阿弥陀堂だより 

最初は映画のスローテンポさについていけない感じがしていたのだが、
次第になんかこう大きなものにふわっとくるまれているような気がしてきた。
ふわっとしたものの正体はよく分からないけれど、日本人が求めている

原風景とでも言うべきものがこの映画にはある。
その原風景とは、自然と人−人と人との深いつながり。

心の病を得た女医さんがダンナの古里である信州(長野県ではなくこう
いう時はやっぱり信州という言い方が似合う)に来て療養かたがた山村の
医師として働いていくうちに地元の人との触れ合いや医療活動を通じて
自信を回復し立ち直っていくという話だ。
役者がなかなかいい。女医の樋口可南子、ダンナの寺尾聡、それから

田村高広などなどだがなんといっても凄いのは北林谷栄のおばあさん。
おばあさん役といえばこの人と言われるくらいのものだが、今回はともかく
これがおばあさんの全てといえるくらいの演技だ。若いときから何故かおばあ
さん役をしていたが、若いときはおばあさんを作っていた気がした。久しぶりに
見たら実際の彼女もおばあさんの年だけれどまさに地でいっているという感じ。
彼女の演技だけでも一見の価値ありだ。
(この人はもう亡くなっていたと思っていたらどっこいまだ生きていた。失礼!)

画面を見ていると小津映画をほうふつとさせる。画面が全くパンしないわけ
ではないがゆっくりとした動きである。セリフも多くない。だんだん年をとってくると
セリフの多い映画はついていくのがやっとということもあり疲れる。この位の
セリフの量が丁度いい。
時間がゆっくり過ぎているというより止まっているようにすら思える映画だ。
寺尾聡が一軒一軒訪ねておばあさんと会話するシーンがあるがそこに明らか
に地元のおばあさんとおぼしき人が出てくる。まるでドキュメンタリー映画を
見ているようなシーンだった。この人達の飾らない言葉が良かった。

季節ごとに移り変わる風景とその中に小さく写る人影にいたく感動した。
なぜだかよく分からなかったけれど。
あくせくと先だけしか見ない今の日本に、いかに山村とはいえここに描くような
場所があるとは思えない。止まっているかと思われるような時の流れと、暖かい
心と毅然とした心を持った好ましい人たち。そんな場所があるとは思えないから
人はそうしたものを求めるのだろうか。

人の死を通して生きるとは何かを考えさせてくれる。
「姿」が大事だと田村高広の先生は言う。ビデオを見ながら思わず姿勢を正した。
確かに日本人は「姿」を失ったまま、ただいたずらに生きていると言えるかも知れない。


(2004.1.23)