1999年に発表したものですが、私の研究の原点になっているものです。初心にもどってという意味で。

新100校プロジェクト成果発表会
テーマ部会

病院内学級におけるパソコン及びインターネットの活用について
− 相互支援や多様な人々との関わりによって −



東京都立光明養護学校(国立小児病院内)そよ風分教室
赫多 久美子


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1.はじめに

 本分教室に在籍している児童生徒は,病気療養のため長期にわたる入院生活を余儀なくされている。また小児病院では感染予防のため,病院外への外出はもちろんのこと,病棟の出入りにも厳しい制限がある。入院中の子どもたちは,同年代の子どもたちの活動範囲に比べると,非常に限られた空間の中で生活していることになる。他府県からの入院児も多く,家や前籍校から遠く離れた場所にいるとの孤独感も生じやすい。「インターネット」は,そのような子どもたちにとって,病院内に居ながらにして外の世界とのつながりを実感でき,空間的隔たりをほとんど意識することなく関わりを持つことができる有効な手段である。

2.子どもの活用の様子 - 道具の一つとしてのパソコン -

 現在の環境は,病院隣接の研究センター地下にあるコンピュータ管理室に100校プロジェクトで貸与されているサーバが1台,クライアントとしてMac・LC630が1台,今年度学校備品で購入したWindowsデスクトップが1台,文部省調査研究委託関係で借用動産のWindowsノートが1台,計3台である。このうち,デスクトップ2台は職員室に近い教室の一角「パソコンコーナー」に設置され,分教室がオープンしている時間帯はいつでもインターネットの利用が可能になっている。授業時間以外にも,病棟の許可が下りた子どもたちは,担任に申し出た上で休み時間や放課後などにパソコン及びインターネットを自由に使うことができる。

 転出入が頻繁なため,年間を通して系統だった情報教育は難しいが,転入してきた段階でのそれぞれのパソコン歴に応じて,リテラシー向上をはかっている。家庭や前籍校でパソコン操作の経験があっても,インターネットにつなげてホームページを見たり,Eメールのやりとりを体験するのは初めてという子どもがほとんどである。週1時間,小学部低学年(1,2,3年生),高学年(4,5,6年生),中学部(全学年)という3つのグループごとに設定されている「パソコン&プリント自習」の時間に,「インターネット入門講座」的内容で,新転入生優先に指導している。また,新着ソフトやハードの操作は,ある程度パソコンに慣れてきた児童生徒をピックアップして開封やインストールに立ち会わせ,解説書を共に読みながら操作方法を身につけてもらい,そのソフトなりハードなりのエバンジェリスト的役割を担ってもらうことにしている。「『マルチメディア人体』なら○○君に聞けば,やり方を教えてくれるよ。」「『キッドピクス』は○○さんが詳しいから。」「インターネットで検索するコツは○○君がピカイチのセンス」「メールの返信の仕方は○○さんがマスターしたよ。」・・・というようにしておけば、後は子どもたちの中で評判が伝わり、学年や病棟を越えた、自然な交流と技術伝達のルートが広がっていく。

 パソコンが教育現場に持ち込まれた当初,「パソコンなどというものを子どもに与えると,人間をきちんと相手にできない機械的な子どもになってしまう」と心配した教育関係者も少なくなかったと聞く。分教室での子どもたちの様子を見ていると,パソコンを「一つの道具」という地位に留めておく限り,その心配はないと私には思われる。インターネットに関しても,ニュースでネット犯罪が報じられる度に,適切な情報収集の方法やその取り扱い方を,教育機関で教えずにどこが教えるのかと自問自答している。分教室でインターネットに触れる機会を持った児童生徒がネット上の情報に溺れたり,踊らされたりしないユーザーに成長することを願いながら日々指導に当たっている。

3. 導入から今日に至るまでの歩み - 校内外のサポート体制の重要性 -

 回線使用環境の特殊性から100校プロジェクト参加校の内でも最も機器導入が遅れた本分教室では,平成8年度が実質的な研究の始まりであった。様々な苦労を経て,分教室のホームページ開設を成し遂げて下さった担当者が異動することになり,後任として指名されたのが私だった。9年度にはこの仕事が回ってくると覚悟し,半年前に自宅にMacと周辺機器を揃えてインターネットにも接続はしていたものの,「超ビギナー」でありながら「担当者になってしまった」ことでのストレスは大きかった。トラブルシューティング等の技術面でも頭を抱えることが多く,サーバがダウンした時など,リセットボタンを押して復旧するまでの数十秒間,人気のない地下室で文字通り生きた心地がしなかった。そのような「超初心者担当者」であった私は,資質として不足する部分をさまざまな方面からのサポートに補っていただきながら今日に至っている。以下,実質的,精神的サポートをいただいた方々である。

・光明養護学校本校の100校プロジェクト担当者をはじめとするパワーユーザ教諭陣
・個人的にMac家庭教師を買って出てくれたCGデザイナーの友人
・自宅のパソコンのセットアップをしてくれたエンジニアの友人
・メーリングリストedhandに連なる「障害児教育におけるパソコン等テクノロジー活用」の先駆者の方々
・病院内のパワーユーザ・ドクター
・分教室のホームページに感想を送って下さるメール・ボランティアさん

 ある時は分教室まで足を運んでいただき,ある時は帰宅途中の携帯電話で対応してもらい,そして多くはEメールのやりとりで窮地を救っていただいた。多くの方が快くサポートを受け負って下さった。そしてそれは,現在進行形でもある。プロジェクトの担当者になっていなかったとしたら,どの方との関係もこれほど密度が濃くなりえなかった。あるいは,出会うことさえなかったかもしれない。「良いサポートを受けている人間は,良いサポーターになれる」ということを自ら実証することで,ご恩返しをしていけたらと思っている。

