こうして防波堤の縁に腰掛けていると、まるで真夜中の淵に腰掛けているような錯覚を覚える。 ゆっくりと煙を吐き出して、見えるはずのない遠浅の海を眺めながら、その空と海との境目を見定めようとしても、はっ きとは分からなかった。 ずっと接していたコンクリートの接地面は体温でいつの間にか温まり、それとは対照的に風に晒されたままだった髪 は根元の方まで冷え切って頭痛を訴えた。 それをぼんやりと感じながら、そういうのも悪くない、と思った。 そういった体の感覚は、ともすれば薄れがちになる生きているという実感を明確に思い出させてくれる。そういう感覚 は、決して悪いものではなかった。 そうして自分自身に無関心な振りを続けながら、それも所詮道化でしかないと頭のどこかで声がする。 気まぐれなただの我侭だ。十分に承知の上で、それでも止められそうにない。 ただ、あの少し照れたように笑った時の淋しげな口元や、柔らかく細められた意外に優しげな目元を、いつまでも留 めていたいと願ってしまうのだ。 失いたくないと思ってしまうのだ。 そんな自分勝手な思い込みが、我侭でなくてなんだというのだ。自分がそう願えば、仕方がないとため息をつきなが ら、それでも十二分に叶えようとする真摯な魂に、自分は答えるだけの真実も誠実さも最早持ち合わせてはいなかっ た。 いつの間にか自分の中から抜け落ちてしまった、いや、もしかしたら最初からなかったのかもしれない。ないはずのも のを、あるはずのないものを求めて、自分は結局代償を払わなければならなくなったのか。 それに答える声はない。 それは所詮己自身でしか答えられない問いなのだ。 本当に下らない。 そう思いながらも切なくて、せめて朝が来るまでここに居ようと乾いた目蓋で蓋をした。 終 |