スノードーム    カワグチタケシ
 
 
 
このごろは誰も彼もが
この不完全な世界に嫌気がさして
あるいはまだかいだことのない素敵な匂いや
見たことのない景色
ダーウィン・フィンチ
新しいリズム 韻律をさがして
親しい友にさえいつ帰るとも知らせずに
旅に出る
 
ソルトレイクシティからアムステルダムから
届いたカードを眺めながら
スノードームに雪を降らす
 
もしも君がどこか遠い土地で
何日も続くリンゴとチーズとパンの食事で
自分をすり減らし目的を見失い道に迷ったとしたら
うらぶれた土産物屋に急げ
そこにはきっと見捨てられたスノードームがあるはず
それが君の旅の目的になる
 
俺はここにいる
君の夢を見たよ
変わり映えのない世界に
無軌道な魂を抱えたまま
いくつかのスノードームをたずさえて帰る
君を待っている
 
(土曜日の午後六時 東京は雨 気温二十℃)
 
 

 
 
 

 
夕陽    カワグチタケシ
 
 
 
双眼鏡があるのなら夕暮れの空を
レンズをのぞいてごらん
土星の環だって見えるよ
すっかり殺戮のすんだ廃墟のむこうに
 
海のように大きな川が流れていて
沈んだばかりの夕陽が
水平線を美しく染めている
フェリーの舵をとる人がいて
 
家路につく人がいて、対岸には
もう帰らない人を待つ人がいる
別の橋を焼き落とすこと
 
が信じるということ
だとしたら、僕たちは
とてもかわいそうだ







 
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