誘惑

密、君に良い言葉を贈ろう。僕の言葉は、必ず現実になる。
雷(いかずち)の命令が絶対であるように・・・・。
『君はキミが望む通りのものを幻想界(ここ)で手に入れるだろう。』

閻魔庁の中にある剣道場。ここに一人の少年が精神統一をしようとしていた。
少年の名は「黒崎 密」。彼は、16の時に死んだ。
ある男の殺人現場を見た結果、その男に犯され、呪詛をかけられたのだ。
それから3年、密はその呪詛に苦しみ続けて、死亡。
彼が「死神」になったのは、自分の死の真相を知り、彼を殺した男への復讐。
死神になってから、何度もその男に会ったが未だに、密の願いは達成されていない。
いつも、その男に傷を負わせているのは、密のパートナーの「都筑」だった。
だから、密はその度に己の力不足を悔やんでいた。
「俺は、いつも都筑の足をひっぱっている。『力』が欲しい!自分の弱さを隠せる、
大切なものを守れる『力』が欲しい!!」
そんな密を見て、近衛課長が声をかけた。
「おはよう、黒崎君。朝から練習とは、感心だ。都筑の奴に君のつめのあかでも
飲ませてやりたいな。」
「都筑はいいんです。あいつには、立派な力があるから。でも・・・俺には
そんな力が・・・ない。」
「黒崎君、『幻想界』に行ってみないかい?『幻想界』に行けば、君に合う『式』を
見つけることができる。どうする?」
「行きます!行かせて下さい!!」
「うむ、都筑を同行させよう。あいつもたまには休ませんとな。」
そう言いながら、近衛課長は剣道場を去った。
その後姿を見送りながら、密は思った。
「力を持つことができる!これで、自分の弱さを悔やまなくてすむ。たとえ、その力が
本当の自分の力でなくてもいい。『式』を得れば少しでも都筑に近付くことができる。
そうなれば、あいつも俺のことを子ども扱いしないだろうし。」

―― その頃、召喚課の秘書室では都筑と巽が話していた。都筑はいつものごとく、
「和菓子そうじ」をしていた。
「ねぇ〜巽ぃ〜。やっぱり、式を持ったほうがいいよねぇ?その方が力も何十倍も
あがるんだし。」
「都筑さん、いいかげんその甘え言葉はやめなさい。それでも、大人ですか?」
「え?やっぱり迷惑だったんだ〜〜〜。もう、巽は俺のことが好きじゃないんだ〜〜〜。」
「はい?いったいどう考えたら、そこまで考えが発展するんですか?」
「うぇ、ひっく、、、、やっぱり嫌いになったんだー!!いつも以上に冷たすぎるもん。」
「あーもう、すぐに泣くんだから・・・。ほら、泣き止みなさい。別にあなたの事が
嫌いになったわけではありませんよ。」
「ほんと・・・・?本当に俺のことが嫌いになったわけじゃないの?じゃあさ、
証明してよ!!」
そう言って、都筑はギュッっと目をつぶった。
「ふ〜、仕方ありませんね。」
と言いながら巽は都筑に自分の顔を近付けた。が、その顔はまんざらでもなさそうだ。
「・・・・んっ・・・・んん。」
どちらともつかない声がもれる。
「もう、さっきまで都筑さんが和菓子を食べていたから、私の口の中まで甘くなりましたよ。
別に嫌いではありませんけどね。」
「へへー。巽と俺は今、同じ味を味わっているんだ。でもさー巽、いいかげん名字で呼ぶの
やめない?何かよそよそしくて嫌だ。」
そう言いながら、都筑はここぞとばかりに巽に甘えていた。巽は都筑の頭を優しくなでながら言った。
「そうですね、考えておきましょう。麻斗さん。」
「うわ〜!ずるいぞ!!絶対に俺から先に言うつもりだったのにぃ〜〜〜!!
征一郎のバカ!!」
「麻斗さんはいつまでも、子供っぽい考え方しかできませんね。かわいいですけど。」
「子供で悪かったな〜〜!それから、『さん』を付けるな!『麻斗』がいい。」
「はいはい、麻斗。わかってますよ。」
そう言われて、都筑は頬を紅潮させた。
「征一郎はずるい。いつでも、俺ばっかりが気持ちを動かされてる。一度でいいから、
征一郎の動揺する姿が見たい!」
「いつか見せるときがきますよ、麻斗。」
そう言いながら、巽は都筑のおでこにキスをした。そして、都筑の頬の紅潮は一層、紅を増していった。
その時、、、、、。
 「トントン!」
秘書室のドアをたたく音がした。
「失礼します。都筑はいますか?」
そう言いながら、密が入ってきた。
「ええ、いますよ。都筑さん、黒崎君が迎えにきましたよ。さあ、行ってらっしゃい。」
密が入ってきたのと同時に、巽はいつもの「鬼秘書」の顔に戻っていた。ただ、都筑の頬の熱は
まだ冷めていなかった。
「密?どうしたの??課長からお仕事をあずかったの?」
と、言いながら都筑は自分の頬を隠しつつ密のところまで走っていき、秘書室を出た。
出際に、巽にWinkをしながら。


