実践活動 訪問学級における医療と教育の連携


赫多 久美子(東京都立城南特別支援学校 訪問部主任)



T.はじめに

 城南特別支援学校訪問学級には、平成21年12月1日現在、自宅で授業を受ける在宅訪問生15名、入院先で授業を受ける病院訪問生10名、計25名の児童・生徒が在籍しており、13名の常勤教員が配属されている。

 在宅訪問の子どもたちは、障害の程度が重く体力的にコンスタントに通学することが難しいという理由で訪問学級に措置されている。従って、その生活は医療と切り離しては考えられない。訪問による教育活動は、年度初めにそれぞれの主治医に記入を依頼し、保健室に保管される「主治医の意見書」に基づき、その許可された範囲で行われる。「主治医の意見書」の項目には、「検査所見/常用薬/日常生活の留意点と緊急時の対応/活動(運動)時の配慮事項/校外学習・社会見学の参加/スクールバス/宿泊/水泳指導/給食」等がある。担任は、児童・生徒の外来受診に保護者と同行するなど、必要に応じて主治医訪問を行う。また訪問看護師との情報交換を行っている。
本稿では特に医療との連携を必要とされる病院訪問について述べる。

U.病院訪問の概要

 本校の学区域は、東京都大田区、品川区の全域と港区の南部である。病院訪問の対象は、学区域内の病院に入院した児童・生徒のうち、保護者が希望し病院側が許可をした全ての子どもたちである。しかし、この数年は、大田区のA病院、港区のB病院という2つの大学医学部付属病院が固定した訪問先である。C大学病院には、品川区立小学校の院内学級がある。中学生は本校の訪問学級の対象だが、ここ数年間生徒の在籍はない。なお、在宅訪問の児童・生徒が学区内の病院に入院した場合は、担任が各病院に赴いて授業を行っている。

 学区内には小児科を有する総合病院が多数あるが、A、B以外の病院から入院児への訪問授業依頼はない。制度そのものが一般に広く知られていないからである。また、A、B病院小児科(一般病棟の場合もある)に入院する児童・生徒の全てが入・転入学するわけではない。訪問教育を受けるには、たとえ短期入院であっても特別支援学校への転校手続きが必要である。本人や保護者は「転校してまでは」と躊躇する。一方、教員が常駐している院内学級や分教室がある病院では、短期間の入院でも教育を受けられるシステムが機能しているところもある。

 入院している子どもとその家族を様々な職種が支える「トータルケアー」の考えが小児医療の現場で重視されてきている。教員は病院職員ではないが、入院中の子どもの成長発達をサポートしており、「トータルサポート」のチームメンバーでありたいと思う。だが、訪問学級の場合、同じ顔ぶれの教員が病院に常駐しているわけではない。訪問部の教員は、原則1日あたり、午前・午後各1コマ(2時間)ずつの授業を受け持っているが、訪問先は1か所ではない。午前はA病院、午後はB病院のこともあれば、在宅訪問だけで病院に行かない日もある。このような勤務の体系から、病棟のケース・カンファレンスに出席することが難しく、存在感が薄くなりがちである。病棟での限られた滞在時間では、連携をとるための情報交換を十分に行うことができない。このような「教員が常駐していない」という不利な面を補うために、訪問部では様々な手立てを講じている。

V.連携のための具体的な手立てと工夫

1.病院ごとのマニュアル
 病気で入院している子どもたちの生活は「治療優先」である。教員は、子どもの治療、検査、日常のケアの妨げにならないように注意を払いながら授業時間を確保している。
訪問先の病院によって異なる「作法」があり、教員はそれに合わせて行動する必要がある。数年前より病院ごとにマニュアルを作成し、病棟への入り方、授業や授業時間の注意事項、時間割の変更手続き、その他こまごまとした注意点について文章化している。これは、新転任者に対するオリエンテーションで活用している。学期中に何か問題が生じた場合は、病院訪問を担当している教員間で話し合いを持ち、共通理解を図るようにしている。対応策をマニュアルに反映させて次年度のバージョンアップにつなげている。

2.教員の名前と顔写真
 新年度スタートにあたって、訪問部の教員全員の名前入り集合写真を病棟にお渡しし、廊下の掲示板やナースステーションに掲示していただいている。これは入院した子どもや保護者に対し、「この病棟には城南特別支援学校の教員が訪問しており、入院していても教育を受けられます。」という訪問教育制度の宣伝になる。また、病棟スタッフに教員の名前と顔を早く覚えていただくためにも効果的である。

3.時間割
 各病院担当窓口は、毎週、児童・生徒と訪問教員名の入った次週の時間割表を作成し、病棟に提出している。これにより、検査やリハビリの時間と授業が重ならないように配慮していただけることも多い。

4.カンファレンス
 どちらの病院とも学期ごとに最低1回は、病院スタッフとのカンファレンスを持っている。病院側の出席メンバーはそれぞれ次のとおりである。
A病院:病棟師長、チャイルドライフスペシャリスト(以下CLS)
B病院:医師、病棟師長、看護師、ケースワーカー、保育士

