摺り寄せた鼻先の冷たさに、下村は擽ったそうに目を細めて肩を竦めた。
 それがなんだか可愛い素振りで、坂井はいっそこのまま朝など来なければ、といつも思う。
 頬を寄せた下村の首が、朝方の空気の冷たさに少し染まって、寒そうなうなじまでもが伸ばした指先に冷たく凍えた。
 寄り添うように毛布に包まって、それでも自分より随分冷たい体が気に入らなくて、強く引き寄せる手を背中に這わ
す。特にそれに逆らう様子もなく、下村は猫のように首を竦めてやり過ごす。
 そんな風な触れあいを、見方によっては幼いような仕種さえ、坂井にとっては何よりも胸をざわざわと波立たせた。
 ただ単純に、それを情愛と取っていいのか、それともただの本能のなせる業なのか。正直なところよく分からなかった
けれど、それでもこんな風な触れ合いを、見方によっては幼いような仕種さえ、坂井にとってはあまねく全ての愛しい言
葉を捧げて余りあるのに他ならないと思うのだった。





















 まるで子犬の擦り寄る幼さで、坂井が首元に頬を寄せるので、ポツリと冷たい鼻先が下村を微笑ませた。
 そのままに擦り寄る体や背に回された腕にうっとりと目を閉じて、再び寄せられる冷たい頬に首を竦める。
 坂井はこんな風に、いつも何かを確かめる様、稚拙な仕種を繰り返す。
 それを同じように返してやらない事もなく、同じような愛しい気持ちで返しながら、ああ、このまま朝など来なければ、と
いつも思う。
 あるいは、坂井の求める触れ合いが、下村の思うようなものでなく、もっと単純な接触に過ぎないのではないかと思う
時もたまにある。
 それでも結局は流されるままに触れ合ってはお互いを確かめあって、気がつけば夜明けに追い越された。 
 明け始めの朝の空気はまだ冷たく、凍えたままの体は温まった坂井のそれを求めたけれど、果たしてそれは情愛で
あるのか、本能であるのかを図りかね、それでも今思いつくままの言葉に間違いはないのだと思うのだった。