訪問学級担当教員間の情報共有の在り方について

−東京都立城南特別支援学校訪問部の取り組み−


○赫多 久美子
(東京都立城南特別支援学校)
キーワード: 訪問学級,情報共有,ピアサポート




【はじめに】

 筆者は平成17年度に東京都立城南特別支援学校に異動すると同時に訪問学級に配属されて6年目になる。平成22年度7月1日現在、訪問学級には在宅訪問11名、2つの大学付属病院訪問に7名、施設訪問1名の計19名の児童生徒が在籍し、教員9名が配置されている。本校では訪問学級担当教員は小・中・高の各学部に属するのではなく、組織上、学部や自立活動部と同列の「訪問部」に所属している。

 訪問学級では、週3回2時間という少ない授業数と限られた環境下で、いかに充実した内容の教育を実践するかが教員に問われる。しかし、教育の内容以外にも、以下のような訪問独自の「難しさ」が存在する。

 ○教員は原則、本校に出勤し職員朝会後にそれぞれの訪問先に出張する。訪問先が遠い場合は、授業後本校にもどらず直帰することもある。 1ケースを主・副の2人あるいは3人の担任で受け持つが、お互いに学校滞在時間が短いため、連絡及び情報交換をする時間の確保が難しい。

 ○在宅では、児童・生徒の健康上の問題ではなく、家庭の事情で訪問学級に措置されている場合がある。訪問中は、様々な困難や精神的な問題をかかえた保護者に対し、1人で対応しなければならないため、教員のストレスは大きく、心身共に消耗する。

 ○長期入院により転籍してくる児童・生徒は、小児がん等の重い疾患をかかえるケースが多い。残念ながら年間数人の子どもが亡くなる。長期間のターミナル期を経る場合もあれば、病状が急変し突然亡くなる場合もある。いずれにせよ担任の喪失感は大きく、心理的なサポートが必要となる。

 平成19年度から訪問部主任となったことを契機に、訪問部メンバー全員の協力を得ながら、これらの「難しさ」を克服するために、「情報共有の在り方」の改善と教員間の「ピアサポート」の確立を中心に、様々な取り組みを開始した。

【情報共有】

 まず「個人プレイをせずにガラス張りで」「訪問学級に在籍している全ての児童・生徒に対し、訪問部の教員全員がチームとして教育にあたる」という方針を立て、周知するようにした。その上で、以下のような具体的な手立てを講じた。

 @定期的な会議時間の確保:訪問の性質上陥りやすい、担任と保護者間での個人的なやりとりで「融通をきかせすぎる」過去の体質を改め、明文化した約束ごとを教員間で確認し、保護者の要望等に部の承認を得た上で、組織として対応するようにした。そのために、原則全員出席の訪問担当者会(以下、訪担会)を定期的に必ず行うことにした。現在は、訪担会のために毎週木曜日の午後2時15分から1時間以上のまとまった時間を確保している。

 A児童・生徒に関する情報の共有:訪問部の会議室兼教材室のホワイトボードに、担任が作成した児童・生徒の写真付き紹介カードを掲示し、教員の目に触れるようにしている。

 B座席の配置と携帯電話の活用:担任・副担任が訪問に出かける前の短時間だけでも話し合えるように、職員室の座席配置を考慮した。迅速な対応が求められる場合は、関係者が出張先から携帯電話やメールを活用して連絡を取り合うようにしている。メールでは、児童・生徒名はイニシャルやニックネームを使い、個人情報の扱いに配慮している。

 Cケース報告:児童・生徒とその家庭に関する状況の変化等があった場合、担任は訪担会で「ケース報告」を行い、情報を共有する。何らかの問題が生じた場合、児童・生徒の利益となる解決に向けて、全員が知恵を絞り、苦境に立つ担任に対して協力を惜しまない。

【心理的サポート】

 メンバーはチームの一員であり、時に仲間を支え、時に仲間から支えられることによってチーム力を向上させていく。各自がどのように支えて欲しいのか、どう支えたらよいのか、ヒントを得られる「場の設定」が重要である。

 @ピアサポート:訪担会の最後に「この1週間、嬉しかったこと、つらかったこと(現在進行形の場合もある)」について、全員が順番に語り、皆が耳を傾ける「うれつら」タイムを設定した。これは、精神障害等をかかえた当事者活動で知られている北海道浦河町の「べてるの家」における「ミーティング」からヒントを得たもので、メンバーが仲間に対して「弱さの情報公開」をしやすくする「場」となっている。

 喜び(うれ)と苦労(つら)を共有することによって、仲間としての信頼が生まれ、連帯感が強まる。安心して弱音を吐けることで、お互いの弱さを知ることができる。弱さの情報共有により、お互いのフォローがしやすくなる。訪問部では、同じ課題に直面する教員同士が互いに支えあう「ピアサポート」が自然なかたちで日常的に行われている。

 Aメモリアル:児童・生徒が亡くなった場合、担任の悲嘆は深く、当然のことだが部全体に重苦しい空気が流れる。

 3年前から、教員のグリーフケアの一環として、子どもの葬儀が終わった翌週あたりに「○○さんメモリアル」を行うことにしている。亡くなったその児童・生徒の思い出、担任へのねぎらいや慰めの言葉を順番に語り、最後に副担任、主担任が胸の内を語る。涙で言葉が途切れることもあるが、皆でその悲しみを受け止める。その後は、雑談ティータイムとし、亡くなるという形で別れることはつらく悲しいことだが、その子との出会いで得られた教師としての喜びと幸せに視点を移していく。「こんなことがあった」「あんな面白いことを言っていた」とエピソードが紹介される。皆、目は赤くなっていながらも笑いがこぼれるようになる。担任にとっては、悲しみの淵から一歩踏み出す機会となり得る。

【おわりに】

 どんなに優れた教員でも1人の力には限界がある。次々に生じる現実的な問題を1人で背負っていてはバーンアウトを招くだけである。各自が毎日学校外に出かけて行く訪問学級だからこそ、綿密な情報共有が必要であり、ぬくもりのあるピアサポートが不可欠である。今後も訪問学級の「難しさ」をメンバー全員の力を合わせて乗り越える経験を積み、チーム力をさらに向上させていきたい。