レナードの朝 


ビデオ屋に行って、どっかでタイトルは聞き覚えがあると
思って何となく借りてきたテープだったが恐れ入った。
あれは一種の脳性麻痺患者なのだろうか。
そうした患者と医師の物語である。

30年もこの病気を患い植物状態に近い主人公。
担当する医師の熱意であるとき効果的な治療薬を
見つけ患者に投与すると見違えるように病状が快復する。
ここまで話が進んでさてこの映画はどうなるのかと固唾を
のんでいると話は全く意外な方向に展開する。
このあたりからの話のもって行き方がうまい。

実にいろんな問題を提起している。
患っていた30年間の空白の後、意識と体が正常な生活に
戻る。空白の期間があったことで、正常に戻ったことが
患者にとってはたして幸せなのか。

健康を取り戻し独り立ちしようとする主人公とそれによって
いままで必死に面倒を見てきた母との間に何となく距離感
が出てくる母と子の関係。

医師と患者との関係。患者のことを思い、病状を何とか
改善させたいと苦労する医師なのだが、患者の病状が
回復することで患者に対しそこはかとなく上下関係を
見せ始める。

そして主人公は薬の効果が薄れまた元の病状に戻って
行く。
患者に対する愛情と見えていたものが実は自分の独り
よがり。
患者を愛すること、患者に尽くすことで実は
自己満足を得ていたということをさりげなく知らされる。

このあたりの作り方は秀逸だ。

障害者に対する優しさの中に潜むある種の自己満足や
占有欲。これは特殊なものではなくかなり普遍性のある
ものではないかという気がする。特に母が障害を持つ子に
注ぐ愛情というものの中には。

主人公を演ずるロバート・デ・ニーロの演技が凄いの
一言につきる。

この映画で一番印象的だったのは実はラストシーン。
看護婦の愛を感じていながらそれを真正面から受け止め
られない。その心にかけられた鎖をふりほどくぎこちない
仕草が何とも言えない。



蛇足だが、インターネットでこの映画の評を見ていると
まあ、いろんな見方があるものだと思わせられる。
見る人の年齢でどこを見ているかがかなり違っているようだ。

(2002.9.28)