囁きの午後












「俺は」
 俯いたままで話す声が、座り込んだ膝にくぐもって聞こえないかも知れないと思っても、今顔を上げるのは叶わない。
首はどうにも億劫がって恐れるように戦慄いた。
 それでも下村が自分の言葉を待っている間はしゃべり続けなければと無闇な強迫観念に駆られて言葉を発する。
「お前が嫌だと言っても、お前が止めてくれと言っても止めないし。たとえ殴られても諦めるつもりはねんだよ。俺は」
 沈黙が裏路地を満たすのに、表では喧騒が騒がしいのだ。それを遠くに感じながら、それでも言葉を綴らなければと
頭が痛んだ。
「お、俺は、お前が俺の、俺だけのものじゃないと嫌だ。誰にも見せたくねえし、誰にも触らせたくねえ。俺はお前が居
ればそれでいいし、お前が俺だけ見てればいいと思う」
 どうしてもくぐもってしまう声は本当に届いているのだろうか心細い。くちびるの渇きを舐めて潤しながら、張り付きそう
になる喉がひゅっと嫌な音を立てた。何も言わない下村に不安がつのる。どう見ても滑稽にしか映らない蹲った自分を
笑っているのかどうでもいいのか。問いかけようと思う傍から怖くて途端に息は乱れた。
「…好きなんだ」
 好きだ、、好きだ、好きなんだ。どうしてかなんて分からない。自分の心も侭ならない。それでも下村が好きで、ただ独
占したくて、俺のものだと言いたいのだ。しかしそれを下村が許すとか許さないとかは全く別の話で、そうした自分の醜
いエゴを汚らしく見るのなら、いっそ突き放して二度と顔など見たくないと言って欲しいのだ。けれど下村は答えずに、こ
んな風に永遠の沈黙でもって自分を痛めつけるのだ。それがどれほどに酷いことであるかなんて全く知らずに、無心な
顔で笑うのだ。でももう、それも耐え難くて、狂った自分の物思いも何もかも知らない顔にはもうウンザリなのだ。
「いっそ、知らないほうがよかったよ」
 嘘だ虚構だ。どうしようもない虚勢なのだ。そんなこと思ったこともないくせに心のどこかで期待するようにそんなこと
を言って、そして結局見限られるのに、もしかしたらなんて思いながら小さな希望に縋るのだ。
「…好きなんだ」
 どうにも沈黙は打ち破られず、いつまでも痛むのは自分ひとりだけなのだ。





















どうでもいいけど、坂井ってひとりでグルグルしてるの得意そう。
で、あっさり下村にイエスを貰ってびっくりしたり。
結局オチは、そのノリなのでご心配なく。
この後、いきなりキッスされたりして、それこそ失神寸前になります。
いーなー、坂井・・・。