レッドクロス・ホスピタルスクール(香港)
Red Cross Hospital Schools 香港紅十字會醫院學校  視察レポート
香港における病院内教育について



2002年8月、香港赤十字社(原:香港紅十字會)ヘッドオフィス内にあるRed Cross Hospital Schools(香港紅十字會醫院學校)運営本部を訪問し、香港における病院内教育について、歴史、現状、課題について情報を得た。



<はじめに>
Red Cross Hospital Schoolsの運営本部は香港赤十字社(原:香港紅十字會)のヘッドオフィス内にある。香港における病院内教育は、全てこの学校が請け負っている。

       
                          香港紅十字會外観

学校の経費の99%を政府の補助金でまかない(1%は寄付金など)、実際の運営は香港紅十字會「特殊学校及宿舎」部門「醫院學校」が担当している。このような学校を公費助成学校(Aided School)といい、香港の特殊教育諸学校は全てこの形態をとっている。
 
校長と事務担当員は赤十字会オフィス内に常駐しているが、実際の教育活動は香港各地に散らばる17の主要な病院内で行われている。また、退院後3ヶ月以上安静が必要で、すぐにもとの学校生活に戻れない児童のためには、home-based(在宅訪問)教育が行われている。

訪問した8月27日は、9月からの新年度を控えた夏休み中であり、残念ながら子どもたちが実際に学習する様子を見学することはできなかった。今回は香港赤十字社の会議室においてTong Ho Yin 校長先生他4人の方々から香港独自の病院内教育システムについて、詳しくお話を伺った。

<校長先生の話の要約>
この学校には校長先生以下70名の教員、10名のアシスタント、1名のIT技術担当、6名の事務職員が所属している。

香港の最初のHospital Schoolは、1954年に開設された。それ以前は、主に欧米婦人によるボランティアが子どもたちの勉強をみていた。現在では、香港各地の主要な17の病院にHospital Schoolが設置されている。


<Hospital School所在地>

IT担当者2人(内1人は教員でもあるITコーディネータ、もう1人はIT技術者)は各学校を巡回し、全体をサポートしている。アシスタント10名は複数の学校をかけ持ちしている。最小規模の学校で教員2人。最大規模は7人。基本的に4〜16才の子どもの教育に従事している。

<質疑・応答>
Q 設置基準は?
A 教育署(注:香港の学校教育担当政府機関名)の基準による。その病院に学齢児が常時一定数以上入院していること。小学生なら12人、中学生なら6人、スペシャルニーズの児童生徒なら6人と、いずれかが定数以上いるような小児科の規模を持つ公立病院なら設置できる。(補足:在宅訪問の基準は生徒4名に教師1名)
 病院が赤十字に学校設置を要望する。施設は病院側が用意し、医院学校が教員を派遣する。病院が設置を望んでも子どもの数が基準に満たない場合は設置できない。教育署の規定で、私立病院には教育サービスの提供ができないが、基準を満たすような規模の私立病院が存在しないのも事実だ。
   新しく病院が建てられる場合は、計画段階から赤十字が関与し、学校開設準備を進める。

Q 各病院に派遣される教員数はどのように決定するのか。
A 各学校で毎日の生徒数をコンピュータに入力し、月ごとに集計している。その実績に従って年度末に教員数を割り振る。子どもの数が変動し大きな偏りが生じた場合は、年度内に教員数を調整することもある。
  
Q 予定入院期間が何日から教育が受けられるのか
A この問題については長年論議になってきたが、最終的に関係者の賛同を得て、現在では、たった1日でも、またどんな障害がある子どもに対しても、そこにニーズがありさえすれば教育サービスを提供している。

Q Hospital Schoolsの先生たちの資格は?
A 大学で教師の資格を取り、さらに2年間(1年目は学課、2年目は実習)教育学院で特殊教育の訓練を受けて資格を取得している。採用時には一般の学校での経験も重視している。病院の子どもたちは退院すれば普通学校にもどっていくからだ。

