ラスト・サムライ
これは和食を注文したつもりが和洋折衷の料理を出されたようなものだ。
一時期のアメリカ映画のようなとんでもない表現は少ないが、それでも
基本的には「フジヤマ、ゲイシャ、ハラキリ」という観念的な世界から
抜け切れていない。映画評論でそこそこ良かったので期待したが期待
はずれ。
まず日本に関する説明が多すぎる。アメリカ人を対象にして作ってあるの
だから仕方がないのだろうが、イントロ部分は日本人にとっては邪魔な
ところが多い。
外国人から見てサムライ精神とか武士道とはこういうものだという風な
見方をすればそれでいいのかも知れないが、どこか座りの悪い武士道
精神なるものを見せられ、最後は腹をかっ切るというのではどうにもいた
だけない。
トム・クルーズは不死身で死に目に何度か遭いながら死なない。
何で殺されないのか。不思議な思いで見ていた。
初めの方で、トム・クルーズが農民をかき集めた官軍の兵士を教育する
シーンがある。標的に向かって鉄砲を撃っているが本当に人を撃てるか
と言ってトム・クルーズ自身が標的になってみせる。兵士はトム・クルーズの
気迫と本当に人を殺したことがない恐怖で撃てない。このシーンは実に
象徴的な気がした。
今イラクに自衛隊を派遣する準備が煮詰まっている。彼等はテロリストに
向かって発砲しなければならないかもしれない。しかし戦争を知らない
自衛隊にそれが出来るだろうか。 平気で発砲できる自衛隊も怖いが
自衛のために発砲できない自衛隊は悲劇だ。
最後に官軍と渡辺謙率いるサムライ集団が決戦するのだが、これがまるで
アメフトの競技場のようなところで対峙する様には笑ってしまいそうになった。
多勢に無勢だし大砲と刀では勝負は見えているのだからもう少し奇策を
弄して相手を悩ませる筋立てにしないと面白くない。
それから官軍の兵隊がいかにも学生アルバイトという華奢な面立ちは頂け
ない。もっと太々しい面構えのエキストラを集めないと迫力がまるで出ない。
話の設定が明治初期というのがどうもいまいち。
戦国時代に外国の戦争コンサルタントが小さい藩に入って武士を指揮し
信長や秀吉を悩ませる話にした方が面白そう。
(2003.12.11)
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