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青いリス 長沢哲夫 雪の孤独なキャベツが 風をまきつけている 青いリスが走りとぶ 木の葉と木の実の 長い平行線の大地を 青いリスの顔に 過ぎ去った夜が走りこむ 笹の目 ほのかな笹の目 青いリスが立ち並ぶ 走る夜 走る ひなびた土手の タンポポの一万年を くり返し走る すりきれた指のまわりに 月の斧が走る いままた血の続きが 時計草の腹の中を走る ねこやなぎのハシゴ段を のぼり続ける雨 青いリスが 走る尾根を 走る 走る貝 走る 走る木 爪がわれ 星がまたたく こわれた眼のふちに 点と雪 黒い見えがくれの寝台に いつもの青いリスの影が 尾は尾で 耳は耳の 雪に焼きついた栗の実を ころがしている ルリ色の風が わたっていく 星をめがけ いちだんと増えていく 青いリス 雪の根の 荒れた川べりに 葦と砂をふみながら 見つづける手と 見つづける牛の眼をくぐり からすのかれた骨の中を くぐりぬけ 雪がなおも胸のおくに そり上がってくる 白い舌 白い無人の手 青いリスの眼の中に 月がうまれてくる 尾の長い 海の点の
月
固い雨 長沢哲夫 ああ もう行ってしまえ ギザギザの固い雨たち ビランビランと走りすぎるままに ちょうど今 ユリの花が眼をあけた ブルンブルンと 固い雨が降っている ユリの眼が見つめている 蛇たちからゆずり受けた空ではなく すり返られた金属の空たちを ふり注ぐ鉄の雨 壁の中の太陽はひねもす眠りつづけ バラバラにこわれて 朝にとびおりる こげ茶色の川のうめき せまい夜をかわるがわる豚とロバが走りぬけていく ギザギザの固い雨が降りつづく バスの降り口には山羊たちがひしめいている 流れてくるのはビロビロにのびたコンクリートの朝だ 見えがくれする山肌には 声のでないフクロウたちがぶらさがっている ああ何と 行くことも行かないことも間違いつづけ ギザギザの固い雨の中に鳴りひびいているのは とむらいの鐘の音ばかり ああ もう行ってしまえ
ギザギザの固い雨たち
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