JAMES BRINDLEY SCHOOL(バーミンガム)
City Hospital site 視察レポート


バーミンガムにおける病院内教育について


2003年8月18日(月)JAMES BRINDLEY SCHOOLに属するCity Hospital 内の学級を訪問し、英国バーミンガム市における病院内教育の現状と課題について情報を得た。

            

<はじめに>

 JAMES BRINDLEY SCHOOL(以下JBS)は、6年前に発足した、バーミンガム市内の全病院内学級と犯罪青少年施設内学校及びホームティーチング部門の集合体である。
学校名はバーミンガムの運河を造った歴史上の人物の名前に由来する。学校のマークには運河と船、橋のイラストがあり、校名とともにA BRIDGE FOR LEARNING の文字が入っている。
 
         

今回は、City Hospital小児科病棟とその中にあるJBSの教室を訪問し、教師であるLinda Freakleyさんからお話を伺った。

City Hospitalは1868年に建てられた、歴史を感じさせる建築物である。
エントランスから、診療科ごとに色分けされた800mある長い廊下を通って小児科に向かう。

Lindaさんは、JBSの病棟マネージャー兼プライマリー・コーディネーターであり、
6つのユニットを管理しているシニアティーチャーでもある。小学校や学習障害の教育を含め、34年間の教師経験がある。シティでは5年間、その前はチルドレンホスピタルにいた。病院内学級での経験は14年間。

Linda:
この病院は総合病院だが、小児を診察するドクターは小児科の専門医である。(時間があまれば大人も診察する。)

デイ・ユニットでは通常教育活動はしないが、手術の遅延が生じた子どもたちがいる場合などは、教員が対応する。

病棟に入ると毎日のように子どもたちの顔ぶれが違うので、期待しながら病棟のドアを開ける。

(病棟に入ると、奥でドクターがミーティング中) 

以前、ドクターの手のひらに乗るぐらいの未熟児が入院したが、脳に障害もなく、元気に育っている。

ドクターのユニフォームは無い。中には白衣を着る人もいる。


<授業の場所>


病棟の中にスタッフルームも兼ねた教室が1つだけある。窓以外の壁面には棚があり、教材やファイルがぎっしり並んでいる。

         
                  病棟内のJBSの教室

状況次第で、ここに10名以上もの子どもが入る。

教室で教えることもあれば、ベッドサイドで教えることもある。病室に折り畳み式のスペアテーブルを持ち運んだり、病棟のテーブルを使用したりする。サンルームで授業する場合もある。

病棟内のテーブル


<授業内容について>

料理をさせることもある。宗教上のお祝いや各国料理を作る活動もある。

2年前、日本についての学習を1週間やったことがある。書道をやり・お祭りや地理、その他興味深いことを学習した。


<JBSについて>
管轄する8つの病院、3つの施設、ホームティーチング部門には、合計180名の教師、臨時教員が働いており、5000名の子どもたちが学んでいる。
City Hospital
Diana Princess of Wales Children's Hospital
Good Hope Hospital
Heartlands Hospital
Queen Elizabeth Hospital
Willows Centre
Selly Oak Hospital
The Royal Orthopaedic/Woodlands Hospital
Northfield Centre
Parkway Centre
Yardley Green Unit
Home Teaching and Referrals Team

学校経営の予算は、年間300万ポンド 市政府から直接支払われる。
校長が幹部や国の会計担当と話し合って予算を配分する。まず建物、光熱費、スタッフにいくら払うかなどを決定する。
残ったお金は、それぞれの学校のシニア教師やカリキュラムにいくら使うか、20人から30人で、誰がいくらもらうかを話し合って決める。


<JBSの発足について>

バーミンガム市内の全ての病院に小児科があり、そこには必ずJBSの病院内学級がある。
6年前、地方の教育委員会がそれぞれ管轄していた病院学校を閉鎖し、それらはJBSという大きな組織に統合された。当時は調整が大変だったが、今は落ち着いた。
統合するにあたり、学校名を公募し、理事会(全ての学校は理事会をもっていて、パフォーマンスを査定する役割を負っている)が、バーミンガムの運河を造った、歴史上の人物の名前をつけた。

