地獄の黙示録(完全版)
ベトナム戦争を舞台にした映画だが、力ずくで戦争の
無意味さを訴えた映画といえる。
以前公開された時は見ていないので、完全版でどこが
どう変わったのかは認識できていない。戦闘場面だけが
宣伝されていたのでこれほど内省的な映画だとは思って
もみなかった。字幕を書いている戸田奈津子さんが
しきりに宣伝していたのでどんな映画かと見に行ったと
いうのが本当のところ。
この映画を見てかつてのことを考えさせられた。
アメリカはこの戦いは共産主義との戦いと位置づけた。
しかしこの映画にあるとおり、戦う将兵にとっては戦う
意義を見いだせない戦いであったのだ。
アメリカから遠いアジアの一角が中国共産党の支配に
落ちてもアメリカにとって身の危険をすぐに感じるもの
ではなかったこと。アジアの小国相手にアメリカの戦力を
もってすればあっという間にけりが付くはずだったのが
思惑がはずれ、どんどん泥沼化していく。いつ果てるとも
知れぬ戦い。 虚無感とドラッグをもたらしただけの戦い
だった。そしてアメリカ 国内の荒廃と。
映画の中半にフランス人の一団が出てくる。そこで
アメリカにとってベトナム戦争の意味を問わせているが
あの部分にコッポラの言いたいことが凝縮していたの
ではないか。
アメリカはこの戦いに敗れた。そして恐らく数百万の
ベトナム人を殺害し、ベトナムの国土を荒廃させた。
これまで戦いの敗者はその責任を問われてきた。
アメリカも問われはしたが何ら明確な責任はとら
なかった。アメリカという強大国なれば問われないのか
という疑問。
この敗戦から以降アメリカに内向的な時代があった。
しかし、東西の壁が崩壊してのち、再びかつてのアメ
リカが復活してきている。正義を振りかざすアメリカが。
ベトナムでの教訓からイラクでもアフガニスタンでも
地上戦を避けている。ミサイルと航空機による攻撃に
主体をおいている。相手の顔を見ない戦争。
悲惨さを見ようとしない戦争を仕掛けている。
それでも、この映画とか、「13デイズ」で政治の
舞台裏を描いてみせるアメリカというのは、まだまだ
根っこのところは正常に機能しているという思いはある。
このような戦争の狂気を正面から描く映画は貴重だ。
かつて日本にも「人間の条件」という優れた映画が
あった。もはやあのような映画は日本では作れない
のだろうか。
|