Confirmation




 貴方にとって私の存在は大きいですか?仕事場では突き放してしまう私・・・―――。
貴方との関係を隠すためとはいえ、最近の私は少しおかしかった。
大事な貴方に危機が訪れるまで、気付かなかったとは・・・―――。



「都筑、今回の仕事は別府だ。この温泉街で続いている変死事件についてだ。
詳しくは巽が説明する。巽、たのむ。」
年中、桜が狂い咲きしている冥府において、死者の罪業を裁くとされている十王庁。
その中でもエリートたちが集まっていると言われている閻魔庁・召喚課の課長室。
いつものように第2領域(セカンドエリア)担当の都筑は課長から、今回の仕事を聞いていた。
しかし、今回は何処か違う・・・。
「今回の事件ではおかしな事に全て旅館・ホテルの露天風呂でおこっています。
第一の犠牲者は女性で、第2が男性・・・・。5人に共通点は何一つありませんが、
一つだけありました。それは彼らの体の何処かに一つだけ、獣に噛み付かれた跡がありました。
お陰で人間界ではこの事件のことを『犬神事件』なんて呼んでますよ。
もっとも、私共はそんな馬鹿げた考えはしてませんけどね。資料はこちらです。
しっかり読んで下さい。」
巽は資料が沢山はさまったファイルを都筑に手渡した。
「巽、今回俺は一人でやるのか?密がいないし・・・。」
そう、都筑のパートナーである黒崎 密は睡眠不足のため、体調を崩していた。
今回の仕事には参加できそうにない。
「その件に関してですが・・・。」
巽は優雅な仕草で眼鏡をかけなおした。
「今回は特別にこの私が貴方のパートナーを勤めます。貴方一人では何かと不安ですし、
その方がいいだろう、という結論に落ち着きました。」
「ゲェ!巽が俺のパートナー?」
内心はとても嬉しいのだが、課長の手前、あからさまに嫌な顔をしてみた都筑。
「何です?何か文句でもありますか??都筑さん。」
都筑の内心をわかっていてもこちらも課長の手前、いつもの高圧的な笑みを浮かべる巽。
もちろんこの勝敗は最初からわかりきっていた事で、巽が都筑の頬をギュッとつまみ、
都筑が犬耳にしっぽを出して「キャウ〜〜〜ン」と言うのである。
今回もそうなり、都筑は
「わかりました。頑張ります・・・。」
と言ったのである。それを終始、黙ってみていた課長は「フ〜〜〜」と溜息をつき
(閻魔庁のエリートがこれで良いものか・・・。)
とひとりごちていた。



―― 大分県・別府温泉 ――

世界三大名湯として名高いこの土地では、国内外から沢山の温泉利用客が集まってくる。
一番利用客が多いのはやはり、冬である。
そんな冬には少し早い秋に、この事件は起こった。にもかかわらず、利用客があまり減少しなかったのは
「名湯」という誉れの所為だろうか。
「ねぇねぇ巽。温泉に来たんだから、温泉卵に温泉饅頭・・・食べてもいいよね。」
初めての温泉街での仕事のためか、都筑は相当はしゃいでいる。
「仕事が終わってからです。」
巽は冷たく都筑に言うと、予約を入れておいたホテルへ向かった。
「待ってよ、巽〜〜!!」
都筑はスタスタと先を歩いてしまう巽を追いかけた。
「いらっしゃいませ。」
ホテルのドア・マンがドアを開けた。
「予約を入れておいた巽です。」
巽はベルボーイに荷物を預けながら言った。その優雅な仕草にポカッと口を開けていた都筑は
「お客様?」
というベルボーイの声で我に返った。今更ながら自分の恋人に感嘆していた自分を
恥かしく思いながら都筑は、ベルボーイに荷物を預けた。



「凄い綺麗な部屋だね。」
チェック・インを済ませた2人は部屋に案内された。
「あまりはしゃがないで下さい、都筑さん。今回はあくまで仕事で泊まるのですから。」
「そんなに仕事!って強調しないでよ。」
「期限は5日間です。それが経費として落とせる範囲ですから。」
「5日?短い!!」
「何か文句でもありますか?」
またも都筑に高圧的な笑みをみせる巽。これには絶対に勝てないとわかっている都筑は
「文句ありません。5日間で頑張ります。」
と答えた。巽はその返事に満足して、今度は優しい微笑みを浮かべた。
「麻斗。今晩だけは仕事のことも忘れてゆっくりしましょう。それとも、今晩から頑張って、
最終日に休みますか?」
都筑は巽の言わんとする事を即座に理解した。
「両方がいい!俺、頑張るから。」
都筑はそう言って、軽く瞳を閉じた。巽はそっとその顔に近付き
「欲張りな人だ。」
と言い、都筑の唇に己が唇を寄せた。
巽との久々のキス。優しく入ってくる彼の舌を口腔いっぱいに受け止める。
「ふぁ、、、はぁ、、、、。」
少し湿った音と都筑の吐息だけが部屋を満たす。今までの分も補うように長いキスに
都筑は目眩を起こしそうになった。
「んぅ、、、はぁ。征一郎のバカ。」
ちょっとした憎まれ口をたたく都筑の顔が赤いのは、息苦しさのためだけではないようだ。
「久々のキスにその言葉はないでしょう?」
「やっぱり征一郎はズルイ。俺、露天風呂に行ってくる!!」
「私も一緒に行きましょうか?」
「ダメだ。俺をこれ以上逆上せさせるのは、ベッドの上だけで充分だ。」
「では、そうさせていただきます。」
言葉の強さとは裏腹に都筑は部屋から逃げるように露天風呂へ向かった。



