Stevenson College Edinburgh インタビュー レポート
−ホスピタル・プレイスペシャリスト養成コースについて−
2004年3月23日(月)、Stevenson College Edinburgh を訪問し、Hospital Play Specialist養成コースについて情報を得た。
<はじめに>
Stevenson College Edinburgh(以下SCE)には、スコットランド唯一のHospital Play Specialist(以下HSP)養成コースが開設されている。
今回は、Child Education & Social Care 部門の責任者であるMiora Frizzell氏とHPS養成コース担当者である
Frances Barbour氏にお話を伺った。
<養成コースで重要視している点>
当コースで大切していることは、患者だけでなく、その家族も含めて、いかにリラックスさせるかという視点である。
病気の子どもばかりでなく、家族の抱えるストレスは大きい。家族もまたTherapeutic play(治療的な遊び)の対象にしている。子どもが安心して過ごしている姿を見て、家族もリラックスできる。
小児がん等重い病気の子どもたちに対してだけでなく、採血や点滴のための挿管などの簡単な処置のときに、どうやってdistraction(ディストラクション:気を散らす活動)をしていくかが大切である。ある一定のテクニックにこだわるのではなく、全体的なことを考えて「今、何をしてあげたらいいか」を見分ける力をつけられるよう養成教育をしている。
<ASCとの連携>
Action for Sick Children(以下ASC)とは相互関係をもっている。AFSCは実務的なことを受け持っている。たとえばAFSCはプレイボックス等のツールを開発している。それをどう使うかについて、ここで教えている。AFSCは、主に子どもの権利に関して仕事をしている。入院している子どもたちが親と自由に面会したり教育を受けたりする権利があること等を訴え、子どもの権利を守る働きをしている。
こちらでは、病気の子どもをどのように扱ったら、通常の子どものように権利を守ってあげられるかという観点でHSPの養成をしている。
<コースの内容>
現在は、以下の5つのモジュール
・ Human Growth and Development through Play
・ Hospital Play
・ Practice in Hospital and the Community
・ Organisation and Management
・ Project
から成り立っているが、来年からは
・ Specific Needs(障害児のための遊びを通じたサポート)
が増えて6つになる。
コースは1年間で、週1日通学することになっている。ただし、学生はそれ以外の日には、それぞれの職場で実地に病気の子どもに関わる仕事をしているという前提である。その環境にない学生の場合、200時間、病院あるいは地域社会でHSPの資格を有する人のもとで、ボランティアをしながらトレーニングを受けることになる。
コースのレベルはSVQs (Scottish Vocational Qualifications)といって、国が保証しているスコットランドの実務資格試験を通す。現行では、Edexcel(イングランドとウェールズ資格試験審査委員会)が審査をしている。レベルは、「8」で、大学の学部1年生程度と規定されている。
来年からはコース自体のレベルがアップグレードされることになっている。現在の単位はMerit(日本でいう高専の単位に相当)だが、Creditという大学の単位として認められるようになる。その結果、学生が望めば、ここで取得した単位を流用して、さらに上の教育を受けることが可能になる。
HSP養成コースにくる学生の大半は、保育士の資格をもっている。現在、英国では保育士の教育方法が変わってきている。大学で2年以上のコースを受けて、国が発行する証書HNC(Higher National Certificate)を取得する。現在は、Nursery nurse の教育という呼び方をやめて、Child Care and Education という呼び方をしている。そのコースには様々なモジュールがある。たとえば、以下のような内容である。
・ 年少の子どもたちのためのカリキュラムの立て方
・ どのように教育のニーズを見つけていくか。
・ 現在イギリスで一番問題となっているChild Protection について:どのように子どもの権利や人格を守ってあげるか。
・ 子どもを観察することによって、発達と年齢をどのように評価するかというアセスメント
・ 家庭内における子どもの立場はどうなっているかという情報の研究
すでに、そのような教育を受けている学生が、こちらのコースに入学してくるので、その能力を使って、HSPとしてどのように活動を展開していけばよいのかを教えている。
中にはNHCのChild Careのバックグラウンドを持っていない学生もいるが、その場合はたいてい看護師か学校の教師の資格を持っている。そういう学生には、もともとの職種の経験や能力を生かして、HSPとしてはどのようにしたらよいかを考慮して教育している。
モジュールの1つに、「調査・研究の仕方」というものがある。病院や長期入院という特殊な環境におかれた子どもたちが、どのようなインパクトを与えられるかということを調査する方法や技術を学ぶ。特に、小児がん等長期に入院している子どもたちが、病院という環境の中で受ける経験がどういう影響を及ぼすのかを調査することは大切である。HSPはそれを分析して、ニーズに合った処置をしなければならない。
長期にわたる入院は子どもに与える影響が非常に大きいので、どうしたらQOL(生活の質)を向上させることができるのか、また、それをどのように評価するかをコースで教えている。ある学生は、「思春期の白血病患者をどのように扱うか」というレポートをまとめた。
特にターミナル期の子どもの場合、QOLの向上に配慮する必要がある。
*コースの詳しい内容については、NPHC第21回研究会資料 西澤恭子氏による
講演3「HSP養成コース」に掲載。
<プリパレーション・ツールの開発>
長期入院の小児がん患者でMRI検査、特にそのノイズを恐れている子どもがいた。そこで、以下の対策を取った。
・ そりにテントをつけて、MRIに似せたセットを制作
・ MRLのノイズを模倣した音で曲を作って演奏
・ 上記のセットや音で、検査と似た環境を作り出し、「ごっこ遊び」の中でなじませた。
コース受講中に学生によって、小さな処置のディストラクション等、ホスピタルプレイのテクニックが開発されていく。かつて、「針恐怖症」のために全身麻酔をしないと採血ができないケースがあった。そういう子どもたちが全身麻酔をしなくても採血ができるようになるディストラクションが開発された。
<チームの一員として>
HSPは病院の中で子どもを扱うチームの一員である。これは非常に大切なことであり、心得ておく必要がある。ここでの教育は、チームの一員として働くことに重点をおいている。PT(理学療法士)やOT(作業療法士)等と同等でプロフェッショナルな資格をもった人間であり、自信をもって働くべきである。その自信をつけるのが、このコースの1つの目的でもある。
ここに来る学生は、病院の中で一段下に見られるような職種であることが多い。そういう人たちが、このコースで学ぶことによって、自信をつけ、他の職種と同等の「プロなんだ」という自覚をもてるようにする。