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 昭和三年五月一二日

   ○ 門司 五月十二日発 特別電話

        筥崎丸 一等船室 第九号内の惨事

 筥崎丸一等船室第九号の船客は夜中 用便の為ベッドを離るるを不便とし

 洗面台の下にある仕壜〔尿瓶〕を持ち出してベッドの脇なるソファーの上に置き

又啖壺はソファーの下に之を置きて(図面参照)少しく手を延ばせば仕壜あり

少しく体を横に向くれば啖壺ありで 得意然として済まし込んで居りしが 今朝

 如何にせけん 仕壜は手を離れて下なる 啖壺の上に落ち 室内に時ならぬ洪水

起りしのみならず 仕壜は胴体三ツに割れて即死を遂げ 啖壺は重傷を負うて

一生不具の身となり 近頃珍しき心中なりとて船中 否 門司市中の大評判なり


 五月十二日 十一時半(出港三十分前)

       門司    筥崎丸    錠二

 三子殿