剣山(つるぎさん)      78座目

(1,955m、 徳島県)



次郎笈(きゅう)の登りから返り見た剣山。


剣山〜次郎笈縦走

2000年 4月28日(金)

羽田−徳島−貞光−(バス)−つづら堂−(民宿迎車)−見ノ越(泊)

 羽田発徳島行きの飛行機は、約30分遅れてフライトした。
 上空には紺碧の空が広がっていた。天気予報は明日までは全国的に晴れるが、明後日は九州、四国地方は午後から雨と報じている。せめて2日間だけはこんな青空であってほしいと願った。

 徳島空港へ着くと、登山者が大勢いた。その人達が豪華なバスに乗り込んで行くので、私も後ろに並んで乗り込んだ。しかし、そのバスはツアーの専用バスだった。急いで降りて後ろの路線バスに乗り換えた。

 徳島から阿波池田行きの列車は、ガラガラだった。登山者の姿も見当たらない。この辺は交通が不便なのでマイカーやレンタカーで移動する人が多いのだろうか。

 車窓からは新緑の山が見えた。萌えるような新緑を見ていると、とても剣山や石鎚山に残雪があるとは思えなかった。剣山の登山口にある見ノ越の民宿では、「今年は雪解けが遅くてねぇ……。山頂付近はまだ雪が残っていますよ」と言い、石鎚山の成就の旅館でも、「二ノ鎖から上は残雪で朝晩は凍る」と言うので、アイゼンとピッケルを持って来たのだが、本当に雪などあるのだろうか。

 貞光駅(写真左)は予想していた通り無人駅だった。タクシー(5、6台)の運転手が待ちくたびれたように大きなあくびをしている。待合室には登山者が1人いた。30代の男性でかなり大きな荷物を持っていた。

 バスは渓谷沿いの道を進み、一宇では民家の軒先すれすれに走って行く。ここは私が想像していた観光道路とは全く違い林道のような道だった。
 バスは剣山の登山口よりはるか手前のつづら堂までしか入らない。その終点まで乗って来たのは私と30代の登山者だけだった。

 ここから登山口である見ノ越まで歩くと3時間半かかる。私は民宿の車(有料)で迎えに来てもらったが、彼は歩いて行くという。見ノ越へ着くまでに暗くなってしまうだろうと心配した。

 私は車中の人となって見ノ越へ向かったが、何と山深いことか。見渡す限り山ばかりである。その山の中腹に国道とは名ばかりで林道のような道がうねっている。これではバス会社が廃線にするのも無理がない。

 途中で剣山と次郎笈(きゅう)が見える所で車を止めてもらい写真を撮った。初めて見た剣山は中腹から上が白かったが、雪ではなく樹氷のようだった。山頂に小屋がポッンと見えた。ここから見る剣山は特別驚くほどの魅力はなかったが、右手に見える三角形の薄緑色をした次郎笈が目を惹いた。しかし、想像していたよりもスケールが小さく、ぽっちゃりしていて迫力という点で物足りなかった。


(左が剣山、右の三角錐の山が次郎笈)

 見ノ越にはお土産屋さん兼民宿が3、4軒あった。私はその中の「まつうら」という民宿へ泊まった。


4月29日(土)
見ノ越(宿)450〜630剣山640〜735次郎笈〜1231名頃−多度津(泊)

 民宿を4時50分に出発。外はわずかに明るく剣山神社の階段もヘッドランプを点けずに登って行った。
 神社で手を合わせ、簡易宿泊所の右にある登山道へ入って行くと、5、6分で稜線へ出た。そこには神社があり、うっすらとオレンジ色に染まった東の空が見えた。思わずバンザーイと叫びたかった。今年(2000年)最初の山行が好天に恵まれて嬉しい。昨年は雨に降られることが多かったので、今年こそ雨男を返上したいと思っていた。ここは落葉樹林帯の登り坂だったが、私の足取りはすこぶる快調だった。

 ここは山深く、見えるのは山ばかりである。四国の山がこんなに深いとは思わなかった。
 剣山は1955メートルで、西日本では明日登る予定の石鎚山に次いで二番目に高いが、見ノ越が1400メートルあるので実際に登るのは500メートルとわずかである。それでも最近はリフトを使って往復してしまう人が多いと聞く。やはり山はこうして歩かなくてはいけないと思った。

 5時30分、夫婦池がある右手遠方の頂稜が朝日を浴びて眩しく輝いていた。立ち止まって眺望を楽しんでいると、10人ほどのパーティーが登って来た。

 西島野営場の手前で、山頂の小屋と朝日に輝く次郎笈が見えた。思わずバンザーイと心の中で叫んだ。次郎笈は樹木がなく、一帯がクマザサに覆われているせいか薄緑色の美しい山だった。昨日林道から見た時は、こじんまりしたピラミダルな山だったが、ここから見ると奥が深く北アルプスの常念岳のようだった。


(剣山、小屋が見える)


(朝日に輝く次郎笈)

 野営場には、先程私を追い越して行った10人ほどのパーティーが休んでいた。5、6人で体操しているパーティーもいた。
 ここからリフト駅まではすぐだった。リフト駅着5時50分。

