「障害児教育学講義」レポート   

我が国の特殊教育制度における今後の課題 

「障害児教育学講義」を受講し、養護学校在籍者の重度重複化、普通学級におけるLDADHD児への対応、特殊学級・通級学級の現状、医療的ケア、教員の専門性、養護学校のセンター化等、現在の日本の特殊教育が抱える様々な課題について改めて整理し考える機会を得た。

ここでは、その中でも個人的にかねてより疑問に感じていた「養護学校(義務教育段階)の在り方」と「特殊教育関係教員の専門性の向上」の2点に絞って、以下意見を述べたい。

1.養護学校(義務教育段階)の在り方について 

〜 大規模養護学校から地域分散特殊教育サービスセクションへ 〜

1)義務教育におけるノーマライゼーション

「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」に提示されている基本的な考え方の@には

「ノーマライゼーションの進展に向け、障害のある児童生徒の自立と社会参加を社会全体として、生涯にわたって支援することが必要」とある。

「ノーマライゼーション」社会とは、障害者が障害に関係なく、地域社会の同一世代の市民と同じ生活ができるような社会である。しかし、現在障害のある子どもたちの多くが、各自の居住地域から相当離れた規模の大きい特殊教育諸学校に集められて義務教育を受けている。私の知る範囲では、養護学校のスクールバス登下校に1日2時間以上を費やしているケースもまれではない。長時間の登下校による体力消耗は子どもたちの大きな負担となっている。さらに養護学校の学区域が広範囲にわたり、学校所在地と在籍児童生徒の居住生活圏が何十キロも離れていることは、地元での人間関係にマイナスの影響を及ぼすと推測できる。

朝早くスクールバスで登校し、夕方やっと帰宅する。そのような子どもの存在感が地元で薄れてしまうのは当然である。週末に家の周囲を出歩く機会があったとしても、「普段は遠くの学校に行っているらしい障害のある子」に声をかけて一緒に遊ぼうという近所の子どもはまれであろう。今後最も長く同じ時代を生き、必要な支援の担い手として重要な立場になりうる同世代の子どもたちが、近所に住む「障害のある子」と接するチャンスが奪われている現状がある。

2)特殊教育サービスセクション

障害の有無にかかわらず、ごく自然に共に地域社会の中で生活していく感覚は、やはり学校という集団で養うのが一番ではないか。全ての小中学校に特殊教育を提供できる場が設置されれば、障害のある子どもたちも自宅の近くで教育を受けることが可能になる。

小中学校の空き教室に「養護学校・ミニ分教室」を作ることは、現実的な移行措置と考えられる。しかし、「ノーマライゼーション」を目標とするならば、「特殊教育サービスセクション」というかたちで、同じ組織内に吸収されるべきではないか。特殊教育の担い手が、都道府県立の特殊教育諸学校から市町村立の普通小中学校に移管されるかたちである。もちろん、分教室に匹敵する特別な予算措置の継続が必要である。

基本方針B

「障害の重度・重複化や多様化を踏まえ、盲・聾・養護学校等における教育を充実するとともに、通常の学級の特別な教育的支援を必要とする児童生徒に積極的に対応することが必要」


<特殊教育サービスセクションについて>

障害のある児童生徒は普通学級に籍を置き、その障害の状況によって校内に設けられた特殊教育サービスセクションで、個々のニーズに応じた指導を受ける。ここには在校生の障害に応じた教具や支援ツールが揃っている。

特殊教育サービスセクションには、その学校に籍を置く障害のある児童生徒の人数と障害の状況に応じた特殊教育免許状を有する専門教員が配置される。

専門教員は学級担任にはならないが、障害のある子どもたちの個別の指導計画を作成・実行・評価するにあたり、責任者となる。

特殊教育専門教員は必要に応じて普通学級の教室に赴き、障害のある児童生徒がその学級の教育活動に参加するための支援を行う。

3)中規模学区域と学校選択制

基本方針C、Dには次のようにある。

「児童生徒の特別な教育的ニーズを把握し、必要な教育的支援を行うため、就学指導の在り方を改善することが必要」

「学校や地域における魅力と特色ある教育活動を促進するため、特殊教育に関する制度を見直し、市町村や学校に対する支援を充実することが必要」

あらゆる障害種別の特殊教育サービスセクションを各小中学校に設置することは難しい。しかし、隣接学区域の数校が中規模学区域を構成し、ある学校には主に知的障害、ある学校には肢体不自由、ある学校には自閉症というように対象がある程度しぼられたセクションが設置されるのはどうだろうか。保護者は各校の特徴を知った上で、子どもの状況に合った学校を選ぶ。普通小中学校でも、一定の地域内で保護者が学校を選択できる学校選択制がより一般化するのであれば、障害のある児童生徒の保護者もまた学校選択の自由を保証されるべきであろう。

