The Birmingham Children’s Hospital
精神科病棟 視察レポート



2003年8月18日(月)The Birmingham Children’s Hospitalの精神科病棟を訪問し、精神科専門ナースからお話を伺った。



<はじめに>

 病棟の中の chill out room(落ち着く部屋)と呼ばれる場所で、精神科専門ナース のMarie Clearyさんのお話を伺った。この部屋は、子どもたちとナースが、プライベートに話をする時などに使用されている。

Marie:
 バーミンガムには子どものための精神病棟が4つあるが、Children’s Hospitalの精神科には、症状の重い子どもたちが入院している。(軽症の患者はノースフィールド病院等に入院する。)

入院は10床、デイサービスの定員は5人である。
4,5歳〜16歳の子どもが入院している。
これまでの最年少は3歳だった。
年少の精神的な障害のある子どもたちには、就学する過程から関わる。

小児科の専門医がreferral(紹介状)を書き、入院の申請をする。この病院の医師が書く場合と、他の病院の医師が書く場合がある。地元のコミュニティーで子どもたちを扱う精神科医が、referralを書くこともある。ウェイティング・リストがあり、紹介されてすぐ入院できるわけではない。


<入院している子どもたち>


入院してくる子どもたちには、精神的、感情的な問題がある。そこから不登校となり、さらに深刻な問題へと発展し、かなり重症となった時点で入院してくる。単なる不登校やひきこもりは、外来で診療している。ただし、不登校から対人障害が非常に重くなってしまった場合等には、入院となる。

子どもたちが持っている問題は様々である。神経症、うつ、自傷、自殺願望、拒食、身体的に障害がありさらに精神的に問題が生じてしまったケース、幻覚、ADHD、多動、行動傷害、注意散漫、攻撃的など。
ティーンエイジャーの患者は、自分の抱える問題について、自ら話をすることができるので、様々な治療のアレンジができる。


<病棟スタッフ>


チームは心理コンサルタント、専門医師、とナース。ナースは16名おり、24時間体制で看護に当たっている。いずれも精神科専門ナース、あるいは小児科専門ナースの資格を持っている。精神科医の診療を受けている子どもたちが、実際にどのような状態なのかを観察するのが、ナースの仕事である。


<治療的な環境>

ここでは、「何時になったら何をする」というルーティーンがとても大切である。私たちは、入院している青少年に、治療に適切な環境を提供している。
スタッフが子どもたちと社会的にどのように関わるかが大切である。物理的に安全であって、子どもたち自身もそれを感じ取っていなければならない。精神的にかなりのストレスをもっている場合、子どもたちは安全だと感じることはできない。
子どもたちが「自分は何をすることを求められているのか」を、きちんと分かっていることが必要だ。自分がなすべきことを分かっていると、安全だと感じられるからだ。
継続性が大切なので、どのスタッフも同じように、問題に対処するようにしている。子どもたちは、ここで生活しているのだから、子どもたちのニーズを、全て私たちが満たしてあげる必要がある。物理的なニーズとして、寝る、食べる、衛生面等の必要を満たし、問題や障害に対処してあげなければならない。
治療の効果を上げるために、子どもはいつも決まったナースと一緒に活動する。ニーズが生じた段階で、ドクター、教師、時にはソーシャルサービスの専門家が、コミュニケーションに加わることもある。


<病院内学校>


Children’s Hospitalには、JAMES BRINDLEY SCHOOLに属する病院内学校がある。教室は病棟の入り口から廊下を挟んで反対側にある。

精神科病棟に入院している子どもは、ほとんど全員が学校に行くように求められる。明確な登校できない理由が無い限り、学校の教室に行くことになっている。どのようなスケジュール(予定)で毎日過ごすべきかを、子どもにきちんと分からせて入院生活をさせている。
子どもが学校に行きたがらない場合は、その原因を探って、適切な対処を行っている。なぜなら、退院後は原籍校に復帰するので、社会生活を継続して体験させておく必要がある。したがって、入院中であっても、病棟生活とは異なる社会生活すなわち「学校に通う」環境を継続することが重要となる。

学校には24名のスタッフがいる。そのうち、精神科担当は6名である。プライマリー(小学校)が、教師1名とサポートティーチャー1名、セカンダリー(中学校)は教師2名とサポートティーチャー2名である。これらの教員は、教室担当と言い換えてもよい。教室で授業を受けているのは、ほとんど精神科に入院している子どもたちである。