4. 教員への浸透 - 子どもの気持ちが利用,活用の原動力 -

 担当者となって2年目の平成10年度,2学期にWindowsマシンが導入されたことをきっかけに,分教室教員のパソコン及びインターネット人口を増やすにはどうしたものかと真剣に考えるようになった。まずは,セットアップしたばかりの最新マシンにさわってもらわなくてはお話にならない。全体で研修会をするのは後回しにし,折に触れ,個人的に声をかけてきっかけをつかむようにした。夏休みにNHKで放映された「しりごみしている先生のための実践インターネット講座」を視聴した教員が,今までの書類作成のためのワープロソフト使用から,もう一歩踏み出して新たなことに挑戦しようとの意欲を持ったようだ。私もこの番組から,自分の役割のヒントを得て押しつけでない普及を実現したいと思った。

 しかしながら,分教室の授業におけるパソコン使用頻度が激増した原因は,子どもたちの「パソコンやりたい!」という声がきっかけであったように思う。授業で活用できるソフト類が揃ったことも一役かった。休み時間に好きな科目の問題ソフトに挑戦する中学生も出始めた。ゲーム感覚で楽しみながらローマ字入力タッチタイピングを身につけるソフトがいくらでもある。キーボード操作が早くなれば,自信にもつながる。地図ソフトで自宅を確かめる。近くに前籍校のマークがある。「治療が終われば退院してまたこの学校にもどるんだ!」モニター画面の地図をスクロールさせながら,地図帳を開いていた時とはあきらかに違うワクワク感を与えることができる。片手に点滴の針が刺さっていても,マウスで楽しく「お絵かき」ができる。間違えて塗りつぶしてしまっても,パソコンは「いっこまえ」と明るく言って画面がもどり,子どもに安堵の笑顔を与えてくれる。

 子どもの笑顔は教師のエネルギー源だ。パソコンが子どもの笑顔を引き出すのに「使える道具」だと気づけば,教師のためらいも消えていくような気がする。

 ただし,いろいろな人の手でいろいろに使えば,トラブルの頻度も増していくのがパソコンである。そこは,担当者が負わなければならない。「使われずにいるからおとなしい。だからお守りが楽」なのと「使われてしょっちゅうフリーズしてご機嫌をとるのが大変」なのとどちらをとるかと問われれば,一呼吸置いてではあるが,後者を選ぶことになろう。「笑顔でサポート!すばやい対応!」を心がけ,一人また一人とユーザーを増やしていきたい。

5. 交流 - インターネット経由で届く「あったかEメール」 -

 分教室ではホームページ上に子どもたちの様子や作品を発表し,広く病院内学級の存在を知ってもらう努力をしている。ホームページを平成9年度版に更新して間もなく,次のようなEメールが分教室に届いた。

「そよ風分教室のみなさん,そしてKAKUTA先生はじめまして,私は小山純一と申します。私はこの団地で一番(だ と思っている)子供好きのお父さんです。えっ,お父さん?そうです。中2と高2の女の子のお父さんです。・・ ところで,みなさんのページをとても楽しく拝見しました。・・・」

 その前置きに続き一人一人の子どもの作品について,きめこまやかな実にあたたかいコメントが書き込まれていた。リンクの申し出と共に「また,さっきも書いたけどマックを使っています。コンピュータの事で困ったことがあったら,いつでもメールください。知っていること,出来ることならなんでも協力します。それでは,おじさんからのメールがいやでなければまた書きます。」と結ばれていた。そのメールを受け取った子どもたちが喜んだことは言うまでもない。担当者としてもホームページが自分たちの知らない人にも見てもらえているということを,驚きと共に実感する出来事だった。さっそくリンクの承諾とお礼のメールを送信し,以後2年近くになるが,小山さんと分教室の子どもたちとのホットな交流が続いている。子どもたちが励ましを受ける「あったかEメール」の一つを紹介する。

「○○ちゃん新しい作品見ましたよ。また一段とうでをあげましたね。「お月見うさぎ」はそれぞれのウサギの表 情がとても良いですね。すべての線がとてもなめらかでおどろきました。びみょうにちがう色使いなどプロ級で すね。(オコゼのおじさんより)」
 メールを送信するにあたり,小山さんは次のような配慮をしてくださっているという。
「大人なら挫けてしまいそうな治療も子供ならばこそ耐えている部分もあると思います。つまり,病気で長期の入 院生活をする子供たちの気持ちや痛みを理解する事は到底できないのです。たとえ善意であっても,配慮の足り ない言葉で子どもたちを傷つけたり動揺させたりする事は避けなければなりません。

●病気の事は聞かない。
● 自宅や家族が恋しくなるような話題を避ける。
●外で楽しく遊ぶような話題は避ける。
●日頃(治療で)十分が んばっているのだから,ことさら「がんばれ」とは言わない。「がんばれ」の後には必ず「疲れたら休もう」を 付けるなどする。
●作品のよいところを探し,とにかく誉める。
●作品を発表すれば必ず感想を送ることによっ て,次の作品を製作する意欲に繋げる。」

 こんなすばらしいメールボランティアさんとの関わりを,子どもたちはネットを通して体験している。

6. まとめ

 機器の整備や回線敷設だけでは,インターネットを活用した教育は成り立たない。相互支援や多様な人々との関わりが,子どもたちの活動を活性化する鍵となる。分教室の子どもたちは,閉ざされた空間に居ることに変わりはないが,インターネットによって外の世界とつながって,教員共々ヒューマンネットの中で成長しているのである。