Q Hospital Schoolの教員の資質として重要な点は何か。
A いろいろな分野に精通していること。1人で様々な分野の科目を教えなければならない。小規模校では小中学生両方を教えることにもなる。また、短期間で学力を含め子どもの状況を把握する能力が必要とされる。適応性。いろいろな病院に派遣されるので。忍耐力。病気の子どもたちの状況に適切に対応できるように。

Q 教える学習内容は?
A 主なものは、中国語、英語、数学。美術など。カリキュラムは、基本的に入院前に通っていた学校に合わせる。特殊学校やインターナショナルスクールからきた子どもたちには、そのカリキュラムに合わせる。感情や行動に問題があれば特別なプログラムを組むようにしている。

補足:http://www.hkrchs.edu.hk/ 
によれば「普通科」授業教科は以下の通り
學前:語文、數學、常識、美勞、音樂、遊戲
小學:中文、英文、數學、常識、美勞、音樂、普通話
初中:中文、英文、數學、綜合科學、中國?史、?史、地理、經濟及公共事務、美術與、設計、音樂、電腦認知、普通話

Q 病院学校が設置されていない病院(学齢患者数が定数に満たない公立病院や私立病院)に入院している子どもたちに対する教育の保証はないのか。
A 私(校長先生)も全く同じ思いだ。残念ながら、Hospital School未設置病院に入院している子どもたちに教育サービスは提供されていない。教育署に交渉しているところだ。たとえその病院に入院している子どもがたった1人だとしても、ここから教員を派遣して教育を行いたいと考えている。フルタイムの教員ではなく「時間講師」的な派遣でもよい。

Q インターネットの活用について教えて欲しい。
A 香港では学校で情報教育を推進している。入院中の子どもたちにも同様に取り組ませたい。病院にラインが引かれていればインターネットを活用して授業を行っている。ラインの無い病院へは、教員があらかじめ必要なデータをダウンロードしておいたノートPCを持ち込んでいる。必要に応じて教員の資格を持ったITコーディネータが巡回しサポートをしている。

Q 先生たちの会議はどのように行っているのか。
A オールスタッフミーティング:1,2ヶ月に1回
  ヘッドミーティング(各学校の責任者会議):同じく1,2ヶ月に1回
  その他に、専門科目ごとの会議やワーキング・グループ、研究テーマごとの会議が定期的に行われている。
  全ての教員がメールアドレスを持っているので連絡に活用している。
  電子掲示板で情報を共有している。
以上

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<視察当日配布された資料>

原文英語

Hong Kong Red Cross Hospital Schools 香港紅十字會醫院學校


はじめに
 香港における最初のHospital School(醫院學校)は1954年に開設された。現在では、17のそれと同様な学校が、香港各地の主要な病院に設置されている。
 Hospital Schoolsは香港特別行政区教育署(注:Education Departmentの現地呼称)の補助金を受け、香港紅十字會醫院學校運営委員会によって管理されている。

使命及び目的

使命
  我々は病気や障害のある青年に対し、その可能性を発展させ、尊厳ある生活を営む能力を高め、また彼らが社会に貢献する一員となるために、平等な教育の機会を提供する。

