秘密



  あの人が私から離れていくのが怖くて、隣で聞こえる寝息が
  愛しいと思って、、、、あの人を束縛してしまう。
  良くない事だけど・・・・―――


まぶしい朝日が部屋の中に差し込んできて、その部屋の住人は目を覚ました。
住人の名は「巽 征一郎」。閻魔庁召喚課の課長秘書をしている。
課の中では「鬼秘書」又は「影の支配者」として手腕を振るっている。
でもそれは、彼の真実の姿ではなかった。彼は召喚課の職員の一人「都筑 麻斗」と付き合っていた。
もちろん、その事は2人だけの秘密である、、、
「めずらしい事ですね、この私が寝坊するとは・・・・。」
彼のベッドの枕元に置いてある時計は長針も短針も「12」を指して止まっている。
「さて、こんな所でボーっとしていてもしょうがありませんね。支度しなくては。」
そう言いながら巽はベッドから立ち上がり、キッチンへ向かった。


「巽〜〜!おはよう。」
「都筑さん、おはようございます。」
「ねぇ、巽。まだ、誰も来てないよ?」
そう言う都筑の目は、次に起こる感覚に期待を抱いていた。
「都筑さんは、本当に好きですね。」
そう言って、巽はキュっと目をつむっている都筑に顔を寄せ、その唇に己の唇を重ねた。
「麻斗、、、私にはあまり堪え性というものがないようです。」
「ん、、、えっ?どういう意味?」
「私はこうしてあなたとキスしている時でさえ、あなたを抱きたいと思う。」
「う、、、、うん。それはね、とっても自然な事だと思う。」
「このまま押し倒してしまうかもしれませんよ?」
「ここで、押し倒されるのは困るな、、、、。でも、ベッドの上なら、、、、。」
そう言いながら、都筑の頬には紅がさしていった。
「麻斗。ごめんなさい、変なこと言って。」
「謝るなよ。俺だって・・・思ってた事だし。」
頬の紅を一層濃くしながら、言った。その反応に一瞬、驚いたようだった巽は、
「今夜、私の家に来ますか?」
と優しく微笑みながらたずねた。
「え?いいの?」
「別に構いませんよ。仕事が終わったら、おいでなさい。おいしい料理を作っておきましょう。」
「わ〜〜い。俺、征一郎の料理大好きなんだ。必ず行く!」
「忘れないで下さい、麻斗。さぁ、今日も1日頑張りましょう。」
そう言うのと同時に、召喚課のドアが開き、亘理が入ってきた。
「おー、巽に都筑!おはよーさん。都筑、お前にしてはめずらしいな。」
「え?そうかな。今日はね、目覚ましが鳴る前に起きたの。それで、早く来ちゃった。」
「それでは、私は課長室に行きます。何かあったらそこへ来てください。」
「は〜〜〜い。早く密、来〜〜〜い!!」
「さ〜〜て、俺も研究室(ラボ)に行くか。今日こそ成功させるで、性転換のく・す・り。
なぁ、都筑。お前はいっちゃん最初に飲んでくれよ。」
「お、、、俺は遠慮しとく。」
「なんでや〜〜。めっちゃ知りたいと思わへんか。女性のか・ら・だ。まぁ、できな意味ないし。
ほんならな。」
そう言って、亘理は自分の研究室(ラボ)に向かった。
「性転換の薬、か。俺が女になったら、征一郎はどう思うのだろう?
あ〜〜〜。何考えてんだ、俺。せっかく、早く目覚めたのに。仕事の用意でもしよう。」