 学校側は、副校長、各病院担当窓口、その時在籍している児童・生徒の担任、訪問部主任が出席する。
カンファレンスでは、児童・生徒ごとに治療や退院の見通しを伺い、学校側は授業の様子を伝えている。陶芸粘土、理科実験の用具や薬品等、持ち込みたい教材の可否や条件を確認する。日頃より、看護師、CLS、保育士と子どもの気になる言動について情報交換を行っているが、やはり定期的にこのような席を設けて共通認識をはかることは重要である。

5.儀式的行事への参加要請
 始業式・終業式に、病棟スタッフにも出席をお願いし、子どもたちへ励ましの言葉をいただく。
今年度はどちらの病院にも、地元の小学校に入学手続きをとってから訪問部に転入した新小学1年生がいたため、訪問学級での「入学式」を行った。当日は、多くの病棟スタッフが会場に来て入学をお祝いしてくださった。

W.連携の実際と課題

本稿作成にあたり訪問部の教員全員を対象に、病院スタッフとの連携で「とてもうまくいったこと(よかった、ほんとにうれしかったこと)」「困ったこと(なんとかしてほしいこと)」について、自由記述のアンケート調査を行った。以下、いくつかの意見をご紹介する。

1.「うまくいったこと


・子どもたちの病状、精神面、家族のこと、治療等についてていねいに教えていただき、共通の視点で指導にあたれた。特に緩和ケア(ターミナル)期の子どもでは大切。情報交換により、授業内容に意見を取り入れることができとてもよかった。

・授業中、子どもが不機嫌で「どうしたんだろう・・・?」と思っていると、ベッドサイドに来た看護師さんが何気なく「午前中・・・があったのよね〜」と子どもの情報を教えてくれてとても助かった。

・子どもたちの授業、作品、がんばっている様子等を病院スタッフがほめて、「授業がんばってね!」「いってらっしゃい!」と積極的に声をかけてくれると、子どもたちはとても喜び学習意欲が向上する。

・入学式や始業式に参加し、子どもたちの成長やがんばりを共有できるときはとても嬉しい。

・病棟主催の七夕会に訪問部としての出し物をさせてもらい、とても楽しい雰囲気で交流できた。

・看護師長さんが「授業の内容や教材については、できるだけダメを言わないようにしています」と言ってくださり、縫い針の使用や昆虫、植物の観察を許可してくださった。

・CLSの存在が子どもにとっても教員にとっても大きい。子どもはとても信頼していて、心のよりどころになっている。教員はCLSから子どもの様子を詳しく知ることができる。

・生活科の「朝顔の観察」で、教員が病院に到着 する頃には花がしぼんでいて、写真が撮れずに困っていた。教員の代わりにCLSが撮影してくれて、病室の外に出られない子どもに見せることができた。(後日、白血球数が上がりクリーン・ベンチから出られた児童は、屋上庭園で栽培されていた本物の朝顔の観察ができるようになった。)

2.「困ったこと」の記述から見える「課題」


<迅速で正確な情報の伝達を>


・学校・教員側としては、授業の計画・予定を立てる上で、治療状況や退院予定をできるだけ早く正確に知りたい。入院が短期化している今日、学期に1、2回のカンファレンスを待っていては間に合わないことも多い。普段、病棟で主治医と出会う機会はほとんどなく、担任が病院訪問時にプライマリー・ナースといつも会えるとは限らない。A病院の場合、CLSが勤務し学校との窓口になってから、情報をいただきやすくなった。

・病棟内で感染症が流行したり病棟・病室閉鎖になったりした場合は、できるだけ早く学校側に連絡していただきたい。教員が病院に到着してから閉鎖を知らされ、結局授業ができなかったという事態が過去に何回かあった。
<環境の整備に理解を>
・大部屋では、授業中でもテレビの音量が大きい時がある。病状により子どもがデイルーム等に移動できない場合は、少し音量を下げる等の配慮をしていただけないだろうか。教員からその都度お願いすることもあるが、言い出しにくいと感じる場合もある。

・教材を置く棚の場所が面会の方の邪魔にならない場所に移設できないかと思う。B病院の場合は、教材室を兼ねた教員控室があり大変助かっている。

<その他>

・看護実習の学生さんの「見学」の仕方が様々である。ごくまれに子どもが授業に集中できないようなふるまいをする方もあり、どう対処していいのか戸惑う。学生さんに対する実習オリエンテーションで、「訪問授業見学の心得」についても触れていただく必要を感じる。

 これらの課題は、あくまでも学校側の要望である。病院・病棟スタッフの状況によりすぐに解決できないかもしれない。反対の立場からは、学校や訪問部の教員に対し、さまざまな要望があるだろう。それらを遠慮せずに率直に伝えていただきたい。お互いを尊重し、お互いを信頼し、何事も「子どもたち」の益につながるよう、1つ1つ課題を解決していきたい。

X.おわりに

 組織と組織の連携がスムーズにいくためには、まず各組織が対外部において「一枚岩」であることが必要である。言うまでもなく組織を構成しているのは1人1人のメンバーである。訪問部では、カンファレンス以外で個人的に何らかの情報を得た場合は、それを共有すべき他の教員に迅速に周知するようにし、必要な場合は話し合いを持って共通認識し、組織として対処するよう心がけている。今後もその意識を大切にしながら、病棟における「トータルサポート」のチームメンバーの位置を確立していきたい。

 本稿は「一枚岩」でありたいと願う城南特別支援学校訪問部全員の協力でまとめることができた。良き同僚に恵まれたことを心から感謝したい。