スキといって 「好きなのか?」 言葉は疑問形に語尾を上げた。それでもそれは問いかけではない。 既にその目が裏切っている。 「好きなんだろう」 今度こそ本当に断言する口元に、噛み跡の残ったタバコが吸い込まれれる。それを黙って見据えて、どうしてこんな問いかけを今、ここで受けて いるのだろうかと考えた。 「深く考えるなよ」 まるで見透かすような声に、むっと眉を顰めても面白がられるだけだった。 「好きなら好きで、悪いことじゃないだろう」 だから、何を言わせたいのだ。咄嗟に言い募りそうになって慌てて口元を引き結んだ。 問いかけでもないというのなら、一体何を答えろと言うのだ。この男は。 目の前でゆっくりと煙を吐き出し、緩慢な動作で足を組みかえるのをじっと見つめながら、小さく息を吐いた。 「案外、照れ屋なんだな」 全く見当はずれなことばかりを繰り出してくるので、今度こそ溜息が漏れた。それをやはり楽しそうに眺める目が気に入らずに睨むと、おお怖い、 と肩を竦めた。 「悪いことじゃない」 笑い顔が、薄ら寒い上の空さで隠される。曖昧な言葉や態度を後悔しているの様には見えないのに、それでもこの男は自分の言葉を後悔してい るのだ。 「そうですね。悪いことじゃない」 「そうだな」 漸く答えた言葉は、予想通りであったのかそうでないのか。どちらにしろ気に入らない素振りで首を少し横に振った。 「その相手が、俺ならな」 「思ってもないことを」 「酷いな」 くくっと鼻先で笑って、忙しない様子で頬の辺りを手のひらで擦った。その言葉ほどに余裕のない様子が、可笑しかった。 「笑うなよ」 「可愛いことを言わないで下さいよ。・・・絆されそうになる」 それに一瞬、困ったような顔をする。こんな風に言われたら、どうしていいのか分からないのだ。 「じゃあ、絆されろよ」 そのくせ強がるのが可笑しくて、やっぱり笑ってしまった。 終 |