―― その日の夜 ――
「は〜〜。おいしかった。やっぱり、征一郎のご飯はおいしい。」
「食後のコーヒーでもいかがですか?それとも紅茶にしますか?」
「じゃあ、紅茶がいい。」
「では、どの茶葉にしますか?今、封を切ってあるのは、ダージリン、セイロン、アッサム、
オレンジ・ぺコー。それから、ハーブティーとしてミントがありますけど。」
「う〜〜ん。何にしようかな、、、、じゃあ、セイロンにする。」
「わかりました。セイロンをいれましょう。」
「なぁ、征一郎って紅茶好き?いっぱい茶葉を持ってるよな。」
「ええ。紅茶はいろんな種類があって、それぞれの茶葉に特徴がありますよ。
セイロンは、とてもポピュラーな茶葉ですが、香りも良いし色も綺麗ですね。
でも、どことなく高貴さを漂わせているので好きです。」
「ふぇ〜〜〜。俺なんて、どれも同じだと思ってた。征一郎の一番好きな茶葉は?」
「そうですね、とても難しい質問ですけど、強いてあげるなら中国茶葉の『花茶(ファー・ツァー)』
が好きですね。このお茶は紅茶とは少し違うのですが、ガラスの急須にいれてお湯をそそぐと、
花びらが開くように茶葉が開くんです。そして、ジャスミンの香りを漂わせる茶葉です。
仕事で疲れた時は、よくいただきます。和菓子にも合いますし。今度いれてさしあげましょう。」
「へー、『ファー・ツァー』か。どんな字を書くの?」
「『花』に茶葉の『茶』です。そのままのネーミングですけどね。あ!時間がきました。」
そう言うと、巽はカップの中にいれたての紅茶をそそいだ。部屋に紅茶の香りが広がる。
「香りの良い紅茶には、砂糖もミルクもいれずにいただくのが良いのですが、、、どうします?麻斗。」
「できれば砂糖をティー・スプーン一杯だけいれて欲しいな。ちょっと甘いほうが・・・・。」
「そうしますよ。紅茶をどう飲むかなんて、個人の自由ですし。私はナシ・・・。どうぞ。」
「・・・・・。おいしい!おかわりをいただこうっと。」
「いいですよ。まだありますし。紅茶にはカフェインが多く含まれていますから、
とっても眠気がとれていいですよ。夜更かしのお供に最適です。」
「夜更かしのお供って、、、、。なんか、恥かしいね。でも、本当においしい。」
「何を恥かしがってるんですか。今朝のあなたにその言葉を聞かせてあげたいですね。」
「あ!別に嫌になったわけでじゃないよ。でも、なんかよく考えると恥かしくなっちゃって。」
「フフ。そんな恥かしさも感じさせないようにしてあげましょう。」
「えっ、、、、えっと、、、、。」
いきなりの巽の発言に都筑は言葉を失い、頬を赤くした。その反応を見つつ巽は立ち上がった。
「食器を片付けましょう。お楽しみはそれからです。」
「お、、、俺、手伝う!」
「大丈夫ですよ、一人で。それより、お風呂に入って疲れをとってきては?沸かしてありますよ。」
「いいの?じゃあ、入ってくる!!」
「つきあたりを右です。ゆっくりしていらっしゃい。」
そう言って巽は優しく微笑み、キッチンの電気をつけた。



「ふー。気持ちがいいな。湯加減もちょうどいいし。それに何かな?とってもいい香りがする。」
そう感心しながら、都筑はバス・ルームを見回した。巽の性格が表れたこのバス・ルームは、
何もかもがキチンと置いてある。バス・ルームだけではない。巽の家のものは全て使い勝手がいいように
置いてあった。
「まさに『主夫』って感じだな。いつも感心してしまう。俺にはない部分だし。
さてと、あがるとするか。あんまり長湯も良くないし。」
ザバーっという音をたてながら、都筑はお湯の中から出た。そして、置いてあったタオルで
体を拭き、服を着て、リビングへ戻った。
「征一郎、有難う。とっても気持ちよかった。浴槽の中に入っていた物は何?
とってもいい香りだったんだけど。」
「ぬくもりましたか?浴槽に入っていたのは、『ラベンダー』です。疲れがとれると思って・・・・。」
「征一郎も入ってきたら?俺、待ってるし。」
「いえ、私は後で入ります。麻斗が湯冷めしては大変ですから。」
「じゃあ・・・・。」
何か言おうとした口を巽の唇でふさがれた。
「う、、、んん、、、。」
「さて、ベッドに向かいましょうか?麻斗。」
頬を火照らせながら、都筑はこくんと頷いた。それを確認すると巽は、都筑を抱き上げた。