その他の教師は、精神科以外の病棟に入院している子どもたちの教育を受け持ち、主に病棟内やベッドサイドで授業を行っている。精神科以外の疾患の子どもたちは、身体的な理由から、教室に出てきて授業をうけることは希である。従って、精神科の子どもたちと他の疾患の子どもたちが、教室で一緒に授業を受ける場面は少ない。


<1日の流れ>


朝8:00起床→朝食→服薬→登校・授業→病棟にもどり昼食(ナースも一緒に食べる。)→登校・午後2時間の授業→病棟にもどる。

夕方はグループ別に活動する。たとえば、ソーシャルスキル・トレーニング、リラクゼーション、怒りの抑制術、ガーデニング、アクティビティなど、スキル中心ではなく、夢中になれることをやらせる。映画館やボウリングに行ったり、公園に行ったりする。

5:30に夕食。その後は自由時間で、テレビを見たり、ゲームをしたり、家に電話をかけて両親と話をしたりする。あるいは両親が面会に来たりもする。
それからシャワーを浴びて就寝時間。月曜日から金曜日はこのパターンに従う。
外泊できるほど症状が良くなれば、週末は自宅へ帰る。それ以外に週末は病棟としてきっちりとした予定は立てていない。


<学校との連携>

学校とのコミュニケーションをしっかりとることは重要だ。毎朝、毎夕、連絡係のナース1名と教師1名が情報を共有する。
子どもがあまりに攻撃的で、教室に登校できない時などは、教師が病棟に来て、ベッドサイドで授業をする場合もある。

週1回、病棟で子どもたち全員についてのケースカンファレンスを行う。医師、ナース、教師が参加する。
ハプニングが起こった場合、病棟スタッフと教師は、電話で連絡を取り合う。
1ヶ月に1回、病棟と学校のコミュニケーションがうまくいっているかどうかについて、ティーム・ミーティングを開く。
子どもたちの状況は常に変化しているので、病棟と学校の密なコミュニケーションが必要である。コミュニケーションは絶やしてはならない。
病棟では決まったルーティーンで生活する一方、かたや教室での自由気ままに行動を認める。そのような統一性のないことはあってはならない。ドクター、ナース、教師が1つのチームとして、子どもたちに対処しなければならない。


<プレイスペシャリストとの連携>


プレイスペシャリストは、精神科病棟には常駐していない。必要に応じて病棟に来てもらう。referralを書き、子どもをプレイセンターに送ることもある。


<薬の処方について>

人を押さえるために薬は使わない。子どもの活性が低下するような薬はできるだけ使用しない。やむを得ない場合もあるが、ごく短期間だけの投与に限っている。


<入院期間と退院後のフォロー>


2週間のアセスメントだけで退院した子もいれば、最長で2年間入院していた子もいる。
アセスメントをきちんとするためには、本来4〜6週間は必要である。両親、親類、原籍校の教師、ソーシャルワーカーが関わることになる。原籍校の教師との連絡は、病院学校の教師が行っている。

退院後、ほとんどの子どもたちは自宅に戻り、原籍校に復帰する。中には自宅に帰せず、寮に送った子もいる。

退院に向けて、外泊を徐々に多くするなど、自宅へ帰る準備や原籍校に戻る準備を計画的に行っている。
退院後のフォローアップは必ず行っている。家や学校での生活の質を良くしなければならない。学校に行けるようになるだけでなく、自信を持って他の人と関わることができるように援助していく。

再発を繰り返すケースもあるが、子どもがどうしてこういう状態になったのか、原因を見つけ、適切に対処するのが私たちの仕事だ。従って、子どもの状態の観察はとても重要である。
家族の問題も掘り下げなければならない。家族の人間関係の問題は、子どもが発症する前に生じているからだ。


<病棟内の見学>

(病棟内の写真撮影は、一切許可されなかった。)

病棟の壁は、精神的な効果をねらって薄青色に塗られている。
病棟に入ってすぐの廊下の片側に、ダイニングルームがある。ここは、ミーティングルームや絵画制作室も兼ねている。反対側には、デイ・ルームと呼ばれる居間がある。子どもたちがテレビを見たり、ゲームをしたりする部屋になっている。

モニター設備のある個室が2室と4床室が2室ある。病室の床には絨毯が敷かれていて、家具は木製である。できるだけアットホームな環境にしている。

卓球やゲームができる中庭があるが、子どもたちが走り回れるようなスペースは無い。それでスタッフが子どもたちを公園に連れて行くこともある。
「ソフト・ルーム」という部屋がある。子どもたちが攻撃的になったときは、ここに連れてくる。暴れてもけがをしないようになっている。緑色のマットが敷き詰めてある。緑は気持ちが「落ち着く色」なので、採用している。