このような統合の傾向は、他の自治体にもひろがっている。
JBSはユニークで、最も規模の大きい学校なので、大変興味を持たれていて、多くの人が視察に訪れる。

この視察を機に、日本とテレビ会議を実現したいと校長が希望している。ビデオリンクでお互いから学べるのではと期待している。

<JBSの他の各学校の特徴について>


○グッドホープ:短期入院が多い。
○ハートランド:新しい、小中用の部屋が分かれている。腫瘍の特殊な部屋がある
○ダフデール:最近、場所が変わった。
 4〜16歳 自閉症、ADHD、アスペルガーの子どもたちが学んでいる。
○チルドレンズ:世界各国から患者がくる。
○ウッドランド:骨疾患、白血病
○パークウエイ:精神病棟
○ウィロー:精神病棟
○ノースフィールド:60床登校拒否
○パークウエイ:中学生50床 2年ぐらい入院する子どもがいる。
○フレンジック(9月オープン):24時間警備体制が敷かれる。重い犯罪者のためのユニット。13歳から18歳が対象。


<統合のメリット>

統合のメリットとしては、特殊性が出たということがあげられる。
City Hospitalには小学校教師である私(Lindaさん)と中学校教師として英語の専門の教師がおり、もう一人数学専門の教師が週1回きている。他にナーサリーティーチャーと呼ばれるサポートティーチャーが2名いる。
ここには物理や化学の専門の教師はいない。14歳ぐらいまでは、ここにいるスタッフでなんとかまかなえる。それ以上の年齢の子どもたちに、自分たちの専門外の教科を教える必要が生じた場合は、他の病院内学校に電話をかければよい。
他の学校から応援の教師が来たり、
FAXで教材を送ってもらったりできる。誰がどんな専門なのか周知されているので、専門の教師に直接お願いの電話をかける。
たとえば、語学の専門の教師の力を借りたい場合は、ウッドランドやチルドレンズに電話する。科学が必要ならパークウエイに電話する。そこには科学に強い教師が何人かいるので誰かが対応してくれる。このようにすぐ他の学校から教師に来てもらえるメリットがある。

          


コンゴから来た子どもが入院してきた時、その子はフランス語しか話せなかった。私はフランス語に自信がなかったので、ウッドランドに電話して、教師の交換をした。
こちらからナーサリーティーチャーを出して、向こうからフランス語の教師を迎えた。
City Hospitalに子どもが2人しかいないのに教師が4人もいるという場合、こちらから電話をして、どこか教師が必要なところは無いかと聞いて、必要なところに教師を送り出す。

そのような教師の移動の交通費は、予算から出る。校長がとても理解があるので柔軟に対応できる。

校長の下に副校長(エリアを半分に分けている)が2人と事務担当がいる。
シニアティーチャーは、ユニットが長期入院患者を持っているところ、チルドレン、パークウエイ、ホームティーチング、ノースフィールド、新しいアダプティールドと大きいユニットにいる。ホームティーチングのティームもある。
小さいユニット、ウイィローとヤーダリー(犯罪青少年入る施設)、クイーンエリザベスには、病棟マネージャーがいる。


<1日の流れ>

朝、病棟とミーティングをして何人子どもがいるかリスト作りをする。ベッドの番号、名前、何が問題なのかを用紙に記入する。プレイスペシャリストが連絡をしてくれる。

教師は医療的なことを全て知る必要はなく、教育がどれだけできるのかが分かればよい。教育対象の子どもが何人いるかが分かったら、何をするのか予定を立てる。それぞれに応じた学習内容を決める。
11〜14歳は中学校の教師が担当する。3〜11歳がプライマリーで、11〜 14歳がセカンダリーである。
子どもたちの能力を査定し、「これができるのならこれを提供する」という対応表を見ながら内容を選定する。
午前中は英語と数学、それ以外は午後と一応時間割はあるが、予定通りにはいかない。こどもの興味がある分野からきっかけを作り、対応している。
<市外の子どもの受け入れについて>
JBSで教育を受けるのに、学校を転校する必要はない。
バーミンガム以外に居住する子どもが入ってきた場合には、予算の問題が生じる。
たとえば2年間子どもが入院するのが分かっている場合は、元の学校がその分の予算を失って、その分がバーミンガム市教育委員会に払われることになる。