「うぅ、、、、あ、、、いい、、、、。」
都筑の甘い吐息が響く。巽は都筑の胸に唇をはわせていた。そして、胸の突起をさぐりあて、
甘噛みする。もう一方は手で弄んでいた。
「ああ、、、、、だめ、、、、達っちゃう、、、かも。」
「いつでも、どうぞ。なんなら、飲みましょうか?」
「の、、、飲むって、、、恥かしいよ、、、、それ、、、に、体に、、、悪いよ、、、きっと。」
「そんな事はありませんよ。麻斗は病気ではないでしょう?」
「病気、、、、じゃない、、、けど。飲むた、、、めの、、、ものじゃ、、、」
「そんな事を言う口はふさいでしまいましょう。余計な事は考えないで、あなたは私に
身をまかせればいいのです。」
そう言うと、巽は都筑の唇を己の唇でふさぎ、その手は都筑自身へふれていた。
すでに、都筑自身は存在をあらわすかのようにたちあがっており、手でふれられただけで、
ひくついた。
「う、、、い、、や、、、。はず、、、かしい。」
いつのまにか、巽の唇は都筑自身のところまでおりており、それを口に含んだ。
都筑自身は少々、舌でなぞられただけで呆気なく果てた。
「う、、、わっ、、、。」
こくん。巽が都筑のものを飲み干した音が寝室に響く。
「ほん、、とに、、、飲んだ、、、のか、、、、?」
少し涙目になりながら、都筑は巽にたずねた。答えなど聞く必要はない。
「Yes」なのだから。
「麻斗の精気はとってもおいしいですね。甘くて、濃密で、、、、。」
「甘、、、いなんて、、、。信じられ、、、ない。」
「さてさて、麻斗。いいですか?」
そう優しくたずねながら、巽は都筑に唇をよせた。
「う、、、んん、、、うん、、、。もう、、、覚悟は、、、できてる、、、。」
「慣れていないでしょうし。ゆっくりしていきましょうね、麻斗。」
「もう、話す、、、な。そんな事言われると、、、決心が、、、鈍る。」
「本当にかわいい人だ。」そう言いつつ巽は都筑の襞の奥にあるものに指を入れてくる。
「あ、、、ああ、、、い、、、や。」
そして、巽は自身を都筑の秘部にいれていく。元来、モノを受け入れるために作られたわけではない
その場所は、突然入ってきたモノを押し出そうと抵抗して、萎縮する。
「うぅ、、、いい、、、あぁぁ!」
いきなり、グイっと巽自身が奥まで侵入した。そして、ゆっくりと巽は腰を動かし始める。
「あぁ、、、い、、たい。動かさ、、、ない、、、で。」
涙目で訴える都筑を見て、巽はその涙を唇で吸った。
「少し、早すぎましたか?でも、私も気持ちいいです。もう少しですから。」
「お、、、俺も、、、気持ち、、、いい。あ、、、いい、、、うぅぅ。」
「私も達きそうです。」
「お、、、俺も、、んん、、。」
「うっ!」
短い声と共に、巽自身は都筑の中で果てた。それと同時に、都筑自身も2度目の絶頂を
むかえていた。
「あ、、、なんか、、、あつ、、い、、。」
「大丈夫ですか?」
「う、、、うん。多分、、、、。」
「今日はもう、ゆっくり寝たほうがいいかもしれませんね。」
「征一郎は、、、ひど、、い。」
「え?そんなに痛かったですか?ごめんなさい。」
「ううん。そういう意味じゃないよ。俺をここまでしといて『寝ろ!』なんて。」
「ああ。大丈夫なんですか?」
「いいよ、俺は大丈夫。それに『恥かしさも忘れるぐらい』にしてくれるんだろう?」
「そうでしたね。覚悟してくださいよ。」
「うん。」
その後、2人は夜明けまで自分達の愛を確かめあった。



