて)」へ泊まるというが、我々はそのホテルの後ろにある木下小屋泊まりである。彼女達は「私たちの車に乗って行きませんか」と言ってくれた。

 しかし、彼女達と下山の時間が合わないことや、タクシーを予約してしまったこともあって、少し残念な気もしたが予定通り行動することにした。


7月31日(金)

 清岳荘440〜700上二俣〜805斜里岳〜(新道)〜1045清岳荘−ウトロ−木下小屋

 朝3時半に目が覚めた。窓側の人が窓を開けて空を見上げていた。私は静かに一階へ降りて、炊事用の荷物だけを持って外へ出た。
 空はまずまずの天気だった。

 昨日と同じ炊事場の椅子に座って目覚めのコーヒーを飲み、4時になるのを待って相棒を起こしに行った。すると相棒は眠そうな顔をして、「寝不足なので行かない」と言ってシュラフの中へ潜り込んでしまった。

 相棒が行かないというのでは仕方がない。再びコーヒーを沸かして朝食のパンを食べていると、単独のオジさんが最初に出かけて行った。ここはクマが出るので、私は最初には登りたくなかった。ぜひ露払いをお願いしたいものだ。
 続いて、昨夜は「遅くとも4時には出かける」と言っていたオジさんが出かけて行った。これでもうクマの心配はないだろう。

 私は4時40分に出発した。小屋から下二股までは約30分。沢沿いの道なので徒渉も多い。しかし靴が水浸しになるようなことはなかった。

 下二股の手前で、頂きが丸くヘルメットのような形をした斜里岳が見えた。初めて見た斜里岳だった。

(中央やや右手のピークが斜里岳)

 下二股からは、右手の尾根伝いに行く新道を見送って、そのまま真っ直ぐ沢道を進んで行った。すぐに前を歩いているオジさんの姿が見えた。そのオジさんはクマ除けに、鈴ではなく交通整理をするお巡りさんのようにピーピーピーと笛を吹きながら歩いていた。

 ここからしばらく行った所で、思わず歓声を上げた。目の前にすばらしい滝が現れたからだ。この沢には大小合わせて七つの滝があるらしいが、その中の「羽衣の滝」らしい。

 滝の左側を登って上に出ると、さらにその上に岩をなめるような滝が続いていた。実にすばらしい滝だった。「これで冷たい沢水が飲めたら最高なんだがなあ………」と、思わずボヤキ節が出てしまった。

「羽衣の滝」を過ぎてから、今度はヤブこぎをしてしまった。道を間違えたのだ。尾根に向かって踏み跡が付いていたので登って行くと、途中で踏み跡が消えてしまったのである。間違いに気付いてすぐに引き返したが、ストレスとエネルギーの消耗は大きかった。正規のルートへ戻った時はグッタリと全身の力が抜けてしまった。

 一服した後、もう一度気合いを入れて歩き出した。すぐに次の滝が現れた。「方丈の滝」らしい。


(羽衣の滝)

(ナメ滝?)

(方丈の滝)

 その後「見晴らしの滝」を過ぎ、「七重の滝」で朝日を浴びた。ここは沢なので日の出が極端に遅い。上空が明るく輝いていても、やはり直接朝日を浴びるのはうれしい。

 今度は、右手に「竜神の滝」、左手に「霊華の滝」が同時に現れて来た。たった今休憩したばかりだったが、こんなすばらしい所を素通りしてはもったいないと思い、写真を撮りながら絶景を満喫した。


(右が竜神の滝、左が霊華の滝)

 上二股、7時着。
 ここから尾根コースである新道と合流して、馬ノ背まで「胸突き八丁」となる。歩き出してしばらくすると、もう下って来る人がいたので驚いた。この人は八王子から車で来たという50代後半の人で、昨夜は車の中で寝て今朝3時20分に出発したと言う。