時間は午後4時20分。観光客ならまだ、観光中の時間の為か、脱衣所にも露天風呂にも
人はいなかった。
「気持ちいい!温泉に入ったのはこの前の社員旅行以来だ。やっぱり日本人の心は温泉を求める。」
と、少々わけのわからない言葉を発していた都筑は身の危険を察知できなかった。
彼の勘を狂わせたのは、数分前の巽とのキスの所為か頭がオヤジモードになっていた所為か
定かではない。しかし確実な事がただ一つあった。
都筑は今回の仕事の事件発生場所が「露天風呂」である事をすっかり忘れていたのだ。
「今日はとても美しい人が露天風呂にいらっしゃいますね。」
「何!?」
辺りが一瞬、発光したかと思うと次の瞬間、都筑の良く見知った顔の男と白銀の毛色をした狼がいた。
「邑輝!?どうしてお前がここにいる!!」
「都筑さん、お久しぶりです。やはり十王庁はすぐに動いたようですね。」
「十王庁が動く・・・?まさか、お前が!!」
「わかりきっていた事でしょう?貴方と私の仲なのだから。あっ、今回も貴方を呼び出すための演出です。
しかし、私もドラキュラに飽きたので今回はこいつにやらせました。」
そう言いながら、隣に座っている狼の頭をなでる。この男の本性を知らない人間には善人そうに見える
微笑をたたえ、殺人事件を「演出」と言ってしまう邑輝に都筑は怒りを覚えた。
「いい加減にしろ!俺を呼び出すために無実の人々を殺すのは!!」
邑輝はそんな都筑を一笑に付して告げた。
「都筑さん。ここが何処かわかっておられますか?」
そう言われて都筑は自分が露天風呂にいる事を思い出した。
「ヤバイ!」と思ったが、時、すでに遅し。邑輝は服が濡れるのも構わずに都筑の元に行き、
彼の腹部に一発、拳をいれた。都筑は薄れ行く意識の中でどうにかして巽にこの事を教えようとしたが、
その前に意識が途切れた。
「征一郎・・・。」



部屋でパソコンのセッティングをしていた巽は、都筑に呼ばれた気がした。
「麻斗?」
彼が露天風呂に行くと言ってから20分。「戻ってくるのが遅い!」というにはまだまだ程遠い時間だ。
しかし巽は何か気になる事があって、風呂場へ急いだ。
脱衣所の扉を勢い良く開けて、彼は叫んだ。
「麻斗!?」
しかし脱衣所には都筑の姿はおろか、人は一人もいなかった。ただ、都筑の衣服を除いては・・・。
巽は都筑の衣服を確認すると風呂場の扉をさっきとは打って変わって、静かに開いた。
もしかしたら都筑がゆっくりと休んでいるのでは?と思ったからだ。
だが、巽のそんな予想は的中しなかった。風呂場にも露天風呂にも都筑の姿はなかった。
「麻斗!?何処ですか?」
言葉では言い表す事ができない不安が巽を襲った。
「まさか・・・この殺人事件の犯人に?しかしこの犯人は次々と、人を殺しているだけで、人を攫ってはいない。
では、違うということか?
あっ!あの男ならやりかねない。あの男なら、全ての辻褄が合う。邑輝一貴なら・・・――。」



白熱灯だけが灯る薄暗い部屋にダブルベッドが一つ置かれている。その上で眠る男は逃げられないようにするためか、
手錠をガッチリとかけられている。
決して気持ちの良いものではない、深い深い眠りから都筑は目覚めた。前にも似たような事に出くわしている彼は
瞬時に己の状況を理解した。そのため、叫ぶ事もしなかった。こうしてボーっと待っていれば都筑を攫った
張本人がやってくるのだから。