4)拠点としての養護学校

 自宅通学の子どもたちはそのように地域の学校に在籍するようになったとしても、施設居住者のために隣接する養護学校は必要である。入所者の居住地がその施設であり、まとまった規模の子どもたちの教育を地元の小中学校が担うには無理がある。しかし、だからこそ障害のある施設収容の児童生徒と、その地域の小中学生との交流は頻繁に設定されるべきである。「地域には施設や養護学校がある」ということが、その地域の特徴として位置づけられ、積極的な地元ボランティアの活動や地域ぐるみの施設・学校行事等で、ノーマライゼーションが推進されていくことが望まれる。

基本方針A

「教育、福祉、医療等が一体となって乳幼児期から学校卒業まで障害のある子ども及びその保護者等に対する相談及び支援を行う体制を整備することが必要」

 施設隣接型の養護学校は、特殊教育センターの支部的機能を備え、保護者等に対する相談及び支援の窓口となることが期待されるだろう。また比較的高価な支援ツールなどを各小中学校の特殊教育セクションの求めに応じて貸し出す業務や、県下の障害のある子どもたちの実態調査のまとめ、各種データベース作成などの拠点の一つになることも考えられる。

盲・聾学校に関してはどうか。知的障害が重度でない場合は、適切な時期に専門機関で集中的に点字や手話・口話などのコミュニケーション能力を身につける必要がある。普通学級に在籍しながらそれらの特別な支援を受けることができる体制が整うことが理想と考える。

(*盲・聾教育に関しては、現場での経験が無く勉強不足でもあるので、これ以上の言及は控えたい。)

2.特殊教育関係教員の専門性の向上

1)認定講習

免許制度がある以上、無免許での指導は本来あってはならない。現職教員には現場での経験を十分考慮した免許交付をさらに速やかに進めるべきだ。認定講習について「つまらない話を聞かされて、時間の無駄だ」などとうそぶく教員も現実にいた。そのような批判が出ないためにも、講習の内容は現場で実際に役立つものでなければならない。各教育委員会は、認定講習としてふさわしい範囲内で、教員がどのような研修を望んでいるのか現場のニーズを調査し、また教員の力量として不足している部分を分析し、効果を最大限に引き出す講習を企画するべきだ。適切な講師の選定、受講しやすいフレキシブルな時間設定等、改善の余地はたくさんある。

2)免許保有者の研修

現職教員の資質向上をはかるには、免許保有者にも継続的な「研修」は必要である。しかし、研修のために度々職場を空けることは難しい。そこで企業で取り入れられているe-Learningという呼ばれる研修方法を活用してはどうだろうか。座学ならば、一流の講義内容を録画し、研修センターのサーバに格納する。研修会場に足を運ばなくとも、空いた時間に、インターネット経由でコンテンツにアクセスし、勤務先の学校や自宅で受講できるようにする。従来の出席確認の代わりにレポート提出などを義務づけて研修成果を求めればよい。今後、ブロードバンドが一般に普及すれば、実際に討論したり、グループワークを進めたりするにしてもメールやテレビ会議システムを最大限に活用できるだろう。「これはどうしても実際に集まって行わないと効果が上がらない」内容の研修である場合にのみ、会場に出かければすむようにする。これは認定講習でも応用できる方法である。

3)新規採用

教員の採用段階で特殊教育に対する適性を重視する必要がある。優秀な人材を確保するためには、広く一般に向けて特殊教育をアピールすることが効果的である。特殊教育担当教員という仕事がいかに魅力ある職種であるか、どのように伝えることができるだろうか。

障害のある子どもたちが自分のすぐそばで教育を受けていれば、「特殊教育」と称されていようが、 普通教育を受けている子どもたちにとっては、日々目にするなじみ深いものになる。そうして育った子どもたちの中に、将来の仕事として「特殊教育」を選ぶ子どもたちが増えていくのではないか。また、そうして選ばれるような教育をしていくのが、特殊教育に携わっている私たちの責任だと考える。

以上


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