告白
なぜ今頃、こんな事を思い出したのだろう・・・・
泣き顔を見るのが辛くて、あの人を捨てた―――
そして、この後悔の気持ちは何故だろう?
「都筑さんっ!今日もまた遅刻ですよ。」
「遅れてごめんなさい・・・・巽。」
「ほら、急いで来たから、ご飯粒がついてますよ。」
そう言いながら、巽は都筑の口のはしについたご飯粒を取った。
こんな時の巽の行動は素早い。
「もう大人なんだから少しは私の手を離れて戴かないと・・・・。」
「わっわかってる。でも、どうして巽は俺の事をそんなにかまうんだ?
俺としては・・・・。」
そう言ったきり都筑は黙ってしまった。
「それはですね、あなたがバカだからです。」
「えぇ!いきなりそんな事を言うなよ、巽。自分がバカなのは
わかっているけど・・・・。」
もっと違うまともな答えが返ってくると思っていた都筑は、
巽の一言に少し狼狽した。
「ほう、自覚はあるのですか。ならば、それをなおそうという努力を
しようと思いませんか?」
「はぅ・・・そっそんな事言わなくてもいいだろう。このバカは
生まれつきなんだし、たぶん。そ、それに巽は俺にバカバカ言い過ぎだと思う。」
後半部は言ったら怒られると思っていたので、ほとんど消え入りそうな声で
言っていた。
「なんですって、都筑さん。もう一度言ってみなさい、さぁ。」
「うっ、ひっく、ひっく、・・・巽がいじめるぅ。うえ〜〜ん。」
「ゲゲっ泣いてしまった。」と思った巽はあわてて、
「あー、私が言い過ぎました。都筑さん、泣き止みなさい。ほら、涙をふいて。」
「本当に本当に、もう怒らない?絶対に?」
潤んだ瞳でそう言われて巽は一瞬ドキッとしたが、その気持ちをおさえるように言った。
「もう怒りませんから、安心してください。そうそう、課長が呼んでましたよ。
黒崎君ももう行ってますから、早くしなさい。」
「うん、わかった。がんばってくるね。」
数秒後に見せていた涙が嘘のように消えて、満面の笑みをうかべながら、都筑は
課長室へ行った。
「はー。嘘の涙だとわかっていても、私はあの泣き顔に弱いですね。でも、その後の
笑顔もまた弱い。昔はあんな笑顔なんて一度も見せなかった。彼はいつも自分を責め、
傷つけ、泣いていた。それを見ているのがつらくて、そして私自身が壊れていくのが
わかっていって、彼とのパートナーを解消した。
しかし、今、私の心に残る感情は後悔と愛おしさ。どうしてあの時、彼にそして自分に
立ち向かっていかなかったんだろう?だから私は、彼を守りたいと思う。
嫌な事や悲しい事があったら、なぐさめてあげたいと思う。愛しい人だから。」
そう考えている巽に亘理が声をかけた。
「巽、最近甘くなってないか?」
「ええ、そうですね。私もわかっているのですが、どうも向こうも知恵をつけてきた
ようで・・・。今度からはもっと厳しくしないといけませんね。」
考えていた事を相手に悟られないように巽は言った。
「まあ、ほどほどにな。」
そう言って亘理は研究室(ラボ)に戻った。どうやら、巽の考えには気づいてないようだ。
安心した巽は、自分の仕事を再開させた。
数日後 ―――
「都筑!いったいどういう事だ。お前が調査に乗り出してから、事件がもっと複雑に
なっているぞ。」
「すみません、課長。」
「それからさっき報告が入ったが、一人、女性が亡くなったそうだな?
