「自立活動におけるプレパレーションツール活用」

赫多 久美子 (東京都立光明養護学校そよ風分教室教諭)




<東京都立光明養護学校そよ風分教室について>


そよ風分教室は東京都世田谷区の国立成育医療センター内に開設されている東京都立光明養護学校の病院内分教室である。小学部、中等部、高等部に常時30〜40の児童生徒が在籍しており、教員12名が常駐し教育にあたっている。
 そよ風分教室では、単調になりがちな病院生活にメリハリをつけ、児童生徒が希望をもって病院の治療にあたれるよう精神的な支え、励みになることを願い、次の基本方針(子ども像)をかかげている。

・からだを大切にし、健康の回復、向上につとめる。
・すすんで学習にとりくみ、もっている力を伸ばす。
・友だちやまわりの人とのつながりを作り、入院生活を豊かにする。

<自立活動について>


自立活動は盲学校,聾学校及び養護学校に設けられている特色ある領域である。その目標は、「盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領」において、「 個々の児童又は生徒が自立を目指し,障害に基づく種々の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識,技能,態度及び習慣を養い,もって心身の調和的発達の基盤を培う。」と定められている。
授業時数は、子どもの病状や障害の状態に応じて適切に定めることができる。

内容は、以下の5区分22項目あり、これらの中から一人ひとりの児童生徒に必要な項目を選定して指導内容を設定する。

1 健康の保持
(1) 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること。
(2) 病気の状態の理解と生活管理に関すること。
(3) 損傷の状態の理解と養護に関すること。
(4) 健康状態の維持・改善に関すること。

2 心理的な安定
(1) 情緒の安定に関すること。
(2) 対人関係の形成の基礎に関すること。
(3) 状況の変化への適切な対応に関すること。
(4) 障害に基づく種々の困難を改善・克服する意欲の向上に関すること。

3 環境の把握
(1) 保有する感覚の活用に関すること。
(2) 感覚の補助及び代行手段の活用に関すること。
(3) 感覚を総合的に活用した周囲の状況の把握に関すること。
(4) 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること。

4 身体の動き
(1) 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること。
(2) 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること。
(3) 日常生活に必要な基本動作に関すること。
(4) 身体の移動能力に関すること。
(5) 作業の円滑な遂行に関すること。

5 コミュニケーション
(1) コミュニケーションの基礎的能力に関すること。
(2) 言語の受容と表出に関すること。
(3) 言語の形成と活用に関すること。
(4) コミュニケーション手段の選択と活用に関すること。
(5) 状況に応じたコミュニケーションに関すること。

<自立活動におけるプレパレーションの位置づけ>


 病気の子どもたちにとっては、特に、「健康の保持」の4項目が重要な項目となる。その中でもプリパレーションと関わりが深いと思われるのは、「(2)病気の状態の理解と生活管理に関すること」である。子どもたちが治療に積極的に参加し、生活管理ができるように、自分の病気を理解することを支援するという点で、プリパレーションと本項目の指導内容は一致しているといえる。

<院内分教室小学部1〜3年生の自立活動におけるプレパレーションツール活用>


 そよ風分教室の小学部低学年グループ(1〜3年生)の自立活動の授業において、「びょういんおもちゃばこ一般編」のぬりえ「にゅういん こわくないよ!」と「プレイモービル」病院セットを活用した。
小学部低学年グループの自立活動は、週1コマ、教室に登校できる児童の時間割では、毎週月曜日の1時限目に設定されている。ベッドサイドの授業では、決まった時間に設定できていないが、児童の病状に応じて、他教科の授業を自立活動に振り替える等の対応をしている

ぬりえ:「にゅういん こわくないよ!」

ファイリングされたぬりえ

○活用にあたって

・専用のクリアファイルに元原稿と複数枚ずつコピーしたものをファイリングしておく。
・色鉛筆を用意する。
・このぬりえはかつて入院していたが、今は高校生になっている「ハナハナさん」というおねえさんが描いたものだと説明する。
・はじめに表紙をぬる。
・2枚目からは好きなページを選ばせる。順番は自由。
・色をぬりながら、絵に関連した話題で教師や友だちと楽しくおしゃべりができる雰囲気を大切にする。
・ぬったページは、教室や廊下に掲示する。退院時にまとめて返却する。

○子どもたちの様子、その他

・女子に好評だった。
・2枚目に検温や薬のページを選ぶ子どもが多かった。
・クロスワードを選んだのは3年生のみ。教員と一緒に考えながら取り組んだ。
・ぬりえの場面を話題にすることで、子どもたちの病棟での生活や友人関係について、さりげなく情報を得ることができた。

プレイモービル:「病室セット」「手術室セット」「小児科セット」


プレイモービル小児科セットを組み立てる

○活用にあたって
・小さなキッドの紛失を防ぐため、余裕のある空間を作ってから組み立てる。
・一旦箱に印刷されている通りに組み立てた後は、自由に遊ばせる。
・必要に応じて、教師がドクター役や患者役になるなどして、ごっこ遊びの相手をする。
・セットの中にある「点滴台」「床頭台」「ギプス」「心電図モニター」等の名称を入れながら、ごっこ遊びの会話が展開するようにする。
・後かたづけの時間を確保し、ファスナー付きビニール袋に収めてから箱に入れる。

○子どもたちの様子、その他

・化学治療で病室隔離の2年生女子:病室セット組み立て、女の子の人形を寝起きさせたり、お医者さんの人形で診察するまねなどをして遊ぶ。

・血液科2年生男児:病室セットで黙々と遊ぶ。ベッドを移動させる、点滴台を持って歩かせるなどして満足そうな表情だった。翌日に手術室セットを組み立てる。病室セットと合わせて、患者の人形を搬送して手術台に乗せる、医師の人形をあれこれ動かす、手術後に患者を病室に搬送する等の遊びを展開する。本人はポートの埋め込み手術をした経験がある。

・交通事故で牽引していた2年生男児: 「ぼくと同じだ」と言いながら、小児科セットを組み立て、ギプスをつけた人形を動かして遊ぶ。

プレイモービルのギプスをした子どもの人形

<まとめと今後の課題>

子どもたちは入院と同時に、病院という家庭とは全く異なる環境におかれる。様々な職種のスタッフや見たことのない検査器具に囲まれて不安になるのは当然である。
病院での生活場面を描いた「ぬりえ」を仕上げることや「プレイモービル」病院セットでのごっこ遊びを通して、病院にいる人、病院にある物に親しんでいくことは、子どもたちの不安を軽減し、治療に主体的に取り組むための第一歩となる。
今後は、このようなプリパレーションツールをより効果的に活用するためのノウハウを蓄積し、自立活動の授業の充実を図りたい。