案の定、彼が目覚めてから5分後に扉が開かれた。
「もう目覚めていましたか。」
「何のつもりだ?」
「お目覚めの第一声がそれですか?」
予想はしていたのだろうが、「本当にそう言われるとは。」と少々驚き、苦笑してみる邑輝。
「どうするつもりだ?また俺に薬でも飲ませて、犯るのか?」
「心外ですね。『犯る』なんて言わないで下さいよ。貴方のことを愛している私が、貴方との愛を育みたいと思ってした事。
その辺の犯罪者とは違いますよ。」
「やってる事は一緒だろう?」
「ふふ。そういえば都筑さん。先程、使い魔を飛ばしていましたね。」
「気付いていたのか。」
邑輝が気付くことを都筑は予想していた。そのため、邑輝が使い魔を捕まえても巽に連絡が行く方法を
彼は考えていた。しかし、邑輝は意外な事を口にした。
「そのまま、巽さんの所まで飛ばしましたけどね。巽さんにも私たちの居場所を教えて差し上げないとね。
長崎で約束しましたし。」
「長崎で!?」
「話はこれくらいにしませんか?私は待つ事が嫌いなので、先にはじめておきましょう。」
そう言うと邑輝はダブルベットの上へ乗ってきた。
「やめろ!!何度言ったらわかるんだ!?俺はお前を愛する事ができないんだ!!」
「黙ってください。」
邑輝は強引に都筑の唇に己がそれを重ねる。都筑はどうにか逃げようと抵抗するが、
強引に舌を入れてこられ、逃げだせない。
「ふぁ、、、はぁ、、、、。」
(いつも思う。この男のキスは気が遠のきそうになる・・・。自我が保てない!!)
都筑がそんなことを考えているとは知っているのか、知らないのか、邑輝は思うように都筑の口腔を侵す。
都筑の快楽を引き出す場所を知り尽くしたかの様な舌の動きに都筑の体は反応し始める。
「やはり、体は正直ですね。」
深いキスから唇を解放して邑輝は、都筑自身の体積が増し始めた事に気付いた。
「うるさい!」
都筑は自分の見境の無い欲望を抑えようと一生懸命になるが、一度あおられた快楽は一向におさまらない。
邑輝はそんな都筑を楽しそうに見ながら、都筑の服を脱がせ始めた。
「何を我慢する必要があるのですか?」
「やめろ、、、離、、、せよぅ、、、。」
邑輝は官能的な仕草で都筑の服を脱がせると、彼の首筋に顔をうずめた。
「ひぁ、、、やぁ、、、。」
唐突に耳を噛まれ、都筑の体に電流が走ったような快楽が襲う。邑輝はその反応に満足して、
都筑の体にキスの雨を降らして行く。
「あぁ、、、やぁ、、、だ、、、。」
都筑自身は直接刺激を与えられているわけでもないのに、その体積を増している。
「口は素直ではないのにね・・・。」
邑輝は都筑自身を軽く握る。そんなちょっとした刺激にも過敏に反応してしまうそれはさらに体積を増し、
先走りの涙までこぼれ始める。
「あらあら、都筑さんはもう限界ですか?それでは困りますね。巽さんが来るまで我慢して頂かないと。
私が彼に怒られます。」
そう言うや否や邑輝は都筑自身の根元をベルトで締め上げた。
「いやぁ、、、はずし、、、てぇ、、、。」
解放される事を許されない欲望が都筑の体を追い詰める。「一瞬でも気を抜けば、自我が吹っ飛んでしまうのではないか?」
という考えが都筑の頭をよぎる。
「早く巽さんが来る事を願いなさい。おっと・・・それでは私との行為に集中できませんね。」
意地悪く笑った邑輝は都筑の先走りの涙を舐め取ると、その口で都筑の口腔を侵した。
苦い味が口一杯に広がり、都筑は必死になって逃れようと試みた。
「ふぁ、、、はぁ、、、。」
一度離れた唇は再び重なってくる。邑輝の攻めは容赦がなかった。
このまま都筑は邑輝の思うままにされるのかと思った刹那、思いっきり扉を叩く音がした。
「おや?とても早いお着きのようですね。」
都筑への攻めの手を一旦、緩めて邑輝は言った。2人とも、この乱暴な来訪者が誰であるかわかっている。
「征、、、一郎、、、。」
そして、ドカっ!バキッ!!という派手な音と共に部屋中が怒りの空気に包まれた。
「邑輝!!あんたという人は!!!」
巽には珍しい事に、冷静さが欠けている。
「巽さん、お久しぶりです。」
こちらはいたって冷静な邑輝。その様子が勘にさわったのか、巽は自らの影を邑輝にぶつけようとした。
が、影は邑輝には直撃しなかった。彼の前に一匹の狼が立ちはだかり、影を喰らい尽くしたのだ。
「何!?」
「よくやったな。」
邑輝は前に座っている狼の頭をなでた。よっぽど邑輝への絶対服従を誓っているようだ。
緊迫した空気が部屋を包む。
「やぁ、、、めろ、、、。」
「麻斗!?」
都筑が耐えかねて叫んだ。巽は己の恋人の側へと急いで走る。そして、都筑の憐れな姿を目の当たりにした。
「麻斗・・・なんて酷い姿だ。」
再び、巽の怒りが燃え上がり始めた。
「邑輝!今度という今度は許さない!!」
またも派手な音と共に先程とは比べ物にならない影が襲った。
白銀の狼は主を守ろうと必死になる。
「ウォ―――――ン・・・。」