朝日が寝室に差し込んでくる。巽は目を覚まして、ベッドの時計を見た。
「あっ、忘れていました。止まっているのでした。腕時計は、、、。」
そう言いつつ巽はベッドから出た。隣で寝ていた都筑は一瞬、目を動かしたが
起きる気配はなかった。
テーブルの上に置いてある腕時計をとり、巽は文字盤を見た。
「うそでしょう?大遅刻ですよ、これは!!」
その時、電話が鳴り響いた。巽は一瞬、出るのを躊躇ったが、受話器をとった。
「おはよーさん、巽。」
陽気な関西弁が聞こえてくる。
「おはようございます、亘理さん。すみません、時計が止まっていて、大遅刻をしてしまいそうです。」
「いや、忙んでええよ。課長がな、休めと言っとるんや。」
「課長が・・・・・?」
「ああ、そや。お前最近、働きづめやろ?だからだって。」
「ほう、ではお言葉に甘えさせていただきましょうか?」
「そうせえ、そうせえ。後な、1つ聞いてもええか?」
「何ですか?仕事の話なら、、、。」
「いや、違う。都筑も来てないんや。家に電話してもおらんし。知らんか?」
当たり前だ。その都筑は今、巽のベッドの上に寝ているのだから。
「いいえ、知りませんね。あの人の事ですし、大酒を飲んで酔いつぶれてるんでしょう。」
「そうかもな。まぁ、ええわ。課長もあきらめとるみたいやし。ほな、また明日な。さいなら〜〜〜。」
そう告げると、巽の返事も聞かずに電話は切れた。
「もしかしたら、バレたかもしれませんね。しょうがないですけど。」
受話器を置いて、巽は寝室に戻った。ベッドの上では未だ、都筑が寝ている。
その都筑の前髪を掻き分けながら、巽はつぶやいた。
「課長が休暇をくれましたよ。今日は一日、一緒にいましょうね。」
そして、都筑のおでこにキスをして、バス・ルームに行った。
「さて、愛する人のために朝食を作りましょう。でもその前に、お風呂が先です。
今朝は何のお茶をいれましょうか?朝食にはやはり『アッサム』ですね。」
誰に言うでもなく、巽は朝食の内容を一人でつぶやいた。
光のあふれる部屋にラベンダーの香りが漂う。2人の秘密はまた、増えたのだった。

                                       「秘密」 終

―― あとがき ――
あ〜〜。やってしまったよ、木精さん。あまり、ふれたくない領域だったけど。
「『裏』といえば、やっぱりこれ??」だと思ってしまいます。(しょうがないです。)
ちょっと、やり過ぎたかも?と後悔しましたが、できた物は仕方ないです。
さてさて、今回の話には「紅茶」の話が少し(?)入っていました。
「男同士で紅茶の話なんかするなよ!」と思われた方も多数いらっしゃると思います。
ただ、木精は「コーヒー」よりは「紅茶」のほうがいいと思い、
ちょっと、「紅茶話」をもってきてやれ〜〜〜!という具合にいれてしまいました。
ちなみに、話の中で出てきている「茶葉」は全て実在します。(わかりますよね。)
木精も結構、紅茶が好きです。後、台湾で中国茶を少々いただいてから、そちらにも
興味をいだきました。どちらも良いものなので、どうかお試しください。
(紅茶はよく、飲みますよね。)
それでは、今度は「貴人X密」でお会いしましょう。(予定です。)

                                      FROM.神崎 木精

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