 リフトの駅からは稜線コースの刀掛けを目指して行くと、眩しいほどの朝日を浴びた。今まで剣山の西斜面をトラバースしながら登っていたので陽が差さなかったのだ。上空には雲一つない紺碧の空が広がっていた。うれしい。こんな天気に恵まれたのは久しぶりのような気がする。やはり山登りはこうでなくてはいけない。

 刀掛けの松は枯れて倒れてしまったのだろうか。注意して見ていたが、それらしい松は見当たらなかった。

 山小屋と社務所(観測所かも知れない)の間にあった階段を登って行くと頂稜へ出た。そこは突風のような風だった。全身が寒くてガタガタ震える。

 頂部はかなり広く、その中に木道が走っていた。それは「木道」と言いうよりも「廊下」という感じで、いかにも人口的でガッカリした。
 その人工的な道を進んで行くと、すぐに左右に別れる。何の標識もなく、両方の先端に山頂らしいものが見えた。一瞬迷ったが、右手の方が高そうなので進んで行くと、剣山の山頂だった。山頂着6時30分。

 山頂には標識と三角点があった。三角点の周りには、小石が膝よりも高く、幅2メートルも積まれていた。正面には次郎笈が大きく見え、その右手に丸石、三嶺へと続く縦走路が見えた。しかし、どれが三嶺なのかは分からなかった。

 たった一人で風を除けながら一服していると、40代の夫婦が登って来た。その夫婦に写真を撮ってもらった。その後から単独行が登って来た。その単独行は明日は石鎚山へ行くと言うので、「石鎚で会いましょう」と言って別れ、私は次郎笈を目指して下って行った。(山頂発6時40分)。

 剣山の下りから見る次郎笈がすばらしかった。所々に雪田があり、一面クマザサに覆われた山容は、どっしりとした重量感と風格があり、南アルプスの赤石岳のように見えた。


(剣山の下りから見た次郎笈)

 剣山から次郎笈の稜線歩きは最高だった。何といっても眺望がいい。

 次郎笈着7時35分。剣山で一緒になった夫婦に、ここでもシャッターを押してもらった。
 この夫婦が見ノ越へ引き返すと、入れ替わるように別の単独行がやって来た。この単独行も見ノ越へ引き返すという。(この人とは翌日石鎚山でも会うことになる)。

 剣山は見ノ越まで車で来て往復する人が多いようだが、やはり次郎笈まで来なくてはもったいないと思った。剣山は日本百名山であるが、私は剣山よりこの次郎笈の方が魅力があると思った。

 次郎笈から丸石を目指して下って行った。ここも一面クマザサに覆われた稜線の道である。天気も良く、眺望も良く、周りに誰もいない稜線をたった一人で歩いて行った。

 しばらく下ると、左手にスーパー林道へ下る道があり、危うく下ってしまうところだった。分岐点から左の方が道幅が広くよく踏まれているのに対し、縦走路はクマザサに覆われて、やっとそれと分かるほどの道だった。

 スーパー林道から登って来る3人のパーティーがいた。林道へ車を置いて次郎笈や剣山を往復するのだろう。それにしても縦走路がクマザサに覆われて道が分かりにくいのには驚いた。今や縦走する人などいないのだろうか。

 クマザサを分け入りながら、丸石から名頃へ下る道が心配になった。縦走路がこんな状態では丸石から下るコースはもっとひどいと思った。今日は天気が良いので何とかなるだろうが、視界が利かなかったらエライことになってしまう。

 丸石の頂上はクマザサがなく、普通の山頂だった。ここから振り返ると、次郎笈とその奥に剣山が見えた。


(丸石頂上からの展望。中央右が次郎笈、左奥が剣山)

 やはり縦走して来て良かったと思った。ここは太郎笈(剣山)と次郎笈に登ってこそ価値があると思った。

 丸石から奥祖谷かずら橋へ下るコースは道が整備され何の心配もなかった。途中には冷たい沢水もあって快適なコースだった。ただ、クマが出やしないかと目をキョロキョロさせながら下った。

 かずら橋はガイドブックによると、『祖谷川が四国山地を切り刻んできたV字型の大渓谷で、目もくらむほどの深い谷と緑の山に囲まれた秘境である。その上流をまたぐかずら橋は、強靱な「シロクチカズラ」を編んでつくられた吊り橋』と書いてある。

 その橋を渡って急坂を登ると舗装された道路へ飛び出した。そこで入場券を売っていたオバちゃんが、「名頃へ行くんでしょう。今から行けば12時30分のバスに乗れるよ!」と教えてくれた。急いで近くにあった売店で缶ビールを買って、歩きながら飲んだ。

 しかし、バス停まであと30メートルという所でバスが行ってしまい、結局、3時間も待つハメになってしまった。

 腹が減ったので、食堂でゆっくり食事でもしながらバスを待つことにしたが、何とたった1軒しかない食堂が閉まっていた。さらに、小さなお店があったがそれも閉まっていた。つまり食うものは何もなかった。
 たった一人で、バスの待合室で、腹をグーグーさせながらバスを待った。

 石鎚山へ続く