辺りが静まった時、部屋には白銀の獣の毛だけが残っていた。邑輝はすんでの所で逃げたようだ。
「また逃げたか・・・。」
巽はその毛をみつめながら呟いた。
「征、、、いちろぅ、、、。」
都筑がとても苦しそうな声をあげた。そう都筑は邑輝に欲望をせき止められたままだったのだ。
自身は解放を今か、今かと待ち続けて震えている。
「麻斗・・・。すみません。」
「そんな事より、はずしてぇ、、、。」
巽は急いで彼の根元を締めていたベルトをはずした。そして少し、都筑の先走りの涙を舐め取ってやると
一気にそれは欲望を吐き出した。巽はそれを全て口腔で受けとめた。
「はぁ、、、はぁ、、、征一、、、郎、、、ごめん、、、。」
荒い息をつきながら、都筑は巽に謝った。自分の軽はずみな行動。巽は怒るに違いないと思ったが・・・。
「貴方が謝る必要はありませんよ。」
巽は薄っすらと涙を浮かべている都筑の頭を軽く叩いた。
「でも、、、でも、、、俺、、、んぅ。」
都筑が何かを話そうとした瞬間、唇をふさがれた。「何も言うな!!」という巽の感情が
流れ込んでくるような甘いキス。
「んぅ、、、うん、、、。」
しばらくは鼻にかかった都筑の声と湿った音だけが響いた。
「麻斗・・・私の方こそ謝らなければいけません。」
「どうして?」
上気した頬を隠すように下を向き、都筑は訊ねた。
「貴方を守る事ができなかった。愛する貴方を・・・。まただ・・・。」
都筑は巽の告白に驚き、顔を上げた。見上げると巽の苦しそうな顔があった。
「征一郎、そんな顔するなよ。お前には似合わない。」
「すみません。いつも危ない目に合わせて・・・。」
「俺だって不注意だったんだ。俺も気をつけないと・・・。」
巽は苦しそうな表情を残しながら、微笑した。都筑とパートナーを組んでいたに時も、召喚課の秘書として働いている時にも
見せた事がない表情・・・。
「俺以外の人間の前でそんな顔するなよ。俺の前ではいくらでもしていいから・・・。」
少々赤面して、都筑は巽に告げた。
「わかっています。」
2人の唇はまた重なった。
別府・・・日本人が愛してやまない、温泉の街・・・―――-。


― あとがき ―
6000HITのリクエストとして執筆させていただきました。如何でした?久美様。
ご意向にそえたものに仕上がっていましたか?今回は☆6つランクにもかかわらず、
最後までやっていない・・・。それもこれも木精の力不足です。旅行の疲れ、癒えてません。
ほぼ毎日、日付が替わってから2〜3時間後に眠っていた結果です。すみません・・・。
さてさて、今回の話の舞台は別府でございます。舞台決めは旅行の最終日に同室の
友人たちとのアンケート(?)の結果です。別府といえば温泉!温泉といえば露天風呂H!?と、
とある友人には叫ばれましたが、無理!でした。というか、今回の旅行でも露天風呂付の
ホテルに泊まりましたが、木精は実は露天風呂が苦手です。というより、夜ならともかく
昼から入っている人間の心境がナゾ!!です。「見られてるよ、お姉さん。」と言いたく
なるような場所で堂々と入っている人は凄いです。後、雪の中で入っている人も・・・。
風呂話に花を咲かせている内にページがヤバ気なので、この辺で失礼します。
おっと、最後に一つ。巽さんが今回は最後に弱っちゃいました。都筑が慰めてます。
これも巽×都筑にあってもいいのではないか?と思ってつけちゃいました。
でも、結局のところ巽は都筑の頬をつねってるほうがいいですけどね。
犬都筑は気に入ってます。
今度はもっとご意向にそえた物を書きたいと思っております。ぜひ、リクエストしてくださいね、久美様。
次回は「Remembrance of Tea」で会いましょう。

 Special Thanks 6000HIT!!
                                          FROM.神崎 木精

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