「え〜〜!?なぁ〜〜んだ。密もそう思っていたのか。別にいいよ、喜んでついていくよ。」
「こら、都筑!そんな大きな声で言うなよ。恥ずかしいじゃないか。」
「何言ってるんだよ。全然、恥ずかしい事じゃないよ。みんなそう思うんだから。それに『式』を
持てば、術者の『基本能力値』が底上げされるし、その式の『特殊能力』も身につくんだよ。
だから、みんなは持ちたいとは一度は思うんだ。」
「まぁ、いいけどな。ほら、早く行くぞ。」
「そうだね。密の心が変わんないうちに行かないとね。若葉ちゃ〜〜〜ん、いるぅ〜?」
「え!どうして閂さんを呼ぶんだよ。」
「どうしてって、若葉ちゃんが『鍵(キーパー)』だからだよ。」
「キーパぁー?何だそれ??」
「人間がね、『幻想界』へ行くためには、4つの門のうちの1つを通らなきゃいけないんだ。
4つの門というのは、『玄武』『蒼龍』『朱雀』『白虎』という名前がつけられててね。
そのうちの1つ『朱雀門』を守っているのが若葉ちゃんなんだ。後、3つの門が残っているけど、
それぞれに『鍵(キーパー)』がいるんだよ。」
「へー、そうなんだ。何にせよ、閂さんお願いします。」
「うん、わかってるよ。ちょっと待っててね。門番の2人を呼び出すから。」
そう言いながら、若葉はノートパソコンのキーを打ち始めた。
「はい、完了!『Enter』っと。」
そう言って、若葉が打った瞬間、画面が発光して、何かが召喚課の天井から降り立った。
「お久しぶりです、巫女殿。『朱雀門』をお通りですか?」
「お久しぶり、狐太郎ちゃん虎次郎ちゃん。今日、門を通るのは都筑ちゃんと密ちゃんだよ。
密ちゃんが『式探し』に行くの。都筑ちゃんはお供だよ。」
「ほう、そこの童(わらし)が式探しに。都筑殿がお供なら、安心だ。よいかな?虎次郎。」
「よいとも、狐太郎。」
そう言って2人は、大きな門を開いた。
「さあ、行かれるがよい。人間の作り出した電脳世界『幻想界』へ。」


 2人の体が一瞬、浮いたと思ったら、いつのまにか中華風の建物の中に立っていた。
「さあ、目を開いて密。ようこそ、幻想界へ。」
密は都筑の言葉を合図に目を開いた。彼の前に広がっている世界は、何もかもが中華風だった。
建物の装飾には「龍」や「虎」などが施され、建物全体も『紫禁城』を思わせる。
「すごい!こんな巨大都市が電脳世界に存在するなんて・・・信じられない。」
「さあおいで。十二神将(みんな)に紹介するから。」
「皆?いったい、誰のことだ?」
「十二神将の事だよ。俺の大事な友達。」
「十二神将はここに住んでいるのか?」
「うん、そうだよ。この『天空宮』に住んでいるのさ。ちなみにこの『天空宮』も十二神将の
一人だけどね。」
「建物が??すごい世界だな。」
「う〜〜ん、それだけで驚いちゃだめだよ。」
「それより都筑、さっきから同じ所ばかりを歩いている気がするのは、俺だけか?」
「え、えと・・・。道に迷った、、、、かも。」
「なんだとー!!もういい、お前をあてにした俺が間違っていた。別行動だ!!」
そう言って、密は空を飛んでいった。
「ひ、密!空を飛んでも・・・・。行っちゃったよぅ。あ〜〜誰か迎えにきてよ。」
そう言いながら都筑は、長い廊下を歩きだした。


 その頃、空へ飛んだ密は・・・・、
「いったいどうなってるんだ!さっき、空を飛んだと思っていたら、いつのまにか地面に立っている。」
そこへ、かわいいまりが転がってきた。それを拾い上げる密に声がかかった。
「小父様の『ループ』がはたらいているからだよ。初めまして、人間の少年。僕の名前は貴人。
そして、こっちが妹の、、、、。」
そう話す少年の後ろから、小さな少女が現れ、
「天后。」
と言った。どうも、彼女は恥かしがりやのようだ。密は少女にまりを渡しながら、
「俺は黒崎 密。どうも道に迷ってしまったみたいなんだ。『白い虎』か『朱い鳥』に会いたいんだけど
どう行けばいいのかな?」
「あー。あなたが都筑さんの新しいパートナーですか。己を信じて、真っ直ぐ歩けば観星亭に
つけるはずです。そこに案内板があるので、位置を確認できるよ。密、がんばってね。」
「え?」
驚いている密をよそに、貴人たちは歩き去った。
「今の言葉はいったい何だったんだろう?」
不思議に思いつつ、密は真っ直ぐに進んだ。すると、緑に囲まれた観星亭についた。
そこには、一人の男が立っていた。
「人の子よ、何しに来た?風花など連れて来おって・・・・。風花は不吉の証。お前を抹殺する!」
男の言葉の意味を理解しきれていない密に、その男は剣を振りかざした。
「うそだ!誰か、、、、都筑ぃ!助けて!!!」
と声にならない声で言う密に、容赦なく男は剣を振り下ろしてきた・・・・。
が、しかし密の頭上にその剣は下りて来なかった。
「ふ〜。彼には本当に困りましたね。何も考えずに剣を振り回す。大丈夫ですか?
私が彼の周りの時間を止めているので安心してください。」
「あ・・・・ありがとうございます。あなたは?」
「申し遅れましたね。私は占星術師の六合です。あなたは?」
「黒崎 密で・・・す・・・・。」
そう言いかけて、密は気を失った。
「坊や?」
驚いた六合は、密を受けとめた。そこへ、、、、。
「父さん?何があったの??」
という声と共に貴人が走ってきた。
「貴人、ごめんなさいね。この坊やを助けるために、お父さんの周りの時間を止めました。」
「あ!密!!大丈夫ではないようだね?」
「先ほど、気を失われてしまったんだ。」
「六合さん、密の介抱は僕がするので父さんをお願いしてもいいかな?」
「わかりました。」
そう言って、貴人が六合から密を受け取り、自室へ運んでいった。