予算移行手続きのために、何をどれだけの期間教えて、その結果はどうだったのか
子どもごとの資料「プロファイド・フォーム」を整えておかねばならない。
自治体によっては、すぐに払うが、ある自治体はプロファイド・フォームを審査したり、家庭訪問を行って聞き取り調査をしたりしてから予算を振り込むことになる。
監査官がいつ来てもよいようにプロファイド・フォームやその他のフォルダ管理をしっかりしておかなければならない。

学校全体で採点が同じように行われなければならない。学校には30のポリシーがある。それにより、仕事の標準化をめざしている。


<プロファイド・フォーム>

プロファイド・フォームには、名前、住所、原籍校、問題、学習課題、実際にやったことが、個人ごとに書き込まれる。1日1枚記入する。

学習の様子、活動の様子を写真に撮って保管している。(右脳左脳を関連づけるブレイン・ジムという運動をしている様子、オリーブとアンチョビーをテイスティングしている様子などの写真)

短期間入院の子どもたちが多いので、このフォームが、JBSで取り組んだ全ての教科を教えてもらっていたという証拠になる。

フォルダを6つ持っている。30人のプライマリーティーチャーと相談してトピックエリアを6つ決める
トピックエリアには活動目的があり、それぞれどのようなトピックか、活動、ねらい、フローチャート、教材の準備の仕方などが書かれている。教師が1冊ずつ教材ファイルをもっている。

教室で説明してくださるLinda先生


<学習の進め方>

学習は原籍校と同じペースで進める。入院が2日間なら連絡は取らないが、1週間なら原籍校に連絡する。
原籍校で農場に見学に行くという学習が行われるならば(入院中の子どもはそれには参加できないが)、こちらでも農場についての学習を行う。入院したことによって勉強が遅れないようにしなければならない。原籍校(home school)のクラスメイトと同じことができるようにする。

スペシャルニーズがある子どもの場合はすぐに原籍校に連絡を取る。

ナショナル・カリキュラムでは、この月のこの週には何年生は何をやるかが決まっているが、入院中の10歳児が4名いたとしても一緒には教えられない。

勉強するべきものをしないということはあってはならない。楽しいことは課題を4つやってからと約束して学習に取り組ませたりする。面白いことも用意する。「学校は面白いところ」と思わせる教師でなければならない。親を学校不信にしないことも重要だ。

<ホームティーチングについて>
ホームティーチング今年7月は187名の子どもが受けていた。
週5日、毎日1時間。
10名のフルタイムスタッフを含む40名の教師が担当している。

原籍校にどうやってとけ込ませるかが重要だ。自宅に行って、子どもを連れて学校に行き、原籍校で教えることもある。

子どもが3週間以上学校に行けない状態が続けば、ホームティーチングの対象となる。たとえば骨折で自宅療養中など。

不登校などで3週間以上学校に行っていない場合は、教育ホームビジターが学校、両親、子どもと3者面談を行い、解決を図る。場合によっては転校になる。
このようなケースでは、医療的な面が関わる場合のみJBSが関与する。
(医療面が関わらない場合は管轄外)

教員がエリアを分けて、最高で1人4名の子どもを担当する。
プライマリー(3〜11歳)は1人の担任だが、セカンダリーの場合は教科によって3名までの教員が関わる。


<幼児の教育について>


義務教育は5歳からで優先権はあるが、プレスクールの3歳児以上を対象にしている。
入院している子どもが3歳から教育の対象となったのは10年ぐらい前からで、長期間入院しているなら対象としている。
重症でない短期間入院の幼児は他の子どもと一緒に、やれる範囲で対応している。
18ヶ月の乳児でもニーズがあれば教師が関わる。

JBSのURLは以下の通り
http://www.jamesbrindley.bham.sch.uk/