目的
@. 学習可能な健康状態にある入院中の子どもたちが、退院後通常の学校生活に戻る際、できるだけ困難を感じないですむように、彼らに教育を提供する。
   
A. 子どもたちが同年代の仲間と親しみやすく、学ぶことに自分なりの喜びを味わえるような、魅力的で、興味をそそり、刺激を与えるような環境を創造し、維持する。

B. 子どもたちひとり一人の知的、社会的、精神的な面における能力の最大限の発達を促す。

C. 独創性、創造性、肯定的自己尊重、責任感、他人への思いやりを育む。

D. 学校や学習に対し、あまり積極的に取り組めない子どもたちが、学校により良い感情を持つように促す。

E. 入院中の子どもたちが、入院生活における特別な経験から十分な意義を見いだすことができるように援助する。

F. ひとり一人の子どもが患者であるという従属的な立場にあっても、探求し、学習し、独立した個人であると感じる機会を提供する。

生徒の状況
 生徒たちは様々な病気のために入院している。小児内科、整形外科、そして外科病棟で最も一般的にみられるのは、発熱をともなう疾患、喘息、腎臓病、白血病、虫垂炎、側彎、骨折、脳性麻痺、脊髄性筋萎縮、筋ジストロフィー等である。在籍期間は数日から2年と様々である。(注:Hospital Schoolsで教育を受けるにあたり、日本のように学籍を移動する必要はない。)

 Hospital Schoolsは、自閉症、ODD(反抗挑戦性障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、統合失調症、抑鬱症、行為障害、言語遅滞、OCD(脅迫神経症)等、様々な精神的あるいは行動的問題のある子どもたちに教育を提供する精神科(原:psychiatric section)をも開設している。

クラス構成と入校者
  全ての子どもたちは病棟の担当医療職員か看護職員の推薦を得て、学校活動に参加する。4歳から16歳の生徒のために、幼稚科から中学3年までのクラスが運営されている。目下、平均すると8〜15名の生徒が在籍する44のクラスがある。現在Hospital Schoolsには、1日約525名の生徒が出席し、年間20,000名の生徒が入学している。

授業形態

教室/病棟 授業
生徒は教室や病棟においてグループで授業を受ける。

ベッドサイド授業
  ベッド上安静の生徒のためにベッドサイド授業が提供される。

在宅訪問(原:Home-based Teaching)授業プログラム
    退院しても、学校に通学するまでには身体的状態が回復していない生徒もいる。それらの生徒のためには、教育署からの委託によって、在宅訪問授業プログラムが提供される。教員が生徒の自宅で毎週決まった時間に授業を行う。

教育課程
  Hospital Schoolsの教育課程は生徒主体になっており(原:student-based)、教育における情報技術の発達と協調している。普通クラスのカリキュラムとは異なり、各種特殊学校から来ている生徒の個別ニーズの要求に応じて、教育課程が改変されることもありうる。さらに自閉症、学習困難、多動、難読症、感情及び行動障害の生徒たち向けの学習グループがある。これらの子どもたちには、教育署と他の機関からのガイドラインに則って特別プログラムが作成される。

課外活動
 課外活動に積極的に参加することが奨励される。郊外の公園へ遠足に出かける、デイ・キャンプを行うなど、合同行事や合同企画が学校(原:school unit=各Hospital School)と病院間で組織されている。博物館や展示会の見学や姉妹校企画活動等、教育的な参観行事もある。生徒は学校や他の団体に組織された絵画やデザインのコンテストやパーティーにも参加する。情報技術面ではもちろんのこと、これらの活動が、倫理的、知的、身体的、社会的、美的見地という全人的な生徒の発達を促すことが望まれる。

教育スタッフ
 現在、69名の教員が17のHospital Schoolsに配属されている。教員は全て総合大学あるいは教育大学を卒業しており、特別な教育ニーズのある子どもたちを教えるための研修経験を有する。

ティーム・コーポレーション
 私たちは授業に加えて、教員間のティームワーク精神を他のschool unitsにまでゆきわたるようにしている。様々なワーキング・グループが組織され、定例のスタッフ・ミーティングが行われる。
 一方で、Hospital Schoolsの教員は、精神科医、心理療法士、看護師、作業療法士、物理療法士、ソーシャルワーカー、栄養士等、医療スタッフや準医療スタッフと緊密に連絡を取り合いながら働いている。精神科について言えば、お互いにできるかぎり協力しあうために、チームメンバー間で頻繁にミーティングを行っている。
 特に子どもに行動面や学習面の問題がある場合は、両親との面談もまた重要である。そのため定期的な親子面談や懇談会が行われている。


(翻訳:赫多 久美子)