控え室の奥から、争うような物音が微かに耳に届いた。 なんだろうか。 店はとっくの昔に閉店し、表の扉は既に厳重な錠が下りている。裏口はずっと付近で自分が掃除をしていたから誰か 部外者が入り込む余地はない。 裏口の扉をそっと閉め、控え室の前まで足を忍ばせた。中からは時折ガシャンとロッカーの金属音や、小声で何事か 早口にまくし立てる声が聞こえる。 ドアノブに手を伸ばし、暫し躊躇する。 果たして、この扉を開けて良いものかどうか。 店はとっくの昔に閉店し、表の扉には既に厳重な錠が下りている。裏口付近には自分が居り、店内には既に…坂井 と下村しか残ってはいないはずだった。 …止めておこう。 ノブにおいていた手を離し、気配を殺してため息をつく。何時の間に争う気配は消えて、扉の向こう側はしんと静まり 返っている。 「高岸」 その時、不意に扉の向こうから声が掛けられた。それにびくりと肩を竦める。 坂井の声だった。 「…はい」 どう反応してよいのか迷い、大人しく返事を返す。 扉の向こうは、しんとしたままだ。 「戸締り、お願いしてもいいですか?」 不穏な空気が扉の向こうで漂い始めたのを察して、慌てて早口で取り繕った。 「…ああ」 今度は下村の声が返る。それと同時に、がたりとまた金属音がした。 「それじゃあ、お先に失礼します」 「…お疲れ様」 低く、地を這うテノールは坂井だ。その声に見えないと分かっていながらも一礼を返し、扉から背を向ける。 再び、扉の向こうからは争うような音が聞こえたが、あえて無視した。 終 ブラデ日記(改)その弐。 高岸君少し学習した様子。 先生もあの世でホロリ。(不謹慎) |