―― 数時間後 ――
「んっ・・・。ここはいったい?」
「あ!密。気分はどうだい?」
「貴人?ここは君の部屋??どうなっているのだ?確か、、、、俺は、男に斬られそうに、、、。」
「六合さんが助けてくれてね。僕が介抱を受けたんだよ。本当に大丈夫?」
「ありがとう、貴人。気を失うなんて――――。」
「いいや、あの状況は仕方がないよ。ごめんね、僕の父さんは短気なんだ。それよりも密、
僕の願いを1つ聞いてくれる?」
「ああ、いいぜ。何でも聞くよ。介抱してもらったんだし。」
「何でも?」
そう言いながら貴人は微笑み、密に顔を近付けた。
「君が欲しい。好きだよ、密。」
その瞬間、貴人は密の唇を奪った。
一瞬、何がおこったのかわからなかった密は、次の瞬間、貴人の胸をつきとばした。
「な、、、、何をするんだ!俺を欲しいだなんて、、、。」
「そう、最初に出会った時から好きだよ。」
「俺たちは、さっき出会ったばかり、、、」
そう言う密をだまらせるように、貴人は言った。
「恋愛に時間はないよ。その人を思う、情の深さが大事なんだ。僕は密を誰よりも深く愛している。
そして密、君も必ず僕だけを見るようになるよ。」
「なっ何を言う!」
「ふ〜、そんな素直じゃない口はふさいでしまうに限る。」
貴人は未だ動揺を隠し切れないでいる密にまた、唇をあわせた。さっきの物とは違って、
密の口腔に舌をいれていた。密はなす術をなくして、ただ、されるがままだった。
自分の口腔を動き回る舌に己の舌を絡みとられ、今まで感じた事の無い感覚に襲われた。
「んっ、、、、んん、、、、。」
いつのまにか密は自分でおさえていたはずの甘い声をあげていた。
「この感覚、前にも似たようなものがあった。あれは、、、、4年前の桜の散る月夜の時の事だ。
あいつに犯された時の感覚。でも、何かが違う!もしかして、本当に俺は・・・・。」
心の中で、こう考えていた密だったがこれ以上、思考は働かなかった。己を襲う快感に、
その思考力を奪われていたのだ。
「んん、、、、、んぅ、、、。」
やっと、離された唇で密は大きく息をついた。もう少し長くされていたら、密は呼吸困難に
なっていただろうなと思いつつ、己の呼吸を整えていた。まだ、頭の中は混乱している。
「密はキスしたことがなかった?だから、うまく息をつけていなかったんだね。」
そう言って、何の悪びれもみせずに貴人は微笑んでいた。その顔に怒りを覚えた密は、
「もう・・・これ以上、俺の前に現れるな!」
そう言い捨て、貴人の部屋を出た。
「ちょっと、やり過ぎたかな?でも、君を思う気持ちは確かにあるんだよ、密。何なら、僕が
君の式になってあげたいぐらいだ。でもね、僕は君のパートナーの式だからね。無理かな。
だけど、君の式探しのお手伝いをするよ。そうすれば、君と一緒にいられるから。」
そう言って貴人は薄く笑った。
前途多難な密の式探しの始まりである。
 
                                                   「誘惑」 終

―― あとがき ――
 あう〜〜〜貴人君がかなりナンパな人になってしまいました。最初は、もうちょっと奥手の
予定だったのですが、密がもっと奥手だということに気付き、貴人君には悪いですがナンパな人に
なっていただきました。最初では、貴人と密だけを絡ませる予定だったのに結局、都筑と巽も
絡んでいるし、、、、。当初の予定と全然違うものになってしまいました。いや〜〜まだまだ、
木精は未熟ですね。日々、精進せねばと思う、今日この頃です。
そろそろ、それぞれのカップリングにもう1ランク上にいってもらわないといけませんね。

                                         FROM.神崎 木精

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