2001/10/20(土) 和歌山県・七川(しちかわ)ダム 釣行兼ライター:K'z |
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大気も凍る午前7時、我々一行は靄に包まれ視界ゼロの人類未踏の地へ向かっていた。椿山ダムは吉備ICから山間部を東に超えた秘境に位置する人工のリザーバーだ。ところが船長兼運転手の運転する車は北へ北へと悠然に進んでいた。『船長!船長!道違うんぢゃないですか!?』『♪~´ε`』船長の様子がおかしい。目がぼんやり緑色に光っている。何かに操られているようだ。『ぷ~』クラクションもこの通り威力を失っている。船長にショックを与え、正気を取り戻させる。地図を見直し、改めていざ椿山ダムへ向かう。
そこは峡谷のような、人を寄せ付けないかのように降りる場所のない慟哭のダム湖だった。特にぐるっと一回りすることなく近くにスロープを発見。そこはこの湖で開かれる漕艇競技のための本部のようだ。
人が居ないことを確認し、最初のポイントとすることにした。遠くではバスが跳ねる姿も見られる。しかしバスの活性よりも人間の活性が著しく悪い。とにかく凍て付くような気温が漁師達のテンションを下げる。船長とhiroは長靴持参だが、防寒力が弱く霜柱の立つ大地に小指が悲鳴を上げていた。しかし変温動物の船長は、優越感に浸るあまりオムツも替えずにわざわざ浅瀬を歩く。誰も羨ましがらない。
四者四様各々が放尿を始める。生態を科学的に計算する事でバスを獲得してきたhiroが何かをひらめいたようだ。『水温上げなバスも釣れんで~』湖に熱湯のような尿を注ぐ。誰もがhiroのジョークに笑おうとしたが、hiroの眼は「閉じるでもなく開くでもない」心眼の眼だった。笑いにならない仏陀の眼だ。そしてその場にルアーを放り込む。私はあまりの寒さに耐えられず、しばらくは皆の様子をうかがう事にした。オジャリーの放尿は物凄い湯気を放っている。当人も避けるのに必死の様相だ。船長は一人茂みを超えたポイントへと入っていった。
我々の釣行をどこで聞きつけたのか、遠くからは地元の中学生も応援に来てくれている。
hiroはこの釣行の為に新しいウルトラライトのロッドを使用している。hiroに彼自身の尿泡が消える間もなくファーストヒット!まさかのヒットに私は驚いた。この気温では絶対にバスは動かないと思っていたからだ。中級サイズのバスの引きに戸惑ったのか、高速リトリーブを行っている。リールからは煙が立ち、ロッドはUの字にしなっている。腰も引けている。ジャバっと水面に現れた中級バスは、バレてしまってファーストフィッシュとはいかなかったが皆のテンションを上げる効果はあった。爺のように凍えていたオジャリーが軽やかに放置ボートに乗り込みルアーを放り出す。この男にもオムツが装着されている可能性がある。私も数投してみるが、芳しい結果を得ることは無かった。
その場に見切りを付け、さらに湖を東へ進む。私はひととおりこの湖を知りたく、ぐるっと一周回ることを懇願するが、皆はいち早くプレイをしたそうである。ボート降ろしの為のスロープが見える。他のバッサーの車も停まっているのを確認した為、勝手の分からない湖を回るより、行ける所を攻めるというパターンで行くことにした。そこで数分粘ってはみるが、1回きりのギル的なアタリが有った事意外にコメントは特に無い。ハリセンボンの引っ付き虫地獄だった為、幼子の戦争が始まった事だけ記録しておこう。
西日になり気温も随分上がってきた。行くあてもなく彷徨う事は避けたい一行は、最初の漕艇場へ戻る事にした。
ポカポカ陽気にオジャリーもご機嫌だ。以前、釣行を共にしたのは、まだオジャリーがキャストすら出来ない頃にさかのぼる。その頃はルアーをいかに遠くへ飛ばすかなどが課題になっていたが、ラインが切れて飛んでいった時のルアーが最長不倒だったという苦い経験を持つ男だ。今回はタックルも上位のものを選択し、キャストに関しても口を挟むことは無いほど上達していた。Dance on the Lake.白鳥のような軽いキャストを続けていたが、その脳裏にルアーをいかに遠くに飛ばすかなどの雑念が芽生えていることを当人すら気付いてはいなかった。『うりょっ!』という掛け声に呼応する「ぶち!」という鈍い音が聞こえた。ラインが切れてルアーが飛んでいったのだ。誰もがDance on the Lake.アヒルの子のキャストになごみ、そして本日のボウズを忘れさせるに十分なパフォーマンスだと感じた。
次のヒットもやはりhiroだった。突然、エビ反りフッキングを始めるhiro。いつもより反り具合が大きい。1回目のヒットを超えるビッグヒットであることは確かなようだ。結果的にラインブレイクによりゲットすることは出来なかったが、浮き上がるバスのシルエットはモンスター級であった。hiroの武器は自己流欲張りリグ。常吉+スプリットのダブルワームだ。1度は誰もが考えるリグではあるが、実釣し皆より優れた結果を出す者は皆無である。これには脱帽だ。
パソコン通信、もといインターネットで調べた所によると、日高川の上流が好ポイントであるらしく、そこに向かう為漕艇場をあとにした。
現場に到着した我々は、その水質の輝きに驚いた。エメラルドに輝くその水深は5cmといった所か。バスどころか沢ガニすら見られないその川にルアーを放るhiro。無邪気なその姿は日高川の神の逆鱗に触れてしまったようだ。何かに引っ張られるかのようにカニ歩きをするhiro。『アイ~ヤ~』クンフーのような断末魔と共に「バキ」という鈍い音がコダマする。
hiroの足元には彼自身と言っても過言ではないロッドが可哀相な姿になって横たわっている。『アイ~ヤ~』hiroも可哀相だ。
これ以上この湖にとどまる事に意味はなかった。失うものが多すぎる。そして恒例の反省会は今回も行われることは無かった。
私はこの椿山ダムには今後も来たいと思う。釣りが出来る場所が限られているなら諦めも付くが、今回は目に付く場所に行くだけで、この湖の三分の一も知らずに釣行を終えた事に納得がいかなかった。朝一番にベイトフィッシュの大群を見たとき、ここは評価に値するバスレイクだと確信したのだ。釣れそうな所に行き釣りをする。オカッパリバッサーのこの醍醐味をすっかり忘れてしまっていた。改革ではなく退化する釣行だったと思う。
今日の1句 : 釣行後、後部座席で、眠るだけ
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