それも関係があるのか?」
その言葉を聞いた都筑は体をびくっとさせた。
「はい・・・。その女性はこの事件の犯人によって殺されたようです・・・。
その犯人は未だわかりません。」
それだけ言うのはやっとだった。都筑にとって、目の前でこの女性が殺されたのは
相当の衝撃だったのだ。そして、目の前で殺されているのに犯人を捕まえることすら
できなかった自分に怒りを感じていた。
「まあわしもそれ以上の事は言わないでおこう。新たな犠牲者が出る前に片付けてほしい。」
「はい、わかりました。失礼します。」
そう言って、都筑は課長室を出て自分のデスクに戻った。密も仕事を続けていて、
召喚課には都筑以外誰もいなかった。この閑散とした部屋に一人でいるのは、今の都筑にとって
つらかった。誰かがいたら、その人に抱きつつきたい気分だった。
そこへドアが開き、誰かが入ってきた。それに気づいた都筑はすぐにその人に抱きついた。
それは巽だった。巽は突然の都筑の行動に驚いたが、彼のシャツがぬれているのに気づいた。
「俺のせいだ。俺があの女性に事件の事を聞いたから、犯人に殺されたんだ。そして、
目の前にいたのに助けれなかった。」
「都筑さん。課長からいろいろと聞きましたが、あなたのせいではありませんよ。
ほら、泣かないで。自分を責めないで。」
「俺のせいだよぉ・・・・。」
そう言いながら、都筑は泣き続けた。
「また、泣かせてしまったか。もう2度と泣かせまいと京都の事件以来、再度誓った・・・。」
そう考えながら、巽は都筑の頭を優しくなでた。
「巽、ごめんね。いつも甘えてしまって。」
「いえ、私は今でもあなたが好きです。だからあなたが不安な時はいつでもそばに
いてあげます。安心してください。」
「巽・・・?俺の事が好きなの?実は俺も前から好きだった。でも、そんな事を言ったらまた、
怒られると思って言わなかったんだ。へへ。
なんか本人を前にして言うと、恥ずかしいね。」
そう言って都筑は頬を赤らめた。
それを聞いた巽は都筑の顔の涙をぬぐい、彼のおでこにキスをした。都筑は一層、頬を
赤らめたがじっと目をつぶった。
そして2人は唇を重ねあった。だんだんと激しくなる口付けに都筑は声を出した。
「んぅ・・・はぁ・・・。」
長い口付けの後、都筑は大きく息をついた。邑輝からのキスを拒み続けていた都筑だったが、
巽とのキスには快感さえ感じていた。そこに愛情があるからだろう。
「突然してごめんなさいね。びっくりされたでしょう。」
「ううん。驚いてなんかないよ、巽の本心がわかって俺、うれしいんだ。俺は巽に捨てられた時思った。
ああ、まただ。この人の事好きだったのに、嫌われてしまった。
でもね、今の事でわかった。巽は俺の事が好きだったから捨てたんだね。2度と俺の涙を
見たくなかったから。ごめんね。今まで気づかなくて。俺ってやっぱりバカなんだ。」
「えっ!」
その言葉を聞いた巽は驚いた。どうして自分の考えていた事がわかったのだろう。そして巽の心に
暖かい感情が広がった。
「この人は私の心をいつも暖かくしてくれる。どうしてその事に気づかなかったんだろう。」
と、思いながら巽は言った。
「あなたはバカではありませんよ。あなたは私にとって大切な人です。」
そして2人はまた、長い口付けをかわした。お互いの気持ちを確認しあうように・・・・。
「告白」 終
――― あとがき ―――
今回は「巽X都」です。まあ、少しのほほんとした感じを漂わせてみました。
この2人はゆっくりと自分達の愛を育んで欲しいので。(たまに邑輝さんが
邪魔したりして。)
今回、一番気を使ったのは巽さんの愛情表現です。いつも、都筑の前では
「鬼秘書」を演じているので、どういう風に告白させようか迷いました。
でもまあ、こんな形にしてみました。さらっと言わせて都筑に気づかせるのが
似合ってますね。(巽さんに型にはまった告白をさせたくなかった木精の
感情が入っている。かな?)この先の展開を楽しみにしてください。
FROM.神崎 木精