 馬ノ背へ出ると、すばらしい展望が待っていた。左手に斜里岳の山頂、右手に南斜里、そして、正面には雲海が広がっていた。

 その雲海に、二つの山が海に浮かぶ小島のように浮かんでいた。手前の山は何という山か分からなかったが、遠くの山が知床連峰に違いないと思った。少し遠くて残念だが、三角形をした、ひときわ高い山が羅臼岳であることは間違いなかった。明日はあの山頂へ立てるのかと思うと無性に嬉しかった。手前にあった山は、後で調べたら海別岳(1419m)だった。


(馬ノ背からの斜里岳)

(手前が海別岳、奥が知床)

 この馬ノ背から、手前のピークを越えると、本峰との鞍部に祠があった。私は祠に手を合わせ、安全登山を祈願した。

 山頂へ思ったより早く着いた。馬ノ背から見た時は40分位かかるかと思ったが、20分ほどで着いた。山頂には5、6人が休んでいた。その山頂へ8時5分に到着。ついに斜里岳の山頂に立った。羅臼岳も見えた。羅臼岳を見つめながら、「ヨシ、明日は羅臼だ!」と思わず叫んでしまった。


(山頂直下の祠)

(山頂で出迎えてくれたエゾリス)

(南斜里岳、手前に馬ノ背が見える)

 下りは予定通り新道を下ることにした。馬ノ背を下り、上二股の分岐近くまで来た時、札幌のお姉さん2人が登って来た。ここで一服しながらしばらく話し込んだ。

 相棒のSさんは、今朝「眠いから行かない」と言っていたが、お姉さん達から話しを聞くと、「昨夜はゾウかライオンのような大きないびきをかく人がいて眠れず、私達も車へ逃げ込んで寝たのよ」と言った。
 もしや、そのゾウかライオンは私ではなかったかと心配したが、幸い私ではなかったようだ。しかし、相棒が寝不足となった一因は、きっと私にもあったに違いないと思った。

 お姉さん達と分かれて二股まで来ると、小屋で寝ていると思ったSさんが道ばたに座り込んでいた。彼は、「みんなが出発して静かになったので熟睡できた。散歩のつもりで登って来た」、と言った。ここからは2人で一緒に下った。

 熊見峠まではハイマツの茂ったみどりの稜線歩きだった。この稜線から見る斜里岳がすばらしかった(TOPの写真)。
 小屋着10時45分。
 小屋へ戻ってSさんと持ってきたビールで乾杯した。

(写真はタクシーで清里町駅へ向かう途中で見えた斜里岳)

 ここからは、タクシーで清里町駅へ出て、JRで知床斜里へ出た。そこからバスでウトロへ抜け、ウトロからタクシーで岩尾別温泉の木下小屋へ向かった。

 途中で知床連峰がくっきりと見えた。
 右側から羅臼岳、三ッ岳、サシルイ岳、南岳と続き、一番左にある硫黄山までズラリと並び立って見えた。中でも一番右手にある羅臼岳は、ひときわ高く、いかにも連峰の盟主らしい風格があった。それに一番左側の槍のように尖った硫黄岳が魅力的だった。出来るならあそこまで縦走したいと思った。


(ウトロ)

(知床連峰、右端が羅臼岳)

 知床とは、アイヌ語で「地の果て」という意味らしいが、羅臼岳の登山基地である岩尾別温泉には、その名も「地の涯(はて)」というホテルがあり、その裏側にログハウスの木下小屋がある。

 この小屋は、羅臼岳を愛し、羅臼岳への道を切り開いた木下弥三吉という人が住んでいた所で、今でも「木下小屋」として羅臼岳の重要な基地となっている。現在は、法量さんという地元では山男として有名な方が、シーズン中だけ奥さんと一緒に暮らしている。

 その木下小屋へ3時ごろに着いた。予約していたこともあって3畳間ほどの小さな個室へ案内された。たとえどんなに小さくても個室とは有りがたかった。

 この小屋には露天風呂があった。さっそくひと風呂浴びてから、テラスで持ってきたビールで乾杯した。
 小屋は今でもランプを使っていた。「ホテル地の涯」では自家発電をしているそうだが、「そんなことはしない。ここは山小屋だから」というご主人。
 昨夜は寝不足だった相棒も、今夜は個室でぐっすり眠れることだろう。7時就寝。